ラジオといえば、パーソナリティの歯に衣着せぬトークが大きな魅力のひとつだが、それに負けないおもしろさを発揮しているのがコーナーである。リスナーから届く投稿によって、しゃべり手だけでは生み出せない化学反応が起こり、番組を予想もつかない方向に連れていってくれる。
常連投稿者は「ハガキ職人」(今ならメール職人)と呼ばれる。『ビートたけしのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)から生まれた言葉だが、当時は「ハガキ作家」という言い方もされていた。「職人」や「作家」という単語からもわかるように、投稿者は番組の重要な部分を担う作り手でもあるのだ。ネタコーナー全開の芸人ラジオはもちろんのこと、一般層向けのワイド番組でも、リスナーからのツッコミや近況報告、人生相談などは大事な構成要素のひとつで、ラジオから切っても切り離せない。
番組と投稿者の不思議な共犯関係によって、ラジオ界では日々さまざまな出来事が発生しているが、時には行き過ぎた珍事につながることもある。『深夜のラジオっ子』(筑摩書房)などの著者である村上謙三久氏が、そんな過剰な投稿企画を独断と偏見で3つピックアップ。初回は、『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)シリーズで最も多く行われた企画「アーティストの乱」を紹介する。
『アルピーANN』伝説の企画「アーティストの乱」
“共犯関係”という言葉が最も相応しいラジオ番組は『アルコ&ピースのオールナイトニッポン』シリーズではないだろうか。深夜帯で2013年4月から2016年3月まで3年間放送。いまだに伝説として語られている。
平子祐希と酒井健太が生み出す番組の魅力を語り出したらキリがないが、特に大きな要素は“茶番”と呼ばれるコント仕立ての展開だ。映画や世の出来事をモチーフにして毎週テーマを定め、リスナーからリアルタイムで送られてくるメールによって、番組の方向性が刻一刻と変化していく。時にはオチがつかずに大失敗に終わることも。当時この番組を取材した際、記事のタイトルに「リスナーと心中する男たち」とつけたが、ここまでリスナーに命運を託した番組は過去類を見ないし、今後も生まれないだろう。
3年間の歴史において、最も多く行われた企画は「アーティストの乱」。番組内での紹介を拝借すると「CDの売り上げやライブの動員数、歌唱力など一切関係なく、アーティストが殴り合いのケンカでぶつかり合って、誰が一番強いのかをハッキリさせる戦(いくさ)」であり、リスナーからその戦況報告を募集するという内容である。季節ごとに行われ、休止期間を挟んで、合計9回開催された。
タイムフリー機能がない時代の“真夜中の秘め事”
ここまで読んで、一部のラジオ好き以外は意味不明に感じるだろうが、その反応は至極まっとうだ。あくまでアルコ&ピースとリスナーが真夜中に妄想し合ってニヤニヤする企画。当時まだradikoのタイムフリー機能は実装されておらず、平日の深夜3時(1年間は1時)に起きていたリスナーだけが参加できる閉ざされた空間での出来事だった。
ケンカ最強の呼び声高いゆず・岩沢厚治(実際に空手&柔道経験者)、メンバー個人の活躍も目立つ湘南乃風とDragon Ash、毎回冒頭で名曲「LIFE」が流れるけれど、ザコキャラ扱いのキマグレン、争いを止めようと奔走するファンキー加藤……といった感じで、回を重ねるごとに常連出場者のキャラクターが勝手に決まっていった。今ならそれぞれのファンに見つかり炎上しかねない気がするが、当時はタイムフリー機能もなく、真夜中の秘め事として話題にならなかった。ファンの方にはあくまで過去の出来事としてご容赦願いたい。
誰しも「そんな企画、収拾がつかないのでは?」と想像するだろうが、実際に毎回大混乱に陥った。スタッフサイドは内容の方向性をある程度予想し、準備していたと想像されるが、参戦メンバーが限定されているわけでもなく、最後に誰かが歌を歌って締めるというかたちがなんとなく決まっているだけ。ホラ貝の音と共に戦いが幕開けすると、リスナーたちはおもしろさを感じた瞬間、流れを無視して好き勝手に突き進み、毎回話があらぬ方向に二転三転して混乱していた。
2013年7月に行われた初回(「夏歌アーティストの乱」)から、たくさんのアーティストの名前が飛び交い、アルコ&ピースは交通整理をするのが精一杯。戦乱は解決の糸口すら見つからず、最終的に「森山直太朗が夏の終わりを宣言した」というメールで強引にオチをつけ、「夏の終わり」が流された。
各回の内容を細かく説明すると、何万字もかかってしまうので割愛するが、その後はさらに内容がエスカレートしていく。
「リバイアサンやサラマンダーなどが出現したが、NoGoDがすべての神獣を否定して乱を収める」(2013年10月)
「スキー場あるあるばかりが集まって戦いが起きず、岩沢の淡い恋物語でオチをつけようとするも失敗。まったく関係ない『GACKTさんが自家用スノーモービルを乗り回して、女をキャーキャー言わせています』という報告で無理やりに終わらせる」(2014年1月)
「またも戦いが始まらず、LMFAOの『Shots』で異常に盛り上がり、企画を途中で変更。リスナーに生電話で歌の一節である『エビバーディ!』を叫ばせる“さよなら小さな悩み 第1回エビバーディ選手権”が開催される。その後、このシャウトが番組イベントなどで恒例化」(2014年3月)
「Dragon AshのBOTS、松たか子、さらにサメと松方弘樹が合体して、“サメ方松BOTS弘樹”が爆誕。収拾がつかなくなり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONが『リライト』を使って初期状態に戻す」(2014年8月)
「日光を舞台に、動物に関わりのあるFUNKY MONKEY BABY’S、MONKEY MAJIK、THE YELLOW MONKEY、MAN WITH A MISSIONといったアーティストたちが奮闘。最後にいきものがかりの吉岡聖恵が指を立てると、みんな集合し、仲よく手をつないでキャンプファイヤーをして大団円」(2014年10月)
「ゆず・岩沢が代表メンバーを連れてアメリカに殴り込み、米国アーティストと対抗戦。レジェンドアーティストの乱入が相次いで混乱に陥り、最後はETが全員を自転車に乗せて、月へと旅立つ」(2015年1月)
「オープニングトークで蛇の毒を無毒化できる血液を持つ小動物・オポッサムが取り上げられると、この話題中心に。Dragon AshのKjが放し飼いにしていた毒蛇に湘南乃風のHAN-KUNが噛まれてしまう。争いそっちのけでアーティストたちが解毒に向けて動き出し、スピッツの草野マサムネが毒消し草を、ファンキー加藤がオポッサムをそれぞれ見つけ、血清が完成。HAN-KUNは救われたが、オチがつかない。最終的に“アーティストの乱は続いてく。アーティストの乱は終わらない”というメッセージを込めて、Dragon Ashの『Life goes on』が流される」(2015年3月)
2016年3月24日、番組最終回で復活するも……
毎回反省点が多く、封印の話も何度か出たが、なぜか番組にとって大事なタイミングで行われた。2015年8月にいったん終了を迎えるが、番組最終回となる2016年3月24日に突如として復活。名物企画で大団円を迎えると思いきや、そんな予想は見事に裏切られた。
番組のオープニングテーマ曲の「Stereoman」(ELLEGARDEN)がフィーチャーされ、戦いにステレオマン(イメージは映画泥棒)が参戦。悪ノリしたリスナーにより、アーティストと関係ないモノラルマン、CDマン、5.1chマン、ポコチンマン、お味噌汁ごくごくマンなどが次々と登場し、例によって収拾がつかず、最後は酒井が強引にキマグレンの「LIFE」をかけて終了に。最終回という感傷的なムードをぶち壊しにし、この番組らしい爆散を遂げた。
その後、アルコ&ピースはTBSラジオを中心にラジオ界で活躍をつづけているが、オールナイトニッポンの復活を希望する声はいまだに根強く、これから5年、10年と経っても消えないだろう。それぐらいリスナーとの強い共犯関係を生んだ番組だった。もし仮に復活したとしたら、高確率で「アーティストの乱」が行われる予感がする。
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次回は、『囲碁将棋の情熱スリーポイント』で実現したハガキ職人の“究極の夢”を紹介する。
【関連】アルコ&ピースのネタを「おもしろい」と同時に「怖い」と感じる理由
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