HKT48・田中美久の視線は、特定の誰かに向けられていない。ファンとの信頼の証を『1/2少女』の瞳に見る

2022.3.2
田中美久サムネ

HKT48・田中美久の瞳には、駆け引きがない。真っすぐに見つめるその先に、ファンへの信頼が見えた。「そんな彼女のファンがうらやましくなる」と、アイドルを愛するライター・むらたえりか(乃木坂46・与田祐希写真集レビューなど)が、『田中美久1st写真集 1/2少女』(2021年9月発売)を開き、魅力に迫る。

こんなにも目を惹く存在だったか

田中美久の成長は急展開だ。

彼女の1st写真集『1/2少女』(双葉社)は、制服姿の写真から始まる。
白いブラウスの首元には、紺色のひもリボンが左右対称に行儀よく結ばれている。
低い位置のポニーテールの結び目に向かって整えられた髪の毛は、彼女のまあるい頭の形に沿って弧を描く。
淡い色のリュックサックを背負い、足元には白い靴下と白いスニーカー。
飾り気のない制服姿、だからこそ田中美久そのものがこんなにも目を惹く存在だったかと気づく。

路面電車に乗って海に着けば、白い水着姿となり彼女はまだ少し幼い雰囲気でぎこちなく笑う。
そしてもう一度ブラウスに袖を通したとき、濡れた髪の毛を頬や首にまとわせて初めて潤んだ瞳の大人な表情を見せる。

ここまでがまだ16ページ。写真集の序盤だけで、田中美久はどんどん表情を変化させていく。

『HKT48 田中美久1st写真集 「1/2少女」 Amazon限定オリジナルカバーVer.』細居幸次郎/双葉社
『HKT48 田中美久1st写真集 「1/2少女」 Amazon限定オリジナルカバーVer.』細居幸次郎/双葉社

駆け引きのない真っすぐな田中美久の瞳

2021年9月に発売されたHKT48・田中美久の初めての写真集『1/2少女』。10代の終わりに出した念願の写真集だという。12歳でHKT48に加入し、8年間活動をつづけてきた彼女にとって、10代で写真集を出すことは大きな目標のひとつであり、ファンとの大切な約束だった。

だからだろうか、写真集の中の田中美久の視線は、誰かひとりに向けられている感じがしない。女性アイドルの写真集には、見る側を「恋人」や「好きなひと」など特定の誰かだと設定したコンセプトのものも多い。それはたとえば、潤んだ瞳での上目遣いや、本人も気がつかないようなふとした瞬間を切り取る写真などで表現される。

けれど、『1/2少女』での田中美久の目は、お風呂や寝起きなどプライベート感のあるシーンでもあまりにも真っすぐだ。駆け引きのない、その一枚一枚の写真を楽しみ尽くそうとしている大きな瞳は、正面からたっぷりと光を取り込んで目の中も縁までもキラキラと光る。写真であるにもかかわらず、彼女が瞬きをするたびに消えては現れる光の粒の様子まで想像できるようである。

その光は、HKT48のエースとしてステージに立つ彼女の姿や、握手会などでファンを真っすぐに見つめる彼女の姿まで想起させる。特定の誰かの恋人ではない、アイドル・田中美久としての写真集。彼女は、一人ひとりのファンのことを思いながら撮影に臨んでくれたのではないか。そう思わせてくれる、真っすぐ過ぎる一冊になっている。

田中美久はHKT48を支える大きな柱

田中美久を初めて知ったとき、彼女のそばにはHKT48メンバーの矢吹奈子がいた。幼くかわいらしく仲のよいふたりを合わせて「なこみく」と呼ばれる。双子のようにいつもそばにいるふたりを見ていると、モーニング娘。の「辻加護」の再来のように見え、ふたりの活躍に大きな期待をした。

しかし、矢吹奈子は2017年に韓国のオーディション番組『PRODUCE 48』に参加。2018年から2年半はアイドルグループIZ*ONE(アイズワン)のメンバーとして主に韓国で活動することになる。彼女の渡韓が決まったとき、一番に思ったのは「残された田中美久はどうなるんだろう」ということだった。

「残された田中美久」というのは、完全にわたしの失礼な杞憂であった。矢吹奈子がIZ*ONEとして活動している間にも、田中美久は楽曲で選抜メンバーに入りつづけ、シングル『君とどこかへ行きたい』(2021年5月発売)ではセンターポジションを務めた。2020年、2021年には、ソロコンサート『みんなで一緒にみくもんもん』『もっと!みんなで一緒にみくもんもん』を開催している。田中美久は残されたのではない。個人としてもグループの一員としても、HKT48で活躍しその場所を守りつづけてきた功労者である。

「なこみく」を初めて見たときの「赤ちゃんみたい」という幼過ぎる印象から、いつの間にか田中美久はグループを支える大きな柱となっていた。

【MV】生意気リップス [なこみく] (Short ver.) / HKT48 [公式]

どんな姿も見せられるファンとの信頼関係

印象的な二枚の写真がある。どちらも、彼女が空を見上げている写真だ。

一枚は、グレーのタックトップにネイビーのショートパンツを合わせた、海岸でのショット。風に吹かれる髪の毛を両手で押さえて、空を見上げている。大きく息を吸った胸の膨らみ、健康的な薄いお腹、反らした背中と腰の曲線、そしてお尻まで、タンクトップの布地が身体のラインをきれいに包む。天気はよいとはいえない日で、その衣装も寒そうに見える。それにもかかわらず、その姿と表情にのびのびとした開放感があり、とても気持ちよさそうなのだ。

もう一枚は、白いワンピースを着た彼女が自然の中で空を見上げている写真。笑顔で立つ彼女を、カメラはずいぶんと下から煽って撮っている。鼻や顎を下から撮られることを嫌う女性は多いと思う。だが、田中美久は目を細めて口を大きく開き、この写真集の中でも一、二を争うほどの自然体の笑顔を見せている。この写真を見せてもいい、見せたいと、ファンは思われているのだろう。信頼されている彼女のファンたちがうらやましくなる。

仕事だからとか、誰かに言われたからではない。田中美久の写真集は、彼女自身が自分の意思で望み、ファンとの約束を守るかたちで出された信頼の写真集だ。HKT48の活動や写真集、グラビアの撮影は彼女にとってのびのびできる場所であり、また一人ひとりのファンへの信頼の証でもあるのだと思う。

『君とどこかへ行きたい』 [劇場盤Type-A]ユニバーサル ミュージック合同会社
『君とどこかへ行きたい』 [劇場盤Type-A]/ユニバーサル ミュージック合同会社

写真集出版以降、漫画雑誌や週刊誌などの表紙を彼女のグラビア写真が飾るのをよく見るようになった。今年に入って、2月には『アップトゥボーイ vol.312』(ワニブックス)、『グラビアザテレビジョン vol.59』(KADOKAWA)の表紙、巻頭グラビアを務めてた。『FLASHスペシャル グラビアBEST 2022年早春号』(光文社)では「ショートボブの女神さま」として裏表紙を飾り、3月には『漫画アクション』(双葉社)の表紙掲載が控える。

グループやファンの中だけではなく、さらに広い世界から田中美久が求められている。いつの間にか成長した彼女は、グラビア業界にとって欠かせないひとりになっていた。この1st写真集は、これまでとこれからの彼女の活動を見ていく上で欠かせない、大切なマイルストーンである。

『田中美久1st写真集 1/2少女』 細居幸次郎/双葉社
『田中美久1st写真集 1/2少女』細居幸次郎/双葉社

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