和楽器バンド『大新年会』に込めた想い「私たちはエンタテインメントを止めずに届けつづける」

2022.1.24

「千本桜」に込められた想い

MCを経た後半の序盤は、セッションやドラムバトルを交えたエンタメステージといった印象だ。「細雪」では、空から雪がゆらゆらり。スクリーンの映像はモノクロに転じ、まるで舞台に雪が降り積もっていくかのように映し出される。「Eclipse」ではスモークが朱に色づき、さながら炎のように瞬いた。

そして、目玉のひとつであるメンバー同士のセッションコーナーへ。風音のような神永の尺八といぶくろ聖志による可憐な箏、黒流の和太鼓が舞い遊ぶ「Nine Gates」、歯切れのいい山葵のドラムに乗せて鈴華が天女のように舞い踊る「嶺上開花」、オリエンタルなサウンドと日本的なメロディラインが交わる町屋＆蜷川による「河底撈魚」。三組三様の楽曲が、八奏とは違った和楽器バンドの個性を描き出した。

8人が再びステージへ集結すると、黒流の「今年10周年になるこの曲！」という紹介と共に「吉原ラメント」が投下された。この曲は撮影OKとのこともあり、メンバーのパフォーマンスも一段と冴え渡る。蒼い和傘を持ち出した鈴華が華麗な舞いを見せ、亜沙（Ba）と町屋は背中合わせになって演奏し、神永と蜷川は花魁道中のようにステージ袖を練り歩いた。

いよいよライブは、ラストスパートへ。山葵＆黒流の最大の見せ場と言っても過言ではない「ドラム和太鼓バトル」の幕が切って落とされた。山葵が「やってきました、このバトル！」と気合いを入れれば、黒流は「皆さんでひとつの大きなリズム、そして渦を作っていきましょう！」と会場を焚きつける。ふたりの熱にほだされたかのように、オーディエンスが刻むハリセンの音量も次第にヒートアップ。さらに特大の大太鼓も登場し、上半身裸になったふたりが前後から打突。怒涛の勢いのままこのバトルを駆け抜けていった。

再度集合した8人は「この熱を冷ますまい」とでもいうかのように、「名作ジャーニー」「セツナトリップ」と最後の追い込みをかけていく。本編ラストを飾ったのは、彼らの十八番である「千本桜」。＜その光線銃で打ち抜いて＞と発射された銀テープには、“日常の復活”という祈りが込められているようにも感じた。最後には特大の音玉が会場中に鳴り響き、アベンジャーズ感あふれるパフォーマンスでオーディエンスを魅了して、和楽器バンドの8人はステージをあとにした。

「未来っていうのは、今の連続でできている」

コロナ禍のライブで定番となった「暁ノ糸」の歌唱音声が日本武道館を包み込むなかステージへと呼び戻された鈴華は、胸中に抱えていた想いを真摯に、そして力強く話した。

「私たちの未来っていうのは、今の連続でできていると思っているので、この瞬間が最高に幸せであると思えたら、それが大きくなって結果として大きな幸せになるんじゃないかと思っています。ストレスの多いこんな時代なんですけど、私たちがエンタテインメントを止めずに届けつづけるので、今を最高のものにするために、今を楽しく生き抜いていきましょう。楽しい時を一緒に重ねていければと思いますので、変わらずに応援よろしくお願いいたします」

そして、アンコールでは「六兆年と一夜物語」と「暁ノ糸」の2曲が披露され、会場を包み込む温かい拍手と共に『八奏見聞録』は大団円を迎えた。

＊

環境や時代が変わっていくなかでも、「伝統芸能をよりポップに世界へ広げたい」という想いを持ちつづけてきた和楽器バンド。バンドの存在を世に広めるきっかけとなったボーカロイドのナンバーにも変わらぬ愛情を注ぎ、新しい楽曲にも今の想いを丁寧に詰めていく。そういった過程を繰り返してきたからこそ、彼らは老若男女に愛されるチームへと育ったのだろう。

見聞きしたものを記録として残してこそ、見聞録は見聞録として事を成す。和楽器バンドがデビュー満8年を目前にその前哨戦ともいえるライブをしたことを、多くの人が語り継いでこそ真の意味で『和楽器バンド大新年会2022 日本武道館～八奏見聞録～』は完成するのかもしれない。

『和楽器バンド大新年会2022 日本武道館～八奏見聞録～』セットリスト
0.Overture～八奏見聞録～
1.戦-ikusa-
2.白斑
3.情景エフェクター
4.起死回生
5.オキノタユウ
6.シンクロニシティ
7.Starlight
8.細雪
9.Eclipse
10.Nine Gates
11.嶺上開花
12.河底撈魚
13.吉原ラメント
14.ドラム和太鼓バトル月打～GACHIUCHI～
15.名作ジャーニー
16.セツナトリップ
17.千本桜
──アンコール──
18.六兆年と一夜物語
19.暁ノ糸