観てきた!『劇場版 呪術廻戦 0』は「里香ちゃん廻戦」だ。歯演出にMAPPAの本気を見た

2021.12.28
呪術廻戦サムネ

文=さわだ 編集=アライユキコ


『呪術廻戦』(集英社『週刊少年ジャンプ』連載)の全巻レビュー連載中の『ジャンプ』大好きライター・さわだが、12月24日に公開した『劇場版 呪術廻戦 0』を観てきた。原作を知らなくても知ってても存分に楽しめる傑作だった、さっそくレビューをどうぞ!(ネタバレは必要最小限に留めました)。

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里香ちゃん廻戦だ!

クリスマスイブに公開された『劇場版 呪術廻戦 0』。初日で動員100万人が見込まれるなど、人出もすごかったが、内容もすごかった。『進撃の巨人』『ドロヘドロ』などを手がけたアニメ制作会社MAPPAの本気を見た。

ストーリー的には、原作である本編の前日譚『呪術廻戦』0巻からそれほどつけ加えされてはいない。しかし、映像美、バトルの迫力、音など、一つひとつが高クオリティで、おそらくほとんどの原作ファンが納得のいく作品となったはずだ。特に主人公・乙骨憂太(おっこつ・ゆうた)に取り憑く、特級過呪怨霊(とっきゅうかじゅおんりょう)の里香ちゃんこと祈本里香はすごかった。

『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社
劇場版の原作『呪術廻戦』<0巻>芥見下々/集英社

里香ちゃんと乙骨は、幼少期に結婚を約束する関係だった。しかし、里香ちゃんは乙骨の目の前で事故死したことで、乙骨を守る呪いとなる。本編の虎杖悠仁(いたどり・ゆうじ)と両面宿儺(りょうめんすくな)と似た関係だが、決定的に違うのは、本来の里香ちゃんが素直なよい子ということ。それだけに凶悪な姿の里香ちゃんが悲しい。

一番最初に登場した化け物は、里香ちゃんだった。乙骨をイジメようとした同級生4人を掃除ロッカーに詰め込み、学校の校舎ほどの大きさの呪霊を弄ぶようにいたぶる。凶暴性やまがまがしい姿からは、理性のカケラも感じられない。事前情報がゼロの人は、ただの悪霊だと勘違いしても仕方ないほどおどろおどろしかった。

自分のために人を傷つける里香ちゃん。乙骨は、里香ちゃんにかけれらた呪いを解こうと決意する。回想から生前の里香ちゃんの姿が明らかになったり、両親を亡くした過去などが明らかになってくると、里香ちゃんに人間味が滲んでくる。恐ろしい呻き声は、悲しみを抱える少女の泣き声に聞こえてくる。冗談抜きで、この醜い化け物がかわいく見えてくるのだ。もはや愛おしくて仕方ない。

今作は里香ちゃんをめぐる愛の物語だ。もはや里香ちゃん廻戦、美少女・里香ちゃんと化け物・里香ちゃんにどれだけギャップが作れるか? その上でちゃんと同一人物に見えるのか? この難題を見事にクリアした作画・演出と、ふたつの声を演じ切った花澤香菜の功績は大きい。

劇場版の乙骨憂太と祈本里香が表紙になった『MORE 2022年2月号増刊 呪術廻戦版』集英社
劇場版の乙骨憂太と祈本里香が表紙になった『MORE 2022年2月号増刊 呪術廻戦版』集英社

敵意、悪意、殺意は歯に

かなり原作に沿った映像化だったといえる。ひとコマふたコマを鮮やかなアニメーションにするだけでなく、丁寧に意味を深掘りする。息もつかせぬ迫力のバトルシーンになったり、重い足取りで乙骨の憂鬱な気持ちを表現したりする。

中でも口だ。キャラクターがしゃべる際に口元がアップされるのはアニメにおいてよくある手法だが、それが顕著だった。敵意、悪意、殺意があふれるシーンは決まって口元、特に歯にスポットが当たった。

呪詛師(悪の呪術師)の親玉である夏油傑(げとう・すぐる)の言葉は、特殊な思想と悪意に満ちたものが多く、アップになるのは歯だ。乙骨に初めて芽生えた殺意のシーンも、歯が力強く描かれた。顔面の半分が歯の里香ちゃんは当然、呪言師(言葉で呪いをかける呪術師)の狗巻棘(いぬまき・とげ)の「捻れろ」「潰れろ」ももちろん歯のアップだ。敵に感情をぶつける際に口元を強調したのは、呪いが言葉から生まれやすいからだろう。敵意、悪意、殺意を歯で表現したのは、原作にはない手法だった。

と、いうことに強く感心しながら観ていたのだが、ラストの乙骨&里香ちゃんvs夏油のとあるワンシーンですべてひっくり返る。ネタバレになるので言わないが、歯の演出は、もともと原作にある大事な大事なひとコマのためのフリだったのだ。ストーリーを全部知った上で裏をかかれるなんて思ってもみなかった。

『劇場版 呪術廻戦 0』劇場パンフレットを購入
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原作にはない、あの呪詛師のバトルシーンも

ファンサービスのようなシーンもたくさんあった。終盤、夏油によって新宿と京都で仕掛けられた百鬼夜行では、七海建人(ななみ・けんと)、冥冥(めいめい)、猪野琢真(いの・たくま)、日下部篤也(くさかべ・あつや)など、原作では見られなかったバトルシーンが追加された。中でも一番話題になりそうなのが、アフリカ出身の呪詛師・ミゲルだ。

ミゲルは本編では乙骨と一緒に扉絵のみで登場し、アニメのオープニングでも乙骨との2ショットが一瞬写り込んでいる。登場回数こそ少ないが、ミゲルは乙骨の成長のカギを握る重要人物としてファンの間で噂されていた。

入場特典「0.5巻」ゲット!芥見下々の初期ネームなどを堪能
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今作では、そんなミゲルと作中最強の五条悟(ごじょう・さとる)のバトルが描かれた。術式こそ明らかにならなかったが、祖国の呪術師が何十年もかけて編んだという縄をスパイダーマンの糸のように扱って五条と渡り合う。あの五条を10分間も足止めしたのだ。

「0.5巻」裏表紙
「0.5巻」裏表紙

ほかにも、乙骨とミゲルと五条の意味ありげなシーンもあった。正直僕ではここから考察を導き出すことはできなかったが、製作側からの「つづきはまた今度」というメッセージはハッキリと伝わった。内容そのものも大満足だったが、連載中の本編もさらに楽しみになる映画だった。

『劇場版 呪術廻戦 0』予告|12月24日(金)公開/主題歌:King Gnu 「一途」

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