堕姫は長男長女の愛憎を一身に受ける「妹キャラ」
ともに戦いときに兄を守る禰豆子よりも、兄に守られかわいがられる堕姫を「いいなあ」とうらやましく感じる読者もいるのではないか、とわたしは思う。わたしがそのひとりだからだ。
炭治郎の有名なセリフのひとつに「俺は長男だから 我慢できたけど 次男だったら 我慢できなかった」(『「鬼滅の刃」3巻「己を鼓舞せよ」』)がある。舞台である大正時代の古い長男・長子の在り方であるとして過去の価値観だと解釈したり、笑いどころとして見る読者もいるが、姉弟の長子・長女であるわたし自身はこのセリフにとても共感した。子供のころのみならず、大人になり働きはじめてからも、つらくて挫けそうなときに「わたしはお姉ちゃんだからがんばれる」と自分を鼓舞してきた時期が長かったのだ。
妹、弟たちにも彼らなりの苦労や気遣いがあると頭ではわかっていても「お姉ちゃんだから」と立ち上がることの多かった人生で、彼らをうらやんでしまう場面も少なくなかった。そんなわたしから見ると、頚(くび)を切られて大粒の涙をボロボロと落とし、わんわん泣きじゃくり、死に直面するときにまで悪態を吐いて兄に甘える堕姫はかわいらしい妹である。我慢つづきだった長子から見てみると、自分もこう生きてみたかった、妓夫太郎のようなお兄ちゃんが欲しかったと思わせてくれる。うらやましくも愛らしいという長子の複雑な愛情を受け止めてくれる「妹キャラ」なのだ。
もしかしたら、堕姫のこのチャームポイントは子供たちにはまだ伝わらないかもしれない。鬼殺隊として一緒に戦う禰豆子が好きで憧れる子供のほうが圧倒的に多いだろう。もしそうだとしても、いつか堕姫のかわいらしさが伝わってほしいと思う。
2021年に『少年ジャンプ+』にて行われた『MILLION TAG(ミリオンタッグ)』という漫画家発掘オーディション番組がある。編集者と新人漫画家がタッグを組み、デビューを目指して競い合う企画だ。審査員には編集長らのほか、『チェンソーマン』の藤本タツキや『地獄楽』の賀来ゆうじも参加している。その審査の場でよく言われていた批評のひとつが「敵キャラクターに愛があるかどうか」だった。おそらくその視点は『少年ジャンプ+』に限らず、『鬼滅の刃』が連載されていた『週刊少年ジャンプ』でも重視されていることだろう。
妓夫太郎・堕姫もまた、作者の吾峠呼世晴に愛を注がれたキャラクターであることは、彼らの物語の結末を見ればわかる。兄妹共闘の炭治郎・禰豆子が彼らの関係を否定せず、ただ兄妹が仲よく在ることを願ってくれるのが切なくも優しい。「那田蜘蛛山編」では累たちを本当の家族ではないと否定した炭治郎の成長ともいえるかもしれない。
9月25日(土)にテレビ初放送された劇場版『「鬼滅の刃」無限列車編』について、SNSでの感想を見た。初見の大人たちの感想のなかには「何でもセリフで説明し過ぎているのではないか」「彼らがどういうひとなのかよくわからなかった」というものもあった。わたしも劇場で観たときは気にならなかった説明的なセリフやがなり声の多さが、テレビで観ると気になるものだなあと気づいた部分があった。
大ヒットしたアニメだけに、普段アニメを観ないけれど「遊郭編」は観るというひとも多いかもしれない。一方で、以前から鬼滅のアニメを観ていた子供たちも楽しみにしているはず。視聴者層の広い作品は「どこまでセリフで語るか、どこまで画で語るか」のバランスがきっと難しいことだろう。原作ファンとしては、吾峠呼世晴が大切にしてきたキャラクターたちの魅力を、ぜひ余すところなく伝えてほしいと思っている。今夜の「遊郭編」第2話放送、堕姫の登場が楽しみだ。
※煉獄杏寿郎の「煉」のつくりは正しくは「東」。本記事では環境による文字化けなどを避けるため「煉」を使用
※竈門禰豆子の「禰」は正しくは「ネ」+「爾」。本記事では環境による文字化けなどを避けるため「禰」を使用
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