12月1日決定「新語・流行語大賞」ノミネート30語に物申す「なぜこの語が入らない?」

2021.11.30


【スポーツ】部門

歴代の授賞語のなかでもスポーツ関連の言葉は多い。スポーツは世代などに関係なく人々が共通の話題にしやすいからだろう。1998年以降は毎年何かしらスポーツ界から授賞語が出たが、昨年はノミネートも含め久々になかった。それというのも、コロナ禍でリーグや大会がことごとく中止や縮小を余儀なくされたのだから仕方がない。

それが今年はノミネート30語のうち11がスポーツ関連となった。内訳は東京オリンピック・パラリンピック関連が9、そして米メジャーリーグで活躍した大谷翔平関連が2である。

ただ、東京五輪にまつわる言葉がどれも印象薄で、いまひとつピンと来ない。過去の授賞語を振り返れば、オリンピック関連で選ばれたのは、1996年のアトランタ五輪の有森裕子(マラソン)の「自分で自分をほめたい」や2004年のアテネ五輪北島康介(競泳)の「チョー気持ちいい」など大半が選手の発言である。それが今回はひとつもノミネートされなかった。印象が薄いのはそのあたりにも原因があるのだろう。

ついでにいえば、今年は東京五輪と大谷の活躍以外にも、ゴルフのマスターズ・トーナメントで日本人初となる松山英樹の優勝、「平成の怪物」松坂大輔や横綱の白鵬ら一時代を築いたアスリートの引退など、スポーツ界で画期となる出来事があいついだ。それにもかかわらず、多くの人の記憶に残るような言葉はほとんど出なかったのではないか。

マスターズではむしろ、実況中継を担当したTBSの小笠原亘アナウンサーが、松山の優勝が決まるや感極まって55秒間沈黙したことのほうが印象に残っていたりする。アナウンサーが実況中に泣くのはご法度とはいえ、この件にかぎっては、ゴルフの世界4大メジャー大会のひとつであるマスターズで日本人が優勝することの重さを伝えるに十分であった。

最近のトップアスリートには、大谷翔平にしてもそうだが、饒舌というよりは不言実行のタイプが目立つ。テニスの大坂なおみも、社会に向けてメッセージを積極的に発信する一方で、マスコミの好むような発言をするタイプではない。今年の全仏オープンで「選手の精神状態が無視されている」との理由で記者会見を拒否したことは、彼女とメディア側の齟齬を改めて浮き彫りにした。

若い世代のアスリートたちとは対照的に、饒舌さで話題をさらったのが、日本ハムの新監督に就任した新庄剛志である。就任会見では自分を監督とは呼ばないでほしいと、代わりに希望した呼称「ビッグボス」は、さっそくスポーツ紙に頻出するなど浸透しつつある。

新語・流行語大賞には、ちょうど記者会見がノミネート語発表の日と重なったため(11月4日)、ギリギリで間に合わなかった。それでも、ひょっとすると選考委員特別賞など別枠に滑り込ませるか、あるいは来年、成績次第で授賞する可能性は考えられる。

【政治】部門

見事に選から漏れたのが政治関連の言葉である。自民党総裁選や衆院選など大きなトピックがつづいたが、たしかに言葉として際立って印象に残るものは少なかった。岸田新政権の誕生に際し自民党内での影響力が注目された安倍晋三・麻生太郎・甘利明の頭文字をとった「3A」あたりは入るかなと思っていたが。

自民党総裁選にあたって岸田文雄は、国民の声を聞く姿勢を強調し、人々から聞いたことを書き留めているという「岸田ノート」もちょっとした話題になった。政策としては「新しい資本主義」「令和版所得倍増計画」「デジタル田園都市国家構想」などが掲げられたが、いずれも言葉としてはいまひとつ新味がない。そもそも後二者はそれぞれ60年代の池田勇人内閣の所得倍増と70年代末の大平正芳内閣の田園都市構想の焼き直しである。総裁選では候補のひとりである高市早苗が「サナエノミクス」を提唱したが、こちらも第2次安倍内閣以来のアベノミクスの継承としか受け取られなかった。

もっとも、政治において訴求力のある言葉が必ずしもいいものばかりとは限らない。印象に残るようなフレーズ、スローガンの類いは、国民に対する一種の罠だったりする場合もあるからだ。

野党に目を向けると、10月末の総選挙では立憲民主党や共産党などが「野党共闘」として、多くの選挙区で統一候補を立てて与党に対抗した。一部の選挙区では自民党の大物政治家が落選して効果を見せたものの、全体的には立憲も共産も議席を減らした。そのせいか「野党共闘」も流行語大賞にはノミネートされなかった。


【サブカルチャー】部門

自分の好きなアイドルグループのメンバー(推しメン)の応援活動を意味する「推し活」がノミネートされたが、正直、いまさら感がある。そもそも「推し」という語自体はすでに受賞しているのでは……と思いきや、調べると、2011年に「推しメン」がノミネートされてはいるものの、「推し」やその複合語の授賞はまだなかった。

今回のノミネートには、今年1月に発表された芥川賞(2020年下半期)で宇佐見りんの小説『推し、燃ゆ』が受賞したことも関係しているのだろうか。芥川賞作品にまで登場するようになったのは、「推し」がもはや流行語の域を超え、市民権を得た証拠だろう。

『推し、燃ゆ』宇佐見りん/河出書房新社
『推し、燃ゆ』宇佐見りん/河出書房新社

今年の流行語というのであれば、自分の推しメンが一番であることを表す「~しか勝たん」(「~」に推しメンの名前が入る)のほうがまだ新味があったと思う。アイドルグループ・日向坂46も「君しか勝たん」と題するシングルを今年リリースしている。

日向坂46「君しか勝たん」

日向坂は昨年には「アザトカワイイ」という曲をリリースしているが、こちらのタイトルも若い女性たちのあいだの流行語からとられていた。「あざとい」はひとつのキーワードになっていて、「あざとい女子」という語も生まれ、『あざとくて何が悪いの?』(テレビ朝日)というテレビ番組も好評を博している。今年の流行語大賞にノミネートされてもおかしくなかったと思うのだが。

アイドルに限らず、あらゆる趣味の領域で、対象にのめり込んでいることを指す「沼にハマる」という言葉も、テレビ番組のタイトルになるなど定着しつつある。やはりノミネートされなかったのが不思議な気がする。

【お笑い】部門

お笑いの世界からも今年はノミネートがなかった。それでも流行したギャグはいくつか思い浮かぶ。

「JC・JK流行語大賞2021年上半期」のコトバ部門の大賞や「インスタ流行語大賞2021年上半期」の流行語部門の1位など、この手の賞を総なめにした。ただ、先ごろ発表された女子高校生・大学生の選んだ「今年中に流行が終わると思う言葉ランキング」でも1位に選ばれている。いずれにせよ、一部の世代とはいえ流行語と認知されている言葉が、新語・流行語大賞ではノミネートすらされないのはどういうわけだろうか。このほか、YouTubeやTikTokといったネット発で若者に流行ったギャグでは、Everybodyの「クリティカルヒット」も挙げられる。

数年前より平成生まれの新世代の芸人たちが台頭するなか、昨年の『M-1グランプリ』では、錦鯉の長谷川雅紀が歴代最年長の49歳にして決勝に進出した。結果は4位だったが、バカキャラを前面に押し出し、「こーんにーちはー!」と大声で挨拶する(そして相方の渡辺隆にはたかれる)ギャグは好評を博し、一躍ブレイクを果たす。

屈託なく言うタイプのギャグとしては、ティモンディの高岸宏行の「やればできる」も人気を集めている。高岸は相方の前田裕太とともに甲子園にたびたび出場している愛媛・済美高校の野球部出身で、「やればできる」は同校の校訓が元ネタだという。

この1年の傾向でいえば、昨年末の『M-1グランプリ』で優勝したマヂカルラブリーも、今年の『キングオブコント』で優勝した空気階段も、どちらかといえば流れに沿って畳みかけるように笑いを誘うタイプで、お約束のギャグで笑わせるタイプではない。お笑い界の主流が前者のタイプに移りつつある印象も抱く。流行語大賞にノミネートされるギャグがなかったのは、そういう背景もあるのかもしれない。

【その他】部門

このほか、社会問題に関する言葉として、家族の介護や世話を担う18歳未満を指す「ヤングケアラー」がノミネートされた一方で、やはり近年深刻化しつつある、引きこもり状態の中高年が高齢の親に依存することで家庭ごと生活が困窮する「8050問題」は選から漏れた。

「SDGs」は当然ながらノミネートされたが、それに対し「目下の危機から目を背けさせる効果しかない」と厳しく批判したのが、哲学者・斎藤幸平の著書『人新世の「資本論」』(集英社新書)である。同書は昨年の刊行以来、40万部を超えるベストセラーとなった。タイトルの「人新世」とは、人類の活動にともない地球規模で環境変化がもたらされた時代という意味である。もともとはドイツの大気化学者のパウル・クルッツェンが地質時代の区分のひとつとして提唱したものだが、日本では斎藤の著書がベストセラーになるにともない広まった。そう考えると、この言葉も今年の新語・流行語大賞に選ばれてもよかったように思う。

『人新世の「資本論」』斎藤幸平/集英社
『人新世の「資本論」』斎藤幸平/集英社

ところで、じつはここまで挙げた言葉言葉の多くは、新語・流行語大賞のノミネート語を選ぶ際のベースとなる『現代用語の基礎知識』に収録されている。若者言葉などに関しても、けっして拾えていないわけではないが、そこからノミネート語を選ぶポイントが若干ズレているということなのではないか。その選定作業もおそらくそんなに大人数ではやっておらず、携わっている人たちの年齢や性別などに偏りがあるのかもしれない。ここはもっと多様な観点から言葉が選ばれるよう、ノミネート語から授賞を決める選考委員も含め、新たに人を入れるなり、一般からリサーチする体制を整えるなりして、テコ入れを図る必要があるのではないだろうか。


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近藤正高

(こんどう・まさたか)1976年、愛知県生まれ。ライター。高校卒業後の1995年から2年間、創刊間もない『QJ』で編集アシスタントを務める。1997年よりフリー。現在は雑誌のほか『cakes』『エキレビ!』『文春オンライン』などWEB媒体で多数執筆している。著書に『タモリと戦後ニッポン』『ビートたけ..

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