カッコつけジローさんからの、唯一の頼みごと
そのうち、自分が引越して、
お笑いライブの出番が増えて
お互いなかなか会う機会もなく
会うのは月に一回、数ヶ月に一回となっていった。
そして、今年の2月
久しぶりに会ったジローさんに、
『事情があって、田舎に帰ることになった』
と伝えられた。
そのときはまだ実感がわかなくて、
「そうですかあ、、はあ、、ええ。。?」
とかごもってしまって、ふわりと相槌をうった。
そうこうしているうちに、ジローさんは真剣な顔で、
「5月いっぱいで帰るんだけど、、頼みがある」
そう言った。
少し驚いた。
ジローさんから、いままで頼みごとをされたことがなかったからだ。
「お金以外なら、大丈夫ですよ、ええ。」
そう返すと、
「お金も〜できれば欲しいんだけどね!」
そう笑って、でも違うよ、なあ、ははは
と、話しはじめた。
ジローさんは、ここ数年
やっぱりお笑いが好きで、なんとかお笑いに携われないかと、「作家」を目指していたらしい。
バイトしながら、趣味でコントを書いていたのは知っていたが、それが本気で作家を目指していたことは、その時はじめて知った。
「それがさ、どうしても田舎に帰んないといけなくなって、、もう、どうにもこうにもいかねえんだよね」
そこで、と。
「もしよかったらでいいんだけど、、〇〇さんと、同じライブになることがあったら、俺の書いたコント台本、渡すことはできないか?、、もしタイミングとかあったらでいいんだ。あれだよ?座付き作家志望、なわけじゃないんだ。ただ、、帰る前にさ、、なんか見てほしくて。」
それは
ジローさんから初めてされた、頼みごとだった。
ジローさんはカッコつけなので、絶対にこんなことはしない。
自分が書いたコントを、東京に来て、お笑いをやっていた「証」を見てほしい。
いつもお世話になっていたジローさんが、僕を頼ってくれている。
「もちろん。〇〇さんまだ会ったことないですけど、きっと渡すだけならできますよ!」
ジローさんの頼みごとに、心良く返事をした。
「たださ、まだコントが出来てないんだよね。出来次第連絡するから、待っててくれよ、な?な?」
完成させたら!
という理由で、僕は待つことになった。
そして、ある日のこと。
ついに、
ジローさんがコント台本を渡したがっていた方々と、ライブで一緒になることになった。
大チャンスだ。
すぐさまジローさんに連絡をした。
「ジローさん!大チャンスです!ここです!!ここで渡しましょう!ここしかないです!!」
「マジか!?おおお!!マジか?!、、、」
興奮したジローさんに言う。
「ジローさん、思いきっていきしましょう!!」
「まあな、でもお前〇〇さんたち初対面なんだろう!?大丈夫なんか!?」
「誠意を持って渡すだけなら、きっと大丈夫です!!きっと伝わるはずです!」
「そうか、、!!そうだよな!!よし!、、、、いまさ、三本コント書いてて。あと一本で完成なんだよね。なんとか間に合わせなきゃな!なあオイ!」
一気に嬉しくなった。
あとは──。その気持ちを、渡すだけ。
それから、少しバタバタして、
日々は過ぎて、
ある日のライブ。
「あ!」
ジローさんから『コント台本』をもらってないと気がついたのは、そのライブ会場に着いて、初対面の〇〇さんに挨拶をしたときだった。
「、、」
『完成したら連絡する!』と言っていた
ジローさんからの連絡は、
ついになかった。
そして、今年の2月。
ジローさんが田舎に帰る前の日に、
会うことになった。
「よォ、久しぶり。」
ジローさんは、いつもと変わらぬ様子で来た。
そのまま、公園で少し話をした。
「あのメダルがさあー、、」
芸人時代の会話よりも、
ゲーセンに2人で張り付いた話、
伝説の魚を釣り上げた話、
あのご飯屋がうまかった、
あそこのラーメン屋はテーブルにネコが乗ってきた、
ありゃひどかったなあ!とか、
そんな他愛もない話ばかりだった。
まだ肌寒い公園で、
「キーコーキーコー」ブランコをしたあと、
「明日さあ、朝イチで行くよ」
ふと、ジローさんが言った。
「あっちに行ったらさあ、、遠いから、なかなかこっちには遊びに来れんなあ、、。あのゲーセンにも、うまい飯屋にも、な、、。、、」
ブランコに乗ったまま、そのまま
「あの、」
どうしても、
「あの、、。」
どうしても、聞きたいことがあった。
「渡せませんでしたね、コントの台本」
ジローさんからの連絡がなかったから
自分も催促せずに、
あやふやになったコント台本
「ん?、、ああ、あれか。ははは、、」
少し黙ったあと、
「あれな、、実はもうできてたんだよ」
「え?」
そんなことを、言った。
「いやあ、、よく考えたらさ。
お前はこれからテレビ出てくんだろ?
この先、いろんな芸人さんと関わっていくと思うんだよ。
そんなのにさ、初対面で、
いきなり、知らないやつのコント台本を渡して、
渡されたほうは、どう思うかなって。
変なヤツだって。
なんだアイツって。ふざけてんなって、、
評判悪くなったら、、なあ?
、、俺、イヤでさ、」
ジローさんは、
「どうしても、連絡できなかったよ。はは」
照れくさそうに、笑った。
「、」
どこまでも、
気のいい近所の兄ちゃんだった。
「いやいや、僕なんか最初から変だと思われてますよ。変なんだから」
「そうかあ?ははは」
そのあとまた他愛もない話をして、
「でさあ、」
「はい」
帰り際
いつもの様子で、
「じゃ、またなー!」
ジローさんは帰っていった。
別れてから、
商店街の道を、自転車をこいて帰った。
夜だからほとんどシャッターが閉まっていて、
途中でファミリーマートを見つけた。
すぐさまファミチキを買って、
来た道を戻った。
少し走ったあと
ジローさんの後ろ姿を見つけて、
「おーい!」
と追いついた。
「ジローさん!ファミチキ、食べましょう!」
「なんだよそれ、ははは!」
お前やっぱり変だなあ、と笑って
2人でファミチキを食べた。
「おい、こんなの他の先輩にするなよ?!ヤバいやつだと思われるからな?オイ、だいたいお前は、、」
「ふぁい」
ジローさんからの説教を、ファミチキを食べながら聞いた。
「、」
ジローさんが分けてくれたファミチキは、
僕の方が大きかった。
「聞いてるのか?なあオイ??」
いつまでも、
いつまでも、気のいい近所の兄ちゃんだった。
隣町。
あのゲーセンには、
山ほどのメダルが眠っている。
あの頃に貯めたメダルを使わないまま
ずいぶんと時間がたってしまったけど
ジローさんが東京に遊びに来たときは、
隣町に向かいたい。
「いいゲーセンがあるんだ」と、
知られながらも案内したい。
伝説の魚を──釣り上げたい。
《追記》
このあいだゲーセンに行ったら、
メダルの『保管期限』が切れてたらしく、貯メダルは全部なくなっていた。
マジやばくない!?
もうサイアク〜!!マジげんなり!
げんなりの最大級のやつ!
げんなななななりん!!!
プーっ!
そら屁もこくわな!
ジローさんもうあれないよ!
メダルゼロ!!
遊べないっぽい!!ドイヒー!
ドイヒーの最大級のやつ!
ドドドイのドイ!!ヒーヒヒーのヒー!!
ヒーヒヒーヒヒー!!
プーっ!
そら屁もこくわな!
マジもう、ね!
プーっ!そら屁もこくわな!
マジ、ね!
プーっ!そら屁もこくわな!マジ!!プーっ!マジ!そら屁もこくわな!プーっ!そら屁もこくわな!マジ!プーっ!マジ!プーっ!!そら屁もプーっ!こくわな!プーっそら!屁も!プーっマジこくわな!プーっそらマジこくわな!屁もこくプーっ!マジ!そら屁もプーっ!こくわな!プーっ!プーっ!そらプーっ!マジプーっ屁プーっもこくわプーっマジっ屁もプーっ!こく!プーっわな!そらプーっマジプーっ!ジローさんプーっ!プーっ屁もプーっ!プーっ!プーっ!マジこくプーっ屁もプーっマジプーっこくマジ!プーっ!マジ屁もプーっ屁もこプーっ!マジプーっ!ゲーセン屁もプーっこくプーっマジゲーセンこくプーっマジ!屁もプーっ!
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