『真犯人フラグ』3話を考察。一星(佐野勇斗)が犯人だと『ピエールとライオン』が暗示しているのか、それとも?


ピストルを突きつけられる凌介

第3話の予告編で、「な、なんかとんでもないことが起きている!」という最大の場面は、凌介がピストルを突きつけられて絶体絶命のピンチになっているところだろう。
ところが、本編を観ると、ピストルを突きつけたのは刑事なのだ。光莉の携帯を探してトンネルの中に入った凌介。「動くな」とピストルを突きつけたのは、刑事の阿久津(渋川清彦)だ。「なんですぐ連絡してくれないんですか」と説教されておしまいである。
予告で想像するような緊迫した展開にはならないのだ。

そもそも、この場面は無理がある。けっこう強引だ。まずトンネルのど真ん中にあるGPSが反応するのか? 携帯を見つけて「光莉───、光莉───」と凌介は大声で叫んだにもかかわらず、なぜ刑事がその後ピストルを突きつけるのか? いや、そもそも凌介たちは『週刊追求』の河村(田中哲司)には連絡するのに、警察に連絡せずに行動するのはなぜか。
謎めいたピンチの場面を作るために、こういった無理を重ねている。

『ピエールとライオン』が暗示するもの

一星が、凌介と接触する場面もそうだ。
マスコミに見つかりたくないのだとしても、あそこまで怪しい雰囲気で近づく必要はない。わざわざ『ピエールとライオン』に紙片を挟む必要もない。紙片のメッセージを暗号のように書く必要もないはずだ。
モーリス・センダックの『ピエールとライオン』を使った理由を、光莉の愛読書だったと一星は言う。だが、これは、相当失礼な行為だと言わざるを得ない。
なぜなら『ピエールとライオン』は、こういう内容だからだ。

主人公は、少年ピエール。お母さんが何を言っても聞く耳を持たず「ぼく、しらない!」と言うばかり。お母さんは出ていってしまう。お父さんが言うことも聞かず「ぼく、しらない!」と言うばかり。お父さんも出ていってしまう。そしてライオンに対しても「ぼく、しらない!」と言って食べられてしまう。最後に少年は、父母に助けられる。
家族が失踪した男に渡すべき本ではないだろう。

『ピエールとライオン-ためになるおはなし』
『ピエールとライオン-ためになるおはなし』モーリス・センダック/神宮輝夫 訳/冨山房

使わなくてもいい場面でわざわざ『ピエールとライオン』を使った理由を強引に考えるならば、一星と光莉はぐるなのではないか。光莉たちが失踪したのは、凌介が家族に対して「ぼく、しらない!」という態度を取っていて、そのことを思い知らせるために一星も一役買っているのだ。

この場面で『ピエールとライオン』が使われたのは、「凌介の家族への無関心を暗示」する機能しか担っていない可能性もある。この本をセレクトする無神経さも、怪しい雰囲気で近づいた理由も「ない」ことになって、ただ考察者を振り回すための謎と奇妙なシンクロするアイテムとして登場している可能性は高い。
もし、そうでないならば『ピエールとライオン』を一星が使っているのは、相当の悪意であり、家族の自作自演の失踪を仕掛けた黒幕だということになるだろう。

『真犯人フラグ』の黒幕は誰か

『真犯人フラグ』は、全体の話の整合性や、緻密に推理するためのパズル性は持ち合わせていないのではないか。『あなたの番です』(日本テレビ)は、動機なき超人が、夢のようなスゴ技で殺していたというオチで、最後に謎を回収しなくていいがゆえの怪しさ満開の展開を繰り広げた。
そして、それは製作者側のミスや欠落ではなく、そこを目指して作られているのではないか。

怪しいフラグを立てまくり、誰も彼もが怪しく見えるように、作品世界の現実を歪めて描写する。視聴者が「こいつが犯人だ」と真犯人フラグを立てて騒いで考察合戦をするために仕組まれた世界なのだ。
第2話のレビューで指摘したように、これは考察をしながら観るための物語ではない。考察者を振り回すように構成し、真犯人フラグを立てる野次馬こそが事件を混乱させた原因であり黒幕である世界を描いた物語なのだろう。

【西島秀俊 芳根京子 宮沢りえ】日曜ドラマ「真犯人フラグ」第4話予告60秒【日テレドラマ公式】

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