芸人をやっていると、“まさか”と思う出来事に遭遇する事がたまにある。
今年の10月から、NHKで子供達にも分かりやすくSDGsを説明する『リフォーマーズの杖』という番組にレギュラーで出させて貰う事になった。
他のメンバーは、さらば青春の光の森田さん、ランジャタイの国崎さん、空気階段のもぐら、おかずクラブのオカリナさん、ゆにばーすのはらさん、そして私の6人。
第七世代のヤニカス女ダルマ代表として活動している私が、まさかNHKの教育番組に出られる日が来るなんて、思いもしなかった。
3年ほど前までは、NHKに出禁をくらっていると思っていたけど、そうじゃなかったみたいだ。
NHKに出られなかったのは、シンプルに全然売れていなかったかららしい。
『リフォーマーズの杖』の収録の日は、森田さん、もぐら、私という、煙草の事しか脳みそに入っていない愉快なニコチン3人組が、NHKの喫煙所を占領する。
NHKの食堂では、番組から配布される食事券を満額まで使い切ろうと、レギュラーメンバー大の大人6人が、指を折りながら絶対に足が出ない様、飯の値段を計算しながら注文する。
満額を目指すあまり、ラーメンだけだと余ってしまうから、味噌ラーメンに味噌汁という、奇妙奇天烈、味噌過ぎ注文をしてしまった。
なっちゃうかな~とは思っていたけど、案の定、食後はお腹ちゃっぽんちゃぽんに、なっちゃった。
とてもじゃないけど教育番組とは思えない、光景とメンバー。
芸人をしているとそういう“まさか”の事もあるんだな、としみじみ思う。
“凄い嫌なタイプの関西人”の正体は……
大阪での仕事を終え、帰りの新幹線での事。
新幹線での私は、席に座っている分数とちょうど同じ分数、喫煙所で立っている。
新大阪から乗車してすぐ、喫煙所に向かう。
セブンスターメンソール12ミリを吸い終わり、席に戻る途中、明らかに自分の席から私をジロジロと見てくる人がいた。
普段街なんかで、私に気付いた人が声を掛けてくれる事は、凄く嬉しい。
しかし、一年ほど前に新幹線で寝ていて、ふと目を覚ますと、チュウされてた?って位の至近距離で、バシャバシャと写真を撮られていた経験がある。
私が目を覚ました事に気付くと、そのカメラ小僧は
「ギャー! びっくりした!」
そう言って、アニメの様に逃げて行った。
何でお前がびっくりしちゃうんだよ。
私にもびっくりさせてくれよ。
そんなちょっとしたトラウマがある為、新幹線で顔がバレるのが少し苦手だったりする。
なるべく下を向いて、そのジロジロと見てくる人の席を通り過ぎようとすると
「やっぱお前やな!!!」
その人が、そう声を掛けてきた。
“やだーー。凄い嫌なタイプの関西人だー”
仕方ないから返事をしようとパッと顔を上げると、なんと、めちゃくちゃさんまさんだった。
本を開きながら眼鏡をかけた、明石家さんまさんが座っていた。
「ギャー! びっくりした!」
流石にこの時ばかりは、いつかのカメラ小僧と同じリアクションを取ってしまった。
お疲れ様です、と挨拶をすると、さんまさんは
「何してたん?」
そう質問してきた。
「大阪で『座王』でした。大喜利番組です」
私が質問に答えると
「ハーッハッハッ!! ヒー! ハッハ!」
何がおもろいんだか分からないけど、ウケた。
ひと通り笑い終わると
「ほな、また宜しくー」
いつもの最後の楽屋挨拶の時と同じ言葉を掛けてくれて、私も自分の席に戻る。
さんまさんだったなあ。
ずっとテレビの中の人、雲の上の存在だったさんまさんの方から気付いてくれて、声を掛けてくれるだなんて、少し前だったら考えられない事だ。
席に戻ってからもしばらく、心臓がバクバクいっていた。
嬉しいけど、よくよく考えると何でさんまさんから気付いちゃうんだ。
本を開いてたって事は、読書中だったはずなのに、どうして喫煙所から戻る私を発見出来たのだろうか。
この日、私は気付いた。
さんまさんは絶対に目が8個ぐらいある。
さんまさんが同じ車両に居ると思うと、ずっと軽く緊張していた。
東京に着き、その日はもう1本NHKのネタ番組の収録があったので、NHKに向かう。
ネタの収録中、初めてネタをぶっ飛ばした。
軽飛ばしとかそんなレベルじゃない、超絶ぶっ飛ばし。
街の悪口を言う訳でもなく、無言でただただ煙草を吸うポーズを取っているだけの、謎時間を作ってしまった。
それは、ただの煙草休憩だ。
まあコレは仕方がない。
大阪で収録1本、東京で1本。
事務所のスケジュール的には収録2本だけど、新幹線の同じ車両にさんまさんが居たから、実質、収録12本撮った計算に、なる。
絶対に、なる。
1日で収録12本の12本目だ。
疲れが出て、多少ネタを飛ばすのも、仕方ない事だとしよう。
そんな、ネタをぶっ飛ばして、ネタ中に煙草休憩を取ってしまったのにもかかわらず、レギュラー番組を持たせてくれたNHKに、恩を返せる様に『リフォーマーズの杖』は精一杯頑張りたいと思う。
連載「納言・薄幸の酔いどれコラム」は、毎月1回の更新予定です。
-
『今日も酔いどれ。一日一杯の酒飲み名言』
著者:薄幸(納言)
発売日:2021年12月13日(全国書店ほかにて発売)
定価:1,430円(税込)
形態:四六判・ソフトカバー
ページ数:32ページ関連リンク
関連記事
-
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR