松本人志が『キングオブコント』の審査員席に座るということの意味


「松本人志が審査員席に座る」ということの意味

『ダウンタウンDX』20年目突入&コンビ結成30周年記念を特集した『クイック・ジャパン vol.104』(太田出版/2012年)

松本は、言わずと知れた現代日本の笑いの御本尊である。『M-1グランプリ』も『人志松本のすべらない話』も『IPPONグランプリ』(共にフジテレビ)も『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)も『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ)も、笑いあるところには常に松本が控えている。そして、彼に笑ってもらえるかどうかというのが、共演する芸人にとっての最大の関心事となる。

「松本さえいれば安心」というテレビ局の姿勢は、昨今のフジテレビとTBSが、それぞれお笑いの大型特番の主役に松本を担ぎ出していることからもわかる。フジテレビの『ラフ&ミュージック』とTBSの『お笑いの日』でMCを務めた松本は、今やお笑い界全体の象徴となっている。

松本が笑いの権威でありつづけられるのは、いまだにそのお笑い観が古びることがなく、笑いについての洞察が誰よりも深いからだ。笑いをひとつの方向に限定せず、その可能性を極限まで広げて考えている。だからこそ、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』の審査員が務まる。

おもしろいものはおもしろいと認める。歳を取るとこの単純なことがなかなかできなくなる。『キングオブコント2017』でエキセントリックな縄跳びネタを披露したにゃんこスターに堂々と97点をつけた松本は、その点でずっとぶれていない。

そんな『キングオブコント』は、松本以外の4人が誰であれ、安心して観ていられる保証つきのお笑い賞レースだと言える。

選考の「ガチ」さは、けっしてブレていない

芸人の漫才やコントが観られるネタ番組は、いまや珍しいものではない。特番シーズンになると、どこの局でも大型のネタ特番が放送される。そんな中で『キングオブコント』(TBS)のテレビ番組としての価値はどこにあるのか。煎じ詰めればそれは、「あの松本が審査する」という一点に集約される。そこに期待しないわけにはいかない。

『キングオブコント』は予選審査もガチだ。「ガチじゃない審査があるのか」と聞かれるとなんとも言えないが、お笑いコンテストは、作る側の熱、出る側の熱、観る側の熱、そのすべてが高いレベルで拮抗しているとおもしろくなる。『キングオブコント』には確実にそれがある。

今回の10組のファイナリストの顔ぶれを見てほしい。ニューヨーク、空気階段、ニッポンの社長、うるとらブギーズ、マヂカルラブリー、ジェラードン、蛙亭、男性ブランコ、そいつどいつ、ザ・マミィ。紛うことなき「ガチ」の選考だ。

「テレビの人気者だから」といった曖昧な理由で勝ち残っている芸人はひと組もいない。マヂカルラブリーやニューヨークが残っているのは、彼らが売れているからではなく、単純におもしろかったからだ。話題性を重視するなら、霜降り明星やチョコンヌを落とす理由がない。予選から審査方針がぶれていないのは信頼できる。

『キングオブコント』は2008年に始まった。2001年スタートの『M-1グランプリ』や2002年スタートの『R-1グランプリ(ぐらんぷり)』よりも歴史は浅いが、毎年着実に進化をつづけてきた。ここから出てきた売れっ子芸人も少なくないし、『キングオブコントの会』(TBS)という子宝にも恵まれた。

憎めない末っ子の『キングオブコント』は職を転々としているが、持ち前の愛嬌のよさでどこにでもなじんできた。そんな彼の立派に成長した14年目の勇姿を目に焼きつけてほしい。

【関連】マヂカルラブリーがお笑い界の展望を語る。『キングオブコント2021』は史上最“変”、『M-1』は強くなり過ぎた

この記事の画像(全2枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

関連記事

キングオブコント2021予想_かんそう

誰が優勝しても納得の『キングオブコント2021』、特に注目したい5組

キングオブコント

【最速推考!】『キングオブコント2021』を盛り上げるのは誰だ!?

『キングオブコント』で3冠目指すマヂラブ野田「出るって言え」一番マークするライバルは?

ツートライブ×アイロンヘッド

ツートライブ×アイロンヘッド「全力でぶつかりたいと思われる先輩に」変わらないファイトスタイルと先輩としての覚悟【よしもと漫才劇場10周年企画】

例えば炎×金魚番長

なにかとオーバーしがちな例えば炎×金魚番長が語る、尊敬とナメてる部分【よしもと漫才劇場10周年企画】

ミキ

ミキが見つけた一生かけて挑める芸「漫才だったら千鳥やかまいたちにも勝てる」【よしもと漫才劇場10周年企画】

よしもと芸人総勢50組が万博記念公園に集結!4時間半の『マンゲキ夏祭り2025』をレポート【よしもと漫才劇場10周年企画】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「猛暑日のウルトラライトダウン」【前編】

九条ジョー舞台『SIZUKO!QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記

九条ジョー舞台『SIZUKO! QUEEN OF BOOGIE』稽古場日記「小さい傘の喩えがなくなるまで」【後編】

「“瞳の中のセンター”でありたい」SKE48西井美桜が明かす“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「悔しい気持ちはガソリン」「特徴的すぎるからこそ、個性」SKE48熊崎晴香&坂本真凛が語る“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

「優しい姫」と「童顔だけど中身は大人」のふたり。SKE48野村実代&原 優寧の“私の切り札”【『SKE48の大富豪はおわらない!』特別企画】

話題沸騰のにじさんじ発バーチャル・バンド「2時だとか」表紙解禁!『Quick Japan』60ページ徹底特集

TBSアナウンサー・田村真子の1stフォトエッセイ発売決定!「20代までの私の人生の記録」