「松本人志が審査員席に座る」ということの意味
松本は、言わずと知れた現代日本の笑いの御本尊である。『M-1グランプリ』も『人志松本のすべらない話』も『IPPONグランプリ』(共にフジテレビ)も『ドキュメンタル』(Amazonプライム・ビデオ)も『笑ってはいけない』シリーズ(日本テレビ)も、笑いあるところには常に松本が控えている。そして、彼に笑ってもらえるかどうかというのが、共演する芸人にとっての最大の関心事となる。
「松本さえいれば安心」というテレビ局の姿勢は、昨今のフジテレビとTBSが、それぞれお笑いの大型特番の主役に松本を担ぎ出していることからもわかる。フジテレビの『ラフ&ミュージック』とTBSの『お笑いの日』でMCを務めた松本は、今やお笑い界全体の象徴となっている。
松本が笑いの権威でありつづけられるのは、いまだにそのお笑い観が古びることがなく、笑いについての洞察が誰よりも深いからだ。笑いをひとつの方向に限定せず、その可能性を極限まで広げて考えている。だからこそ、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』の審査員が務まる。
おもしろいものはおもしろいと認める。歳を取るとこの単純なことがなかなかできなくなる。『キングオブコント2017』でエキセントリックな縄跳びネタを披露したにゃんこスターに堂々と97点をつけた松本は、その点でずっとぶれていない。
そんな『キングオブコント』は、松本以外の4人が誰であれ、安心して観ていられる保証つきのお笑い賞レースだと言える。
選考の「ガチ」さは、けっしてブレていない
芸人の漫才やコントが観られるネタ番組は、いまや珍しいものではない。特番シーズンになると、どこの局でも大型のネタ特番が放送される。そんな中で『キングオブコント』(TBS)のテレビ番組としての価値はどこにあるのか。煎じ詰めればそれは、「あの松本が審査する」という一点に集約される。そこに期待しないわけにはいかない。
『キングオブコント』は予選審査もガチだ。「ガチじゃない審査があるのか」と聞かれるとなんとも言えないが、お笑いコンテストは、作る側の熱、出る側の熱、観る側の熱、そのすべてが高いレベルで拮抗しているとおもしろくなる。『キングオブコント』には確実にそれがある。
今回の10組のファイナリストの顔ぶれを見てほしい。ニューヨーク、空気階段、ニッポンの社長、うるとらブギーズ、マヂカルラブリー、ジェラードン、蛙亭、男性ブランコ、そいつどいつ、ザ・マミィ。紛うことなき「ガチ」の選考だ。
「テレビの人気者だから」といった曖昧な理由で勝ち残っている芸人はひと組もいない。マヂカルラブリーやニューヨークが残っているのは、彼らが売れているからではなく、単純におもしろかったからだ。話題性を重視するなら、霜降り明星やチョコンヌを落とす理由がない。予選から審査方針がぶれていないのは信頼できる。
『キングオブコント』は2008年に始まった。2001年スタートの『M-1グランプリ』や2002年スタートの『R-1グランプリ(ぐらんぷり)』よりも歴史は浅いが、毎年着実に進化をつづけてきた。ここから出てきた売れっ子芸人も少なくないし、『キングオブコントの会』(TBS)という子宝にも恵まれた。
憎めない末っ子の『キングオブコント』は職を転々としているが、持ち前の愛嬌のよさでどこにでもなじんできた。そんな彼の立派に成長した14年目の勇姿を目に焼きつけてほしい。
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