『有吉の壁』から誕生したヒップホップユニット「親戚乃家」が度肝を抜きに抜きまくった

2021.8.25
有吉の壁 親戚乃家

文=かんそう 編集=鈴木 梢


KOUGU維新や美炎-BIEN-など数々のヒットアーティストを生み出し、今や一大プラットフォームと化した『有吉の壁』(日本テレビ)の人気企画「ブレイクアーティスト選手権」からまたしてもとんでもない奴らが誕生した。空気階段の鈴木もぐらと水川かたまり、かが屋の加賀翔と賀屋壮也で結成されたヒップホップユニット「親戚乃家」(しんせきのいえ)だ。

「Welcome to the 俺たちの夏」は、ユニット名から彷彿とさせるイメージに反して、nobodyknows+の大ヒット曲「ココロオドル」を彷彿とさせるアッパーチューン。とてもラップなど歌えなさそうな4人から繰り出される骨太のリリック(歌詞)は、一夜にして視聴者の度肝を抜きに抜きまくった。

支配人の有吉弘行も「オリンピックこの人たちに任せればよかったのに」と大絶賛、生粋の音楽フェス好きで知られる佐藤栞里も「フェス行けないんでめっちゃ楽しかったです」と太鼓判を押すほど。初披露後、感想を求められたかたまりが「だいだいブレイクアーティストはきつねさんに連れてこられて受動的なことやってたんですけど、能動的にやったらすごい楽しいです」と目を輝かせて言っていたのが印象的だった。その素晴らしさを少しでも伝えたい。


「親戚乃家」のすごさをひとりずつ考えていく

特筆すべきは一人ひとりのバース(ラップ部分)における「韻」の素晴らしさ。ヒップホップの業界ではワンバースの中でしっかりと韻を踏んでいることを「韻が固い」と評することがあるが、この「Welcome to the 俺たちの夏」はまさに韻がカッチカチに固い。まるでヒップホップのお手本のような踏み方をしていて、それが楽曲の圧倒的な疾走感をさらに増幅させている。

しかも、ただ単語を組み合わせて言葉遊び的に韻を踏んでいるだけでなく、ちゃんと意味を通して文章として成立させた上で韻を踏んでいるのが本当に恐ろしい。それぞれのキャラクターを踏襲したリリックになっており、誰がどういう性格で親戚の中でどういった立ち位置なのかが一瞬で理解できる。

空気階段・もぐらのバースから見てみよう。
「第3のビールで乾杯のシーズン 夏競馬スタート アイランド気分 浮世の話 夏のロマンへ 海物語勝つぞ5万で」

「第3のビール」「乾杯のシーズン」「アイランド気分」で「アイア(ン)オイウ」、「浮世の話」「海物語」で「ウイオオアアイ」、「夏のロマンへ」「勝つぞ5万で」で「アウオオア(ン)エ」と完璧な押韻を見せている。注目したいのは「第3のビール」の部分。酒を知らないキッズのために簡単に説明すると、第3のビールとは別名「新ジャンル」、通常のビールに比べ麦芽の量が少ないものを「発泡酒」それに別のアルコール飲料を加えたり麦芽以外の穀物を原料に発酵させたものが「第3のビール(新ジャンル)」と呼ばれているのだ。有名どころで言えばキリンビールの「本麒麟」やサントリーの「金麦」が挙げられ、同じメーカーの生ビールでもある「一番搾り」や「ザ・プレミアム・モルツ」などに比べると値段がとても安いのが特徴だ。それゆえに、「ビールを飲みたいけど金銭的に厳しい……」という人の救世主的な存在になっている。このことから「ギャンブルが好きだがいつも負けていて金がないけど酒は飲みたいどうしようもない人間」であることがわかる。

クイック・ジャパン vol.153
『クイック・ジャパン』vol.153 表紙

2番手、かが屋・加賀のバースでも「モテない 金ない 海パンもない デートの妄想 毎晩トライ テストは100点活躍し でも あの子は誰かと夏祭り」と学生の悲哀を交えながら手堅く韻を踏みまくる。

「モテない」「金ない」「(海パン)もない」「トライ」で「アイ」で脚韻(単語の最後で踏むこと)、さらに「海パン」「毎晩」で「アイア(ン)」で頭韻(単語の最初で踏むこと)、「デート」「テスト」「でも」で「エ-オ」、「活躍し」「夏祭り」で「アウアウイ」と踏んでいく。内心は女の子と遊びたいのに勉強ばかり。カッコよくもない、金もない、誘う勇気もなく毎晩妄想を繰り広げているということがわかるのだが、特にうまいと思ったのが「トライ」の部分。単純に妄想しているという意味と「家庭教師のトライ」のダブルミーニングになっていて、つまりこの少年は家庭教師をつけてもらっているということがわかる。

つづく空気階段・かたまりのバースではいわゆる「サラリーマンの事情」が描かれる。
「どうしようもない 猛暑でも 少々じゃくじけず かけるモーション でも夜の営業は失敗 エビ横1人 ひっかける一杯」

「どうしようも(ない)ouiou」「猛暑でもouoeo」「少々じゃouou」「モーションo-on」「夜の営業ouoeiou」で「オウ-オ」で踏み、「くじけずuieu」「かけるaeu」で「エウ」で脚韻し、「エビ横eioo」「一人ioi」で「イオ」で踏み、「失敗iai」「ひっかけるiaeu」「一杯iai」で「イア-イ」まで踏む。あえて「モーション」を「モウション」と日本語的な発音を強調するグルーヴ感のあるフロウが独特で癖になる。注目したいのは「夜の営業」。夜の営業とはなんのことを指しているのだろうか。その答えは次のセンテンスである「エビ横1人 ひっかける一杯」に隠されている。エビ横=恵比寿横丁は別名「出会いの名所」と呼ばれるほどナンパスポットとして有名な場所。つまり、昼間はバリバリの営業を勤め積極的なモーションでいい成績を収めている彼もナンパではからっきし、ひとり寂しく飲むしかないという男のダサさを表しているのだ。

そんなかたまりに反比例するかの如く、ラストを飾るかが屋・賀屋はテクニックよりもノリとパッションで乗り切るようなラップを披露する。
「海最高! ナンパ最高! マジ最強!  チャラ男代表! そうオレオレ! めちゃモテモテ! 夏男! キミも惚れ惚れ」

「最高」「最強」「代表」で「アイオウ」、「オレオレ」「モテモテ」「惚れ惚れ」で「オエオエ」。ほかの3人のラップは理想と現実のギャップに対する葛藤が感じられるのに対し、賀屋はまるで「夏は俺の季節」と言わんばかりに過剰なセルフボースティング(自慢)が繰り返されている。だが私はむしろそこに3人よりも強い「悲哀」を感じる。強過ぎる自慢はある意味「不安の裏返し」、もしかするとこの青年はそうやってハッパをかけ自ら退路を断たなければもはや立っていられないほど傷ついているのではないだろうか。サビ前でも「夏最高! マジ最強!」と繰り返すのは「一番夏を楽しめていないのは俺だ」という嘆きなのかもしれない。

親でも友達でもない「親戚」という絶妙な距離感の4人が「それぞれの夏」を介することでひとつになる。先ほども言ったように「とてもラップなど歌えなさそうな4人」だからこそ、悲哀に満ちた一つひとつのワードが胸に突き刺さり、底抜けに明るいサビに突入した瞬間になんとも言い難い感情が生まれる。

ただひとつ残念なのが、この4人が観られるのはお盆の間だけということ。夏が必ず過ぎ去っていくように、楽しい時間というのはいつまでもつづかない、ということなのかもしれない。我々にできることは「親戚乃家」という最高のヒップホップユニットが存在した事実を忘れずに生きていく、ただそれだけ。Welcome to the 俺たちの夏はまだまだ終わらない。

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