声優はお客さんの要望によって変化する「読むアニメソング」~声優ブームがやってきた!後編~
アニソン時評を連載中のアニソン評論家の冨田明宏。7月5日(月)にゲストの飯田里穂と共に配信イベント『冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)』を行う。イベントをより一層楽しんでもらえるように特別に第6回・第7回の連載、冨田明宏と飯田里穂の対談の一部を公開する。
※この記事は『クイック・ジャパン』vol.156に掲載の連載を抜粋したものです。
前回のあらすじ
この日本に、何度目かの声優ブームがやってきている。声優がアイドル的な人気を獲得する声優ブームは今にはじまったものではなく、実は1960年代から現在まで何度も繰り返し起こってきた。そして94年の創刊から現在まで、ユース・カルチャーの実態を独自の切り口で立体的に具象化してきた『QJ』が、ここ最近やたらと“新人声優”のインタビューを掲載していることは、読者のみなさまであれば薄々気が付いているはず。
まさに今のユース・カルチャーの実態を語るうえで、アニメやゲームの世界から飛び出し、大規模な音楽活動を行い、地上波の情報番組やバラエティ番組などでも日夜活躍し続けている声優の存在が欠かせなくなってきた。しかし過去の声優ブームと現在の声優ブームは、似ているようでかなり違う側面を持っている。それでは現在の声優ブームはどのようにして生まれたのだろうか。
90年代に勃興した第三次声優ブームまでの大まかな流れは、前号の「読むアニメソング」で書かせていただいた。しかし2021年6月現在、私の体感としては、90年代末に訪れた声優ブームをも遥かにしのぐ熱狂がとどまることなく続いている。それを象徴するかのように、今年4月にニフティによって興味深いランキングが発表され話題を集めていた。
それは「小中学生のなりたい職業ランキング」である。同ランキングで公務員や芸能人やユーチューバーをぶち抜き、声優が第3位にランクインしたのだ。小学生だけのランキングでみれば「マンガ家・アニメーター」が1位で、2位が声優という状況である。これは言うまでもなく、ついに米国でも大旋風を巻き起こしてしまった『鬼滅の刃』の影響によるものであることは疑いない。
現在の小中学生たちは今後「鬼滅世代」と呼ばれるような、同作の影響を強く受けた存在になっていくことだろう。そして<声優=あこがれの職業>というムードは、彼ら・彼女たちが若年層の多数派を占め続けるときまで継続されるのではないだろうか。
現在訪れている声優ブームは、この「小中学生のなりたい職業ランキング」が示している通り、小中学生をも巻き込む形で支持層のボトムアップとブームの延命が(結果的に)図られている部分が特殊である。かつての声優ブームは、青年層をターゲットにすることで一過性で終わってしまったり、短期間で収束してしまうことも多かった。
しかし現在の声優ブームは、90年代末から2010年代にかけて隆盛していった“深夜アニメを当たり前に見て育った世代”がメインである。“深夜アニメを当たり前に見て育った世代”については過去にもこの連載で言及しているので詳細は省略するが、簡潔に言うと、現在8割以上もアニメの放送枠を占めている深夜アニメとはオトナ向けに作られたアニメ群であり、幼少期からオトナになるまで一度もアニメを(中学生くらいで)卒業する必要なく育った新世代=“深夜アニメを当たり前に見て育った世代”のこと。
この層は10代から40代までをカバーしていて、なおかつ「鬼滅世代」がボトムアップしたことでかつてない様相を呈してきている。もっとも「鬼滅世代」がメイン層になるころにはまた別の声優ブームが誕生しているとは思うが、いわゆる“タピオカブーム”などのように、吹き荒れた後はぺんぺん草一本も残らないほど衰退するようなことは、もうないだろう。この背景には、長い年月をかけて声優という職業がアニメと日進月歩で文化にまで成熟していった歴史があるからだ。
声優がアニメやゲームの世界から飛び出し、地上波のバラエティ番組などで大活躍している。いわばブームの象徴ともいえるこの状況について、前号に引き続き目立ったところを紹介しておこう。4月19日放送の『痛快TV スカッとジャパン』(フジテレビ)の新企画「イケボ声優神店員」に、声優の榎木淳弥さんと神尾晋一郎さんが出演。『10万円でできるかな』(テレビ朝日)に鬼頭明里さん、小西克幸さんが出演。
ドラマ『恋はDeepに』(日本テレビ)に緒方恵美さんが海洋生物役として出演。『教えてもらう前と後』(TBS)の5月17日放送回では「超人気声優SP」と題して浪川大輔さん、大塚明夫さん、木村昴さん、関智一さんらが出演。『NOと言わない!カレン食堂』(テレビ朝日)の2時間SPに下野紘さんが出演。
『有吉ゼミ』(日本テレビ)に声優・小野賢章さんが出演。小野さんはほかにも『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ)、『人志松本の酒のツマミになる話』(フジテレビ)などにも出演。そして『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(テレビ朝日)に飯田里穂さんが出演……と挙げだすと本当にキリがない!これでもまだ極々一部なのだから、声優を取り巻く環境が数年前までと一変していることを、少しでも感じてもらえるとうれしい。
第三次から第四次へ グラビアと音楽活動
さて、そんな現在の声優ブームはどのような流れを汲み、醸成されてきたものなのだろうか。その源流をたどっていくと、約30年前までさかのぼることになる。その象徴ともいえるのが、1994年に創刊された『声優グランプリ』(主婦の友インフォス)だ。
当時としてもめずらしい声優専門誌で、グラビアページをメインに据える同誌の誕生は、いわゆる声優のアイドル的な需要の高まりを受けて生まれたもの。ちなみに創刊号の表紙は国府田マリ子&井上喜久子という、まさに当時絶大な人気を誇ったアイドル声優を代表するふたりだ。
当時の状況を指して第三次声優ブームと現在では呼ばれているが、当時その渦中にいたのは前述の二名に加えて、林原めぐみ、椎名へきる、横山智佐など。第三次声優ブームの特徴は、ラジオ・音楽活動・グラビアの三本柱だと言われている。
特に声優として初めてレコードメーカーと専属契約を行った林原めぐみのアーティスト活動と、1997年に声優として初の単独日本武道館公演を行った椎名へきるのアーティスト活動の影響は、現在に通じる地上波テレビ番組への露出という意味でも非常に大きい。
林原めぐみは独自の音楽性を追求すべく、自ら作詞を行い出演作品の主題歌を担当。数々のアニメ主題歌をオリコンランキングの上位に送り込む常連となった。椎名へきるは武道館単独公演の同年に『ミュージックステーション』(テレビ朝日)に声優として初めて出演を果たしている。
そんな彼女たちに対する次世代声優として登場し、2005年以降の第四次声優ブームの中核を担ったのは堀江由衣、田村ゆかり、水樹奈々、平野綾、そして男性声優の宮野真守らの存在である。数々の深夜アニメでヒロインを務め熱狂的なファン層を構築した堀江由衣や田村ゆかりのアイドル性は、第三次声優ブームの影響を正統的に受け継いだもの。
『涼宮ハルヒの憂鬱』で大ブレイクを果たしガールズロックやパンクロックのスタイルを取り入れた音楽性で同世代のスターとなった平野綾の、『HEY!HEY!HEY! MUSIC CHAMP』(フジテレビ)など積極的な地上波への露出が後続に与えた影響も大きかった。そしてなにより、林原めぐみが牽引した声優独自の音楽活動をさらに進化させ、声優アーティストという新たなスタイルを確立した水樹奈々が果たした役割はやはり絶大である。
声優初の紅白出場や声優初の単独東京ドーム公演、声優初のオリコン・週間ランキング1位などなど“声優史上初”という歴史的記録を連発し、同時に声優という職業に抱くイメージすらも拡張して見せた。そんな水樹の影響をさまざまな形で受け、彼女の導きもありキングレコード所属となった宮野真守は、現在に至るまで男性声優アーティストにおける孤高の存在として君臨。アーティスト活動、ミュージカル、TVドラマ、バラエティ番組への出演など、エンターテイナーとしての声優を象徴する存在となった。
第五次の波が生んだアイドル人気の過熱
そんな第四次声優ブームの影響を受けデビューしたのがスフィアや内田真礼、水瀬いのり、小倉唯、上坂すみれ、蒼井翔太、内田雄馬といった2010年代を牽引し今もシーンの最前線にいる声優アーティストたちである。そしてもうひとつ重要な潮流として、90年代の子役ブームの影響で誕生した多くの子役・子どもタレントたちが、のちに声優となるケース。平野綾や花澤香菜らが当てはまり、ほかにも日高里菜、小野賢章、入野自由、飯田里穂も子役・子どもタレント出身だ。
2000年代後半の『らき☆すた』や『けいおん!』の大ブレイクなどの影響で第四次声優ブームがユニットによるキャラソンや声優ユニットなど別フェーズに移行しはじめたそのとき、“第五の波”とでも言うべきビッグウェーブがアニメ・声優業界にやってきた。それが2010年からプロジェクトがスタートした『ラブライブ!』である。同シリーズの社会現象によってもたらさられたものはあまりにも大きい。
アイドル作品の先駆者である『アイドルマスター』シリーズの影響を受けつつも、“スポ根”的ドラマツルギーで独自のアイドルアニメのブランドを形成。アニメ、ライブ、アプリゲームで多くの若年層ファンの心を鷲掴みにしただけではなく、同シリーズから数々の声優アーティストを世に送り出した。
『ラブライブ!』シリーズが果たした影響はほかにも、たとえ声優未経験であっても、作中のアイドルたちのように作品とともに成長を遂げていく過程をドラマチックに見せたことも大きかった。その姿も物語としてファンの目に映り、まだ誰も経験したことがなかった新たな熱狂がライブの現場で生まれていった。
μ’sやAqoursが紅白歌合戦に出場、そして東京ドーム公演を成功させていく姿は、アニメ声優ファンに“推し”とともに成功を掴み取る新たな経験を与えた。これはかつての声優ブームにはなかった新しい成功体験の提供だったと思う。そしてそれは現在の『バンドリ!』シリーズや『D4DJ』などにも継承され、シンガーソングライターやミュージシャン、モデルから声優に挑戦するような新たな裾野を広げていっている。
そして第六次へ 時代とニーズの変化
その延長線上にある現在。“声優”という職業が内包する要素はあまりにも多岐にわたり、定義が限りなく曖昧になりながらも、「声で芝居をする」という軸を残しながら広大なエンターテインメント市場を形成している。声優という言葉の意味も、一般的な職業ではなくカテゴリーのようなものになり、歌手活動や楽器演奏、グラビア、バラエティ番組でのトークなどなど「声で芝居をする」プラスアルファの要素を現在の声優は求められている。
それでもアニメ・キャラクターの配役は、現在もだいたい9割はオーディションで決まっている。狭き門の先に待つ限られた椅子に座るために、厳しいオーディションを勝ち抜かなくては“アニメ声優”にはなれない現実があり、ただただマルチタレント化すればよい、という業界ではないこともご理解いただきたい。やはり作品あっての声優なのである。
この現在のような状況に対して、もちろん快く思わない昔からのアニメ・声優ファンが一定数いることも事実である。しかし林原めぐみは、過去に私のインタビューの中でこんな風に語ってくれたことがある。「求めてくれる人がいるから私も音楽活動をやりはじめた。
そしてやるからには、私のファンが“林原めぐみが好き”と言っても恥ずかしくないものをやろうと思った」「今の若い多くの声優たちの活動もきっと同じはず。お客さんが求めてくれた結果だからね」「だからよく“昔と違って今の声優は……”と言う人がいるけど、それはお客さんの変化を理解していない人が言っていることだと思う。
声優が変わった部分もあるとは思うけど、お客さんたちが声優に求めているものが変わっていったことを理解しないといけない」と。現在の声優ブームを取り巻く状況について、90年代にブームを生み出し30年以上第一線で戦い続けてきた彼女のこの発言こそ、まさに真理だと思う。
どんな現象もその栄光には影がある。良い面もあれば悪い面も浮き彫りになるが、その状況が生まれていることこそがブームと呼ばれる状況を指している。現在を“第六次声優ブーム”と位置付けるなら、果たして今回の声優ブームはどのような顛末を迎えるのだろうか。
▼本誌では語り尽くせなかった「声優ブーム」について、ゲストの飯田里穂と徹底解説するオンラインイベントも開催!▼
イベント概要
冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)
日時:7月5日(月)20:00〜22:00
配信:Zoomウェビナー機能
チケット購入:QJWebSHOPにて販売中
出演者:
冨田明宏
飯田里穂
※配信で使用するZoomのウェビナー機能はメールアドレスを登録いただくだけでご視聴いただけます
※チケット購入後に送られてくるURLより事前登録をお済ませください。事前登録後に当日の視聴URLをお知らせいたします
※アーカイブチケットの販売は7月11日(日)21:00まで
【チケット料金】
アーカイブ付チケット:1,650円(税込)
アーカイブのみ:1,650円(税込)
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冨田明宏
1980年生まれ、千葉県出身。アニメソング評論家、アニメソングプロデューサー。株式会社一二三所属。飯田里穂、内田真礼、黒崎真音などのプロデュースを手がける。『Quick Japan』にて「冨田明宏の読むアニメソング」を連載中
飯田里穂
1991年生まれ、埼玉県出身。声優、女優、歌手。TVアニメ『ラブライブ!』(星空凛役)で声優デビュー。『ラブライブ!』並びにμ’sとして紅白歌合戦への出場や東京ドーム公演を果たす。主な出演作に『アイドルランドプリパラ』(香田澄あまり役)、『終末のハーレム』(東堂晶役)、『オッドタクシー』(白川役)など
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冨田明宏×飯田里穂 声優ブームの最前線(延長戦)
日時:7月5日(月)20:00〜22:00
配信:Zoomウェビナー機能チケット購入:QJWebSHOPにて販売中
出演者:
冨田明宏
飯田里穂※配信で使用するZoomのウェビナー機能はメールアドレスを登録いただくだけでご視聴いただけます
※チケット購入後に送られてくるURLより事前登録をお済ませください。事前登録後に当日の視聴URLをお知らせいたします
※アーカイブ配信期間は7月11日(日)23:59まで
【チケット料金】
アーカイブ付チケット:1,650円(税込)
アーカイブのみ:1,650円(税込)
※アーカイブチケットの販売は7月11日(日)21:00まで関連リンク
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【イベント視聴者限定!飯田里穂サイン入りチェキプレゼント(当選人数2名)キャンペーン応募概要】
キャンペーンの応募期間、参加方法は以下をご覧ください。
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【応募期間】
2021年7月5日(月)イベント内での応募用ハッシュタグ発表後〜2021年7月11日(日)23:59まで(アーカイブ視聴期間終了)
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【ステップ1】
・QuickJapan編集部(@QJ_official)とQJWeb(@qj_web)のツイッターアカウントを両方フォローしてください。
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【応募完了!】
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