エヴァンゲリオン、人生を並走するアニメーションとして

2021.4.21


庵野秀明、紛れもない本人との邂逅

旧劇場版も、少ないお小遣いをフル活用して何度も観に行った。旧劇場版のラスト、アスカによる「気持ち悪い」というセリフ、そしてそれと同時に閉まる劇場の幕と、その瞬間に明るくなる劇場。エンドクレジットが中盤に挟まっていたのはこれを狙ってのことだったのか!と驚きながら、エヴァにハマり過ぎてノイローゼにさえなっていた自分と、そのセリフと共にいったんは完全にサヨナラした。

エヴァをきっかけに深夜アニメの道に入っていく同級生たちは多かったが、自分はそちらを選ぶことなく、高校では野球部の活動に勤み、オタクではなくサブカルの道へと進んだのだ。インディペンデントな音楽を聴き、根本敬や鶴見済の本を読み漁り、いろいろと「実践」も試みた。

ただ思えば、『クイック・ジャパン』や太田出版の存在を知ったのはエヴァあってのことであり(『スキゾ』『パラノ』はページが擦り切れるほどに何度も読んだ)、完全に逃れていたわけではなかった。

『庵野秀明 スキゾ・エヴァンゲリオン』大泉実成、庵野秀明 著/太田出版/1997年
『庵野秀明 パラノ・エヴァンゲリオン』庵野秀明、竹熊健太郎 著/太田出版/1997年

象徴的な出来事がある。野球部として筋トレに励んでいたある日、校門近くで腹筋をする自分の頭上を、ひょろ長い大男が通ったのだ。なんだか見覚えのある誰か……そう、庵野秀明本人だった。それはなんだか、自分が振り払ったと思ったエヴァの亡霊に捕まったと思わされたときだった。

その当時は知る由もなかったが、庵野秀明はそのとき、エヴァ後初のアニメ制作をした『彼氏彼女の事情』のロケハンに来ていたのだった(うちの高校はその舞台となっている)。この出来事があったからというわけではないが、僕は高校2年のときに野球部を辞め、バイトをしてお金を稼ぎ、本格的にカルチャーに浸る生活を選ぶことになった。

『クイック・ジャパン』Vol.10
『クイック・ジャパン』Vol.10

理解できなかった『:序』『:破』『:Q』

ただ、日本アニメやエヴァとは遠かった。大学時代にノルシュテインのアニメーションと出会い、その後、エクスペリメンタル/アンダーグラウンド/インディペンデントなものを中心に、アニメーションを専門として生きるようになったのが2000年代中盤くらいからである。最初のころは日本アニメからはむしろ意識的に遠ざかり、個人制作の作品ばかり称揚していた。当時は商業vsアートという枠組みも強く根づいていた。

『個人的なハーモニー ノルシュテインと現代アニメーション論』土居伸彰 著/2016年/フィルムアート社

そんな2000年代後半、庵野秀明が新劇場版を作り始めたときも、さすがに観に行かないということはなかったが、最初の3本は全然ピンとこなかったし、『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q』に至っては途中で寝た。そして再度観直そうとも思わなかった。『:Q』の公開翌年の2013年あたり(ジブリが『風立ちぬ』や『かぐや姫の物語』を公開したあたり)から、日本の劇場用長編アニメーションがとてもおもしろいと思えるようになり、湯浅政明や片渕須直、山田尚子、新海誠などは積極的に追うようになったし、文章も書くようになった。今では僕は国内海外関係なく、おもしろいと思える潮流について紹介・執筆をするようにしている。

『:序』『:破』『:Q』はそれ以前の時期に公開されたもので、僕自身のアニメへの感度が高くなかったということもあると思うが、この3作はやはり全然わからなかった。それは単純に、庵野秀明がやりたいことはもはや自分の関心とは関係がないのだ、というふうに理解していた。いやむしろ、なぜ庵野秀明が新劇場版を作るのか、単純に理解できなかった。なので、『シン・エヴァンゲリオン劇場版』についても、とても醒めた態度だったし、何も期待していなかった。相変わらず庵野秀明との変な縁はあり、自分が会社を構えた高円寺をふらつく姿をたまに見かけることがあったが、もう完全に別の道を歩んでいるのだと思っていた。

アニメーション云々に収まるような作品ではない


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土居伸彰

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土居伸彰

1981年、東京生まれ。アニメーション研究・評論・プロデュース。新千歳空港国際アニメーション映画祭フェスティバル・ディレクター。2015年に株式会社ニューディアーを立ち上げ、『父を探して』『大人のためのグリム童話 手をなくした少女』など海外作品の配給を本格的にスタート。国際アニメーション映画祭での日..

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