車社会の問題は人間の問題
この風変わりな世界を作り上げたのが、1992年生まれの見里朝希監督。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻の修了制作として発表したストップモーションアニメ『マイリトルゴート』でパリ国際ファンタスティック映画祭グランプリを受賞したほか、国内外の映画・アニメ祭で数多く受賞している新鋭だ。
ちなみに『マイリトルゴート』はグリム童話「狼と七匹の子山羊」をモチーフにした、もふもふしたかわいらしいキャラクターたちが猟奇的な雰囲気のなかでサイコな戦いを繰り広げるストレンジな作品だった。虐待につながるような親の過剰な愛情も描かれている(『モルカー』ファンのお子さんには見せないように!)。
『モルカー』でモルモットを車にした動機について、見里監督はこんなふうに語っている。
「渋滞や割り込み、煽り運転など、イライラする車の出来事が数多く存在する世の中。
『もしも車がモルモットだったら…』
癒し系の車『モルカー』ならそんなストレス社会を打破することができるのではないかと思いました」
(公式サイトより)
確かに車がモルモットだったら癒やされる。おまけにモルカーには感情があり、自分の意思で行動することもできる。一方、渋滞や割り込み、煽り運転などはすべて人間が引き起こしていることだ。つまり、車社会の問題は車が問題なのではなく、人間が問題だということが『モルカー』によってあぶり出されてしまった。
『モルカー』はコロナで疲れた人たちの心を癒やしているのではなく、コロナによってあぶり出された人類の愚かさに疲れた人たちの心を癒やしているのではないだろうか。全12話あるので先の展開はまだわからないが、なんだかそんな気がしてならない。とにかく今後にも注目である。
なお、『モルカー』は『ドラえもん』や『クレヨンしんちゃん』などで知られるシンエイ動画のバックアップによって制作されている。老舗のアニメ会社がこのようなチャレンジングな企画に乗り出しているのは、とても心強い。
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