『M-1』で爪あとをまったく残せなかったウエストランド。この結果はむしろ、ふたりにとっては“追い風”

2021.1.22
ウエストランド

ウエストランドは『M-1グランプリ2020』で、爪あとをまったく残せなかった。しかし、「この結果はむしろ“追い風”だ」と、生粋のウエストランドファンであるライターのすが家は語る。経歴やターニングポイント、爆笑問題との関係性を振り返る。

誰もここまで知らない? ウエストランドの経歴

ウエストランド
過去のウエストランド(左)井口浩之・ツッコミ担当/(右)河本太・ボケ担当

ウエストランドは井口浩之と河本太によって結成されました。

ふたりは共に岡山県津山市の出身。高校で同じサッカー部に所属し、親交を深めたふたりは、多少の紆余曲折を経て2008年にコンビを結成。1年半ほどフリーで活動してから、2010年6月に「タイタン」の預かり(試用期間のようなもの)となります。

それから10カ月後の2011年4月、ウエストランドは『オンバト+』(NHK)に出場することになります。『オンバト+』とは、10組の若手芸人がネタを披露して観客が投票、上位5組のネタが全国に放送されるというシステムを採用していたネタ番組です。ここで彼らは並みいる強豪を抑え、オンエア権を獲得します。当時のふたりのネタは、漫才コントが中心でした。

このオンエア権獲得がきっかけで、彼らは正式に「タイタン」所属となりました。

そのあともウエストランドは『オンバト+』に出場しつづけ、破竹の3連勝を記録。ところが、年が明けた2012年の3月、初の黒星を喫してしまいます。当時の彼らに何が起きたのか。事務所の後輩芸人に当たるまんじゅう大帝国との対談を収録した『笑いの学校』(まんじゅう大帝国/河出書房新社)の中で、井口本人が述懐しています。

ウエストランド

井口「お正月の『爆笑レッドカーペット』(フジテレビ)のオーディションがあって。ネタ時間が1分くらいの番組だし、どうせ普通にやっても落ちるっていう諦めもあったから、自分たちの漫才の特徴的な部分だけをやろうとした。当時の漫才は、僕がちょっと多めにツッコむところがあったから、そこを誇張しようと」。

このネタがスタッフの目に留まり、ウエストランドはオーディションに合格。確かな手応えを感じたふたりは、同様のスタイルの漫才を『オンバト+』にもぶつけました。しかし、結果は前述のとおり。それでも、ふたりがこのスタイルに迷いを感じることはありませんでした。なぜならば、彼らの尊敬する先輩芸人から、確かなお墨つきをいただいたからです。

今のスタイルをつづけている理由は、爆笑問題・太田のひと言にあった

現在のウエストランド

同時期、『漫才新人大賞』の決勝に残ったふたりは、7~8分のネタ尺を埋めるため、ここでも井口のツッコミを増やします。このとき、決勝戦の司会を務めたのが、事務所の先輩である爆笑問題でした。

当時はまだ爆笑問題とさほど関わりを持っていなかったふたりは、自分たちの漫才を観られることに不安を感じていたそうです。しかし、大会終了後、マネージャーに薦められてふたりは感想を聞くため、太田のもとを訪れます。

井口「そしたら「おもしろかったよ。お前ら、これやっていけよ」って」。

この太田の言葉を受けて、ウエストランドは自らのスタイルに自信を持ち始めます。どんどん長くなる井口のツッコミ。この芸風が板についてきたのか、『オンバト+』でも再び連勝を重ねるようになります。

やがて、井口のツッコミの矛先は、漫才の中の河本ではなく現実の河本そのものに向き始めます。この時期のネタが、彼らのベスト盤『漫才商店街』(コンテンツリーグ)に収録されています。以下、ネタ『牛丼屋』より抜粋。長々としゃべりつづけた井口に対し、河本が「大変ですね」と他人事のように発言したことで、井口のツッコミが爆発します。

井口「なにヘラヘラしてんだよ! お前みたいなヤツが相方だから大変なんだろうが! もっとちゃんとしたボケの人がよかったよ! しっかりとしたかけ合いの漫才がやりたかったよ! 何もしねえじゃねえかよ! 手ぶらでテレビ局に来て、楽屋の弁当むき出しで持って帰ってんじゃないよ! カバン持ってこいって怒られた次の日、これ見よがしにクソデカい登山用のリュック背負ってきてんじゃねえよ! 先輩怒らせて「坊主にしてこい!」って言われた次の日、おしゃれなパーマかけてきてんじゃねえよ! どうなってんだよ! ちょっとお前のダメエピソード止まんないよ!」

ここでウエストランドの漫才は火蓋を切ったと言っても過言ではありません。

ウエストランド
井口(右)のツッコミは止まらない

蔑まれ、追い詰められたときにこそ、彼らの嘆きは輝きを増す

そしてさらに、井口のツッコミは、ありとあらゆる気に入らない第三者への不満と苛立ちを撒き散らす方向へとシフトチェンジし始めます。売れないモテないみっともない芸人として、妬み嫉み僻みを爆発させるスタイルがふたりのキャラクターとがっちりマッチ。2020年の『M-1』決勝進出へとつながるのでありました。

しかし、その『M-1』での結果はというと、なんとも惨憺たるもの。ウケもスベりもしないどっちつかずな漫才。10組中9位という最下位ですらない中途半端な順位。その評価を受けて何も気の利いたことが言えない微妙なリアクション。ふたりはせっかくの大舞台で、爪あとの「つ」の字も残すことはできませんでした。……ですが、この結果はむしろ、ふたりにとっては追い風。蔑まれ、追い詰められたときにこそ、彼らの嘆きは輝きを増すのです。

その本領が発揮されようとしていた大会終了直後、ウエストランドはなんと新型コロナウイルスに感染してしまいます。なんと運のない。とはいえ、彼らのことですから、これすらもネタにしてしまうことでしょう。見せろ火事場のバカ力!

ウエストランド

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