ここで終わりなんてあり得ない『アンという名の少女』最終回の衝撃からまだ立ち直れない

Netflixオリジナルシリーズ『アンという名の少女』シーズン1~3独占配信中

文=米光一成 編集=アライユキコ


Netflix配信中の『アンという名の少女』は、原作『赤毛のアン』に現代的解釈を大胆に加えた作品。NHKの放送は11月1日の第8話「あなたがいてこそ我が家」(Netflix版7話)で最終回を迎えた。放送直前に大阪都構想否決のニュースが飛び込んできて、じわじわと55分遅れての不安なスタート、そして意外過ぎる幕切れに、SNSは騒然となった。ゲーム作家・米光一成が「衝撃1 マシューが、マシューが!」「衝撃2 ここで終わりなの───!?」「衝撃3 シーズン2とシーズン3が!!」と衝撃の正体を3つに分けて考察、先のシーズンも少し紹介します。

【関連】賛否両論を巻き起こしたNetflix『アンという名の少女』シーズン2はどうなる?

【衝撃1】マシューが、マシューが!

「そうなんだよ。アン、残念だがね。マシューの顔を、ご覧よ。私のように何度もこうした顔を見てきた者には、わかるんだよ」

『赤毛のアン』「第37章 死という命の刈りとり人」松本侑子訳/文春文庫

原作の終盤で、マシューは亡くなるのだ。
原因は心臓発作。貯えを預けている銀行が倒産したことを新聞を読んで知ってしまったショックで、だ。

だから、原作を知っていると、マシューが亡くなるのだろうと予感しながらドラマを観ることになる。
作物を積んだ船が沈んでしまい、マシューはグリーン・ゲイブルズを抵当にお金を借りてしまう。
相談なしに事を進めるマシューにマリラは怒り、ケンカになり、マシューが心臓発作を起こして倒れてしまう。
ひとりになったマシューが、ベッドから立ち上がる。不穏な曲が流れている。直前に、マリラとの会話の中で自殺をほのめかしている。マシュー、やめてー、やめてー! 
ピストルを取り出す。
今までも、原作よりもハード路線だったドラマだが、それは、いくらなんでもやめてくれよ。
と祈りながら観ていると、ジェニー(6話、マシューと幼なじみで淡い恋があったことが描かれている)に見つかり、マシューは思いとどまる。

『赤毛のアン』の世界をシビアかつハードにアレンジして「裏赤毛のアン」「ダークアン」とさえ呼ばれた『アンという名の少女』だったが、マシューの命は救った。
というよりも、『アンという名の少女』は、「マシューを殺さない」ために、巧妙に物語をアレンジしてきたのだ。

原作『赤毛のアン』ではマシューが死んで、マリラの眼が不自由になり、アンは大学進学を諦める
引用する。

「でも、私のために、あんたを犠牲にできないよ、とてもじゃないよ」
「そんなことないのよ!」アンはほがらかに笑った。「犠牲なんかじゃないわ。グリーン・ゲイブルズを手放すより嫌なことなんて、なんにもないわ……これ以上つらいことはないのよ。この住み慣れた大切なわが家を、二人で守っていかなくてはいけないわ。マリラ、私はもう決めたの。レッドモンドへは行かない。ここに残って先生になるの。だから私のことは心配しないで」
「でも、あんたの将来の夢は……それに……」

『赤毛のアン』「第38章 道の曲がり角」松本侑子訳/文春文庫

さらに、リンド夫人がこう言う。

「大学進学を諦めたそうだね。よかったですよ。女として困らない程度の教育は、もう十分、受けたんだから。男と肩を並べて大学へ行って、ラテン語だ、ギリシア語だと、くだらない知識をつめこむような娘は、どうかと思いますよ」

『赤毛のアン』「第38章 道の曲がり角」松本侑子訳/文春文庫

もちろんアンは「ほどほどに勉強する」と反論する。
アンは、もともとの将来の夢を諦め、大学を諦め、家にいることを決意するのだ。

『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著、松本侑子 訳/文藝春秋。詳細な注釈がついた新訳版
『赤毛のアン』L.M.モンゴメリ 著、松本侑子 訳/文藝春秋。詳細な注釈がついた新訳版

自己犠牲を覆したかったのではないか

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