Netflix配信中の『アンという名の少女』は、原作『赤毛のアン』に現代的解釈を大胆に加えた作品。NHKで先週放送された第6話「固く結ばれた糸」(Netflix版5話)では、アンに初潮が訪れる。原作には存在しないエピソードが、有名な「いちご水」事件につながっていく見事な構成を、ゲーム作家・米光一成が考察する。
胸がふくらんできた!
NHK総合で10月25日(日)夜11時から第7話。「ミニー・メイ事件」「愛する人を亡くす気持ち」「アンとギルバート」の巻だ。
第6話は、「スペリング対決」「木いちごのジュース事件」「ギルバートの家庭事情」「マシューはじめてのお買い物」と盛りだくさんでありながら、大人になったアンがふくらんだ袖の服を着て祝福されるシーン目がけて展開していく回だった。
夜中、赤い血のついた服を洗うアン。
初潮の知識がなくて混乱している。原作にはないエピソードだ。
マリラから、学校を休みなさいと言われるが、アンはギルバートに負けたくなくて学校へ行く。
女子トークでも生理の話で盛り上がる。
ジョージー「胸がふくらんできた」
ダイアナ「お父さんがエスコートしてくれる、それ以来」(←このセリフがラストにかかってくる)
ルビー「わたしは大人じゃない、まだ来ないの」
ティリー「生理は恥ずかしいことなの」
アン「赤ちゃんが産めるってことでしょ、どうして恥なの?」
授業にも身が入らない。
「大人になるって試練なのね」
家に帰っても、機嫌悪いし、食欲もない。
「大人と言えば……」マリラは見かねたのか「ダイアナをお茶に呼んでもいい」と許可を出す。
アンは、くるくる回って大喜び。
さっそくダイアナを招待して、お茶会を開き、木いちごのジュースでもてなす。
村岡花子訳では、木いちごのジュースは「いちご水」だった。松本侑子訳ではラズベリー水。
「このジュース、わたしがカスバート家の一員になって乾杯したときのものとは違うみたい。でも、もっとおいしい」とアンが言う木いちごのジュースを飲んで、ふたり共酔っ払い始めてしまう。ジュースではなく、赤すぐり酒(カシス酒)だったのだ。
「おっぱい!」「おっぱい万歳!」と大声で笑うダイアナ(吹き替えでは「胸がふくらむ!」「なぜなら胸があるから!」だったが、ここは字幕の「おっぱい!」「おっぱい万歳!」のほうが酔っ払い感が出てる)。
ダイアナの母親バリー夫人が酔っ払ったふたりを見つける。怒ったバリー夫人は、ふたりに二度と会わないようにと言い渡す。マリラが「2週間の期限を設けるのはどうです?」と提案するが受け入れられない。頑なに拒絶する。「永久に絶交です」と宣告。
原作では、このあたりの事情が書かれている。
〈マリラの果実酒は、味の良いことでアヴォンリーでも評判だった。もっとも、厳格な人の間では、非難の的となっていて、バリー夫人もその一人だった。〉(『赤毛のアン』第16章・松本侑子訳/文春文庫)
舞台である1880年代のプリンスエドワードアイランド州は、プロテスタントからアルコールへの警戒心が強くなっていった時期だったという背景が、マリラの「牧師様に注意されたときにてっきり(赤すぐり酒は)捨てたものだと」というセリフにつながっている。
1900年になると同州で禁酒令が施行される。
生理の期間も終わって、「次はイライラしないわ」と語るアン。
そのアンに、マシューからのプレゼントが渡される。
白い箱に赤いリボン。
初潮、木いちごのジュース、リボン。第6話のキーは赤だ。
箱の中のふくらんだ袖のドレスに喜ぶアン。
45分のドラマの中でジェットコースターみたいに気分がアップダウンするアンであった。
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