『ザ・ボーイズ』の脳天をぶっ叩く衝撃。あの“戸愚呂・弟”以上の絶望(トンツカタン森本)

2020.10.12
『ザ・ボーイズ/THE BOYS』

文=森本晋太郎 編集=田島太陽


世界を守るスーパーヒーローが、もしもとんでもないゲス野郎だったら?

Amazon Prime Videoで配信中の『ザ・ボーイズ/The Boys』はそんな作品である。お笑い芸人、トンツカタンの森本晋太郎が、この作品で感じた“戸愚呂・弟”以上の「絶望」をレビューする。

トンツカタン 森本晋太郎
トンツカタン 森本晋太郎

ヒーローに恋人を殺された男が主人公

飛行、怪力、高速移動、不死身……。さまざまな特殊能力を持ったスーパーヒーローたちが世のため人のために巨悪を成敗する作品は枚挙にいとまがない。

『ザ・ボーイズ』もその中のひとつ……と、観る前は思っていた。しかしその予想はいい意味で大きく裏切られた。

『ザ・ボーイズ/THE BOYS』
ヒーローたちのリーダー・ホームランダー(左)と、新人ヒーローのスターライト(右)

約200名のスーパーヒーローを管理する会社、ヴォート・インターナショナル。そこに所属するヒーローたちは日々悪に立ち向かい、アメリカの治安を守る正義の味方。その中でも突出した実力と人気を誇る7人のスーパーヒーローにより構成される「セブン」という組織はアメリカ国民の憧れの的だ。

だが、その華やかで清廉潔白なイメージとは裏腹に、ヒーローたちの実態は退廃しきっていた。夜な夜な欲望のままに遊び歩き、能力を持たない一般人を見下し、常に自分の利益のために行動する……。特にセブンのリーダーであるホームランダーはその典型で、自分の思いどおりにならないと平気で人を殺す幼稚で冷徹な性格。圧倒的な能力を持つために、ほかのスーパーヒーローでさえ恐れ慄(おのの)いている。

小さな電器店で働くごく普通の青年、ヒューイはある日なんの罪もない恋人をスーパーヒーローに殺されてしまう。あってはならない惨事にもかかわらず、ヴォート社によるかたちだけの謝罪に憤りを覚えるヒューイだったが、敵はあまりにも強大なために何もできずにいた。そんなヒューイの前に現れたのがFBIを名乗る大男、ブッチャーだった。

「ザ・ボーイズ」のメンバー
ヒーローに立ち向かう「ザ・ボーイズ」のメンバーたち。一番左がブッチャー、その隣がヒューイ。中央は日系アメリカ人の福原かれん演じるキミコ

ブッチャーからヴォート及びスーパーヒーローたちの実情を教えられたヒューイは、彼らへの復讐を誓い、ブッチャー率いる「ザ・ボーイズ」に参加することを決意する……。

戸愚呂・弟が幽助に放った、あのセリフ

とにかくこの作品は過去のヒーローものをすべて「フリ」に使った作品である。幼少期から植えつけられてきた「ヒーロー=正義」という揺るがない常識を容赦なくぶち壊してくる様はもはや快感だ。ヒーローものではあまり見ない強烈なグロテスク描写がこれでもかというくらい散りばめられており、いとも簡単にスナック感覚で人を惨殺していくスーパーヒーローたちには恐怖と絶望を抱かざるを得ない。

僕はこういった正義と悪が対峙する作品に欠かせないのは絶望だと思っている。少しでも「これ主人公勝てそうじゃん」と思ってしまうと途端にハラハラ感がなくなってしまう。『幽☆遊☆白書』(冨樫義博/集英社)で戸愚呂・弟が幽助に放った「おまえもしかしてまだ、自分が死なないとでも思ってるんじゃないかね?」というセリフは、とてつもなく絶望したことを今でも鮮明に覚えている。「え……これ本当に死ぬかも。冨樫先生、マジ?」と思わせる説得力が戸愚呂・弟にはあった。そして『ザ・ボーイズ』はそれを上回るほどの絶望に満ちている。逆に希望を見出すほうが難しい。

戸愚呂・弟
『幽☆遊☆白書』12巻(冨樫義博/集英社)サングラスをしているのが戸愚呂・弟

能力を持たない人間がスーパーヒーローに挑むというだけでも無謀なのに、ホームランダーに至っては飛行、透視、人間離れした聴力、銃弾も跳ね返す肉体、目からすべてを焼き尽くすレーザーを出すなど、フルコースみたいな能力を持ち合わせている。今ではホームランダーが登場するたび「こんなの勝てるわけない……もう諦めようよ……」と主人公たちを諭すような気持ちになっている。

給料明細を片手に、さらなる絶望をトッピングして最終話を楽しむ

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