湯浅監督作品の視点から見る『日本沈没2020』
カートゥーンアニメからの影響を感じさせる、繊細かつ軽妙なキャラクターの動きは湯浅作品の持ち味と言えるが、本作においてもそれが功を奏している。都市の崩壊という骨太で凄惨な描写における人間の無力さが浮き彫りにされる一方で、キャラクターたちのしなやかさこそ希望・変化の象徴ともなっている。
一度築き上げられた都市は、いかに歪(いびつ)でもそう簡単に形を変えられないことは現在の渋谷の再開発を見れば明らかであるが、翻って「人間はどうなのか?」との問いがそこにはある。
事実、私たち自身も、“ウィズコロナ”と呼ばれる新たな生活様式を求められているなかで、意識の変化・変革は必須といえる。偶然なのか必然なのか、『日本沈没2020』のキャラクターたちほど切迫したものではないにせよ、変化が未来につながるという状況は見事に符号するのである。
最後に、日常の崩壊という点では設定を同じくする『DEVILMAN crybaby』との共通点について。どちらも“つなぐ”、“走る”ことがひとつのモチーフとなっており、主人公が陸上選手という設定をあえて引き継いでいるのはそうした意識の表れであろう(ちなみに今回の主人公の名前は「歩」で、弟は「剛(Go)」だ)。
たとえば、キャラクターたちは未来を掴もうとする、もしくは後人たちに未来を託そうとする場面で、必死に前を向く。具体的には、走ったり、泳いだり、潜ったり、飛んだりする。そのなかで、歩や剛、カイトといった主人公たちは、血こそつながっていないものの、やがて社会や国家を再生させる大きな意味での“家族”を形成していく。
武藤家という核家族の視点から日本の崩壊を示したこの物語は、沈没する国土の中で本当に大切なものを眼前に突きつけ、人種や出自に関係なく、社会や国家再生のために身を粉にする彼らの一歩へと接続されて終了するのだ。
物語の中で武藤家が未来へとつないだバトンは、今を生きる私たち一人ひとりにも等しく託されているはずだ。それを誰に、どのようにつないでいくのかを真摯に考えることを、『日本沈没2020』という作品は訴えている。
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Netflixオリジナルアニメシリーズ『日本沈没2020』
Netflixにて、7月9日(木)全世界独占配信
監督:湯浅政明
原作:小松左京『日本沈没』
音楽:牛尾憲輔 脚本:吉高寿男
アニメーションプロデューサー: Eunyoung Choi
シリーズディレクター:許平康
キャラクターデザイン:和田直也
アニメーション制作:サイエンスSARU
ラップ監修:KEN THE 390
主題歌:「a life」大貫妙子 & 坂本龍一(作詞:大貫妙子/作曲:坂本龍一)
(c)“JAPAN SINKS : 2020”Project Partners関連リンク
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