深酒で寝坊したオズワルド伊藤が、初出演で残した爪あと
これまでも多くの「ヤバい芸人」と仕事をしてきた僕だが、最近になってスター性を感じる新たな「ヤバい芸人」を見つけたのでここに報告しておきたい。なんの根拠もないけどめちゃくちゃブレイクするんじゃないかという予感がプンプンしている。
若手芸人が罰をかけてシンプルにゲーム対決をする「RIFUJIN」という企画の収録をしたときの話。午前11時のロケ開始に向けてスタンバイを進めていると番組のAPがちょっと困ったような表情で耳打ちをしてきた。
「オズワルドの伊藤俊介さんが寝坊でまだ到着してません……」
ダメな人の基本行動、寝坊。本人に会ったことはないが午前11時という一般人なら会社にいて当たり前の時間に来れない点から考えても、なかなかなダメ人間っぷりが推測できる。さらに相方である畠中悠の情報によると寝坊の原因は前日に深酒をしてしまったからで、しかもこれが初犯ではないらしい。番組初登場から深酒で寝坊という大失態をやらかす若手芸人の登場に僕は「これは相当ヤバい人に違いない」というワクワクが止まらなかった。
午前11時。伊藤が不在のままオープニングトークの撮影が始まった。当然話題は伊藤の寝坊の件で持ち切り、言うなれば「伊藤の言い訳」を早く聞きたいという状態である。大チョンボをした若手芸人が到着時にいったいどんな第一声を発するのか、その場にいるすべての人が期待した。 15分後、そんなオープニングトークも終わりかけというベストタイミングで髪ボサボサの伊藤が現場に到着。遅刻のショックなのか二日酔いのせいなのかはわからないが顔は完全に青ざめている。吐きたてホヤホヤの表情をカメラがバッチリと抜いたのを確認したアルコ&ピース酒井健太が「何やってんだよお前!」とさっそく仕掛けた。すると伊藤は
「電車の中で衣装に着替えてきたんですけど、初めて売れてなくてよかったと思いました」
メガネでヒゲでサスペンダーの不審者が山手線で服を脱いだり着たり。ほかの乗客に通報されたってちっとも不思議ではない不気味な光景を想像して全員が笑った。さらに伊藤の言い訳はつづく。
「朝5時まで入間国際宣言の西田どらやきさんと飲んでまして
やっぱりどらやきさんの誘いは断れないっすよねえ」
遅刻の責任を先輩になすりつけつつ「誰だよそれ」のツッコミをも誘発させる高度な言い訳テクニック。遅刻のミスを帳消しにするかのように登場から立てつづけに爆笑を取っていく伊藤に僕らは驚愕した。酒臭い息を撒き散らしながらヘラヘラとツッコミを入れていく「酔拳スタイル」でその日伊藤は笑いと撮れ高を大量に増産、現場を最後まで回しつづけた。
「ヤバい人」に出会ったかもしれない、そう思った。もちろん「ダメ人間」という意味ではなく「とんでもないスター」に化けそうな人という意味で。僕の14年間のディレクター人生を振り返ってもあんなに的確に、しかも独自の切り口でツッコめる若手芸人を僕は知らない。善は急げと言わんばかりにAPが担当マネージャーに連絡、さっそく次の収録日のスケジュールを押さえた。深酒で遅刻した人に仕事が舞い込むというこの状況に先方はいささか困惑していたようだった。
その1週間後、再び『勇者ああああ』の現場にオズワルドはやってきた。しっかり反省したようで入り時間の30分前に到着していた伊藤。先日の失態をスタッフに詫びつつ、こう言った。
「この番組で遅刻した3日後、ライブでまた遅刻しちゃいまして。
でも『勇者ああああ』で大丈夫だったからなんとかなるかと思ったら信じられないぐらいブチギレられました(笑)」
やっぱりこの人はただの「ダメ人間」なのかもしれない、でもおもしろいから別にいいか、と僕は思った。
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