「15歳の母」の衝撃
今回配信開始したのは1979年に放送された第1シリーズの前半(1~12回)。
武田鉄矢自身、まだ役者にも金八にもなり切っていない時期。ほぼ素人の生徒たちと一緒にのたうち回りながら、売れないフォークシンガーが役者になっていく過程を観られる生々しいシリーズだ。
この第1シリーズのメインテーマは「15歳の母」。
浅井雪乃(杉田かおる)と宮沢保(鶴見辰吾)の優等生カップルが〝愛の証〟として性交渉をしたことで妊娠。15歳にして出産を決意する、あまりにも有名なエピソード。
ほとんど演技経験のない有象無象の生徒役たちの中、72年「パパと呼ばないで」(日本テレビ)のチー坊役ですでに人気子役になっていた杉田かおるの存在感は圧倒的で、迫真の演技で中学生妊婦という難役を演じ切っている。
今放送したとしてもまあまあショッキングな中学生の妊娠。当時の衝撃は相当なものだったようで、妊娠が発覚する第4回「十五歳の母・その1」で一気に視聴率が跳ね上がっている。
ただ、当初は否定的な意見が大半で、「ウチの生徒が妊娠したと思われると困る」と、撮影に使っていた中学校が借りられなくなってしまい、以降、学校の外観がほとんど登場しなくなっているのだ。
ジャニーズ事務所の隆盛は『金八』のおかげ!?
「15歳の母」が第1シリーズの最重要エピソードではあることは間違いないが、今後配信される第1シリーズ後半にもつづくのでひとまず置いておく。
今回、知っておいてもらいたいのは、現在のジャニーズ事務所の隆盛は、この『金八先生』第1シリーズからはじまっているということ。
1960〜70年代にかけて、ジャニーズやフォーリーブスで男性アイドルのノウハウを構築したジャニーズ事務所は、ジャニー喜多川のアイドル理想像とも言われる郷ひろみで大ブレイクを果たす。しかし1975年に突然、郷ひろみがバーニングプロダクションに引き抜かれる形で退所してしまった(しかもジャニーズJr.数名を引き連れて)。
事務所を牽引していたフォーリーブスも1978年に解散し、長い低迷期に突入。ジャニーズとしては異色の男女混合グループ・VIPや女性トリオのスリーヤンキースを手がけるなど、1970年代後半はかなり迷走していた時期なのだ。
そんなジャニーズ事務所を救ったのが、田原俊彦、野村義男、近藤真彦の「たのきんトリオ」。言うまでもなく、『金八』に生徒役として出演したことをきっかけに大ブレイクした3人。
第1シリーズ前半にはそんな、たのきんのメイン回が目白押しだ。
第3回「君は裸のビーナス」は野村義男メイン回。
風呂屋の息子・梶浦裕二(野村義男)は、他校の女生徒にひとめぼれしてしまったことで何も手につかなくなってしまう。そんなとき、梶浦が風呂屋の番台に入っていると、その女生徒が……。彼女の裸を見て股間を押さえるよっちゃんに「チーン」という面白効果音が当てられている。
第7回「学ラン長ラン大混ラン」は近藤真彦メイン回。
星野清(近藤真彦)が突然、校則違反である長ランを着て登校したことで学校は大混乱に。生徒の気持ちを理解するため、金八も一緒になって長ラン&サングラス&ゲタというクレイジーな格好で街を歩き回る面白エピソード。
マッチたちに絡んでくる他校の不良役で柳沢慎吾や、第2シリーズのメイン生徒・加藤優を演じることになる直江喜一たちが登場しているのも見どころ。
第11回「母に捧げるバラード」は金八と生徒たちが海援隊のコンサートに行くという、どうかしている回。30分近く延々と海援隊コンサート&鉄矢のMCが放送される。
海援隊の歌『母に捧げるバラード』に絡めて、母親のいない沢村正治(田原俊彦)が金八と心を通わせる重要なエピソードでもある。
3人とも演技はヘタクソなのだが、ほかの生徒たちとは明らかに違う輝きを放っており、特にトシちゃんの仕上がりはスゴイ! 『金八』出演時、月に最高18万通ものファンレターが送られてきたというのもうなずける色気なのだ。
この3人の大ブレイクによってジャニーズ事務所は息を吹き返し、その後は低迷することもなく、芸能界において確固たる地位を築き上げている。
『金八先生』では、以降のシリーズでも「ジャニーズ枠」が確保され、森且行(SMAP)、長野博(V6)、風間俊介、亀梨和也(KAT-TUN)、増田貴久(NEWS)、加藤シゲアキ(NEWS)、薮宏太(Hey!Say!JUMP)、八乙女光(Hey!Say!JUMP)などなど、デビュー前の有望株が送り込まれているのだ。