アイドルを始めた中1、メンバーたちが自撮りをする光景に半泣きになった理由。「自分だけは自分を認められる瞬間」を信じて(石野理子『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』レビュー)

文=石野理子 編集=菅原史稀


2023年よりソロ活動を開始し、同年8月にバンド・Aooo(アウー)を結成した石野理子。連載「石野理子のシネマ基地」では、かねてより大の映画好きを明かしている彼女が、新旧問わずあらゆる作品について綴る。

第21回は、エイミー・シューマー主演のコメディ映画『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』。自分の容姿に自信を持てずにいた主人公が、あるハプニングをきっかけに「最高に美しくなった!」と思い込むことから始まる物語だ。見た目は何ひとつ変わっていないのに、自信を手にしただけで仕事も恋も日常も驚くほど変わっていく。

ポップで笑える展開のなかに詰まっているのは、他人からの見られ方ではなく、自分自身をどう見るかというシンプルだけれど難しい問い。これまでなんとなく「自分の好みとは違うかも」と本作をスルーしてきた石野も、友人からのひと言をきっかけに鑑賞してみると、思いがけず自身の経験と重なる部分があったという。一本の映画から、自信やコンプレックス、そして自分自身との付き合い方を考える。

『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』あらすじ
容姿に自信が持てず悶々とした毎日を送っていた主人公・レネー(エイミー・シューマー)はある日、ダイエットを決意し、通い始めたジムのエクササイズ中に頭を強打。目を覚まして鏡を見ると、理想の美人に大変身! という、奇跡的な思い込みによって自信を持ったレネーは、憧れるオフィスの受付嬢に昇進し、やさしい彼氏もゲット! 恋も仕事も絶好調のはずだったレネーだが──。

※本稿には、作品の内容および結末・物語の核心が含まれています。未鑑賞の方はご注意ください。

“好みじゃない”映画がくれた体験

ポスタービジュアルがピンクでキラキラしていて、いかにもイケイケな女性が写っている作品。コメディ要素もありながら、どこか自己啓発っぽかったり、息が詰まるような女性社会を描いているような映画は、けっして抵抗があるわけではないけれど、「自分の好みとは少し離れているな」と思って、これまでスルーしていた。

しかし、ある友人に「意外と好きだと思うよ」とお勧めしてもらい、すごく新鮮な体験をした。今回は、そんな映画体験を共有したいと思う。作品は『アイ・フィール・プリティ! 人生最高のハプニング』。

まず、タイトルに「!」が入っているような作品に出会ったこと自体、私の人生で初めてだった。お勧めされなければ、きっと一生観ずに素通りしていただろう。

ストーリー自体はとてもシンプルな内容なのに、「私がこれまで自分の容姿とどう付き合ってきたのか」を強く考えさせられた。

初めて鏡をちゃんと見たような衝撃

私が自分の容姿を意識し始めたのは、中学1年生のときだ。事務所に所属することになり、アイドル活動の準備のためにグループのメンバー候補生が集められた。みんな、私から見たらとってもかわいかった。

全員と初めて顔合わせをして、第1回目のミーティングやレッスンを終えて帰ろうとしていたとき、ほかの子たちがいっせいにメンバー候補の子たちと自撮り写真を撮り始めたのだ。

すると私は突然、それまで気にしたこともなかった自分の容姿が急に気になりだして、その場にいることが嫌になり、劣等感でいっぱいになってしまった。なぜかはわからない。でも、初めて鏡をちゃんと見たような衝撃があった。ただかわいい子たちが楽しそうに自撮りをしている様子を見て、泣きそうになった。いや、もう半泣きだった。

気さくに「りこちゃんも一緒に写真を撮ろ〜」と言ってくれた子がいたのだが、半泣きで「私は大丈夫」と断ると、すごく心配された。誰も傷つくことをしていないし、怒られてもいないのに涙を流しているのだから、まわりからしたら意味がわからなかっただろう。

そんなショッキングな体験がありつつも、ライブをしたり自撮りをしたりする機会が増えていき、自分に対する自己評価は相変わらず低いものの、慣れのせいか容姿に対して泣くほどの悲しさはなくなっていった。

しかし、ファンの方に「かわいいね」と言ってもらえても、どうしても素直に受け取れない自分がいた。ほかの言葉は素直に受け取れるのに、それだけは受け取れなくて、何度もファンの方を困らせてきたことだろう……。

少し先の未来を変える

そういった自己肯定感の低い私は、容姿にコンプレックスを抱える主人公のレネーにすごく共感した。

私もそうなのだが、自信がないとつい謙遜したり、自虐したり卑下するような言動をとってしまうことが多々ある。そして、意識が自分に向きすぎていて、かえって相手の純粋な優しさや好意を否定してしまう。

主人公のレネーは、ジムでのアクシデントで「美人に変身した」と勘違いする。胸を張って街を歩き、選ぶ服やメイクもかつての彼女ならしなかったスタイルに挑戦する。仕事や恋にも精が出て、嫌味を言われてもポジティブに変換して受け取る。自分自身の見え方が変わっただけで、内面や表情が180度変わったのだ。

しかし自信がついた反面、いつの間にか彼女は「容姿で優劣をつけるようなマインド」になってしまっていた。そして調子に乗った言動が友達を遠ざけてしまう。

夢のような時間は長くは続かず、元の自分へ戻り、すっかり自信をなくしたレネーは魔法の再現を試みるがうまくはいかない。けれど、彼女の容姿とは関係なくそばにいてくれた人の存在や言葉に触れ、レネーは自身の魅力に改めて気づいていく。

レネーが魅力的だったのは、見た目じゃなくて、彼女のタフさやスマートさ、内面からあふれ出る自信があったからだ。

だからこそ「自己暗示」の効能って絶対にあると思う。気持ち次第で、自分がいる場所の空気感まで変えちゃうパワーがあるのだ。

私は過去の環境的に容姿を気にせざるを得ない時期もあったけれど、大人になるにつれて、自分に対する惨めさや執着は薄れてきたように思う。それなりに自分の価値観ができて、がんばったぶんだけ達成感を得られた経験が、少しずつ自分を支えてくれるようになったからかもしれない。

自信というものも、ある日突然身につくものではなく、地道に積み重ねてきたものの結果だ。だからこそ、今すぐ自信は手に入らなくても、少し先の未来を変えるために勇気を持つほうが手頃かもしれない。勇気を出して得た失敗や成功が、いつか自信や自己肯定感につながるはずだと信じて、私も日々をがんばろうと思う。

そもそも、人の容姿を好き勝手言うデリカシーのない人間も一定数いる。そんな声は無視だ。突き返そう。人の基準に合わせる必要なんてまったくないのだから、自分だけは自分を認められるような瞬間が、これからもっと増えたらいいな。

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石野理子

(いしの・りこ)2000年10月29日生まれ。広島県出身。2014年、アイドルグループ・アイドルネッサンスのメンバーとして活動スタート。2018年、同グループ解散後、バンド・赤い公園のボーカリストに就任。2021年に解散。2023年よりソロ活動を開始し、8月に、バンド・Aooo(アウー)を結成。また..