SKY-HIがBMSGのCEOとして圧巻のプレゼンテーションを披露「アーティストのすべきことは“夢の見方を教える”こと」

2025.4.19
SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より

撮影=ハタサトシ

文=羽佐田瑶子 編集=森田真規


2025年4月16日、芸能事務所/レーベル「BMSG」が関係各社に向けてビジネスカンファレンス『Greeting & Gathering ’25』を開催した。そこでBMSGのCEOであるSKY-HIこと日高光啓が1時間弱にわたるプレゼンテーションを行い、所属アーティストやトレーニーによるショーケースも実施された。

ここでは、『Greeting & Gathering ’25』に参加したライターによるレポートをお届けする。

BMSGの未来をつくる、5つの成長の話。【2025 BMSG CEO PRESENTATION】

アーティストのすべきことは“夢の見方を教える”こと

設立から5年。信じられないほどのスピード感で数多の成功を収めてきたBMSGという芸能事務所/レーベルの記念すべき年のプレゼンテーションは、今年も「才能を殺さないために。」という原点から始まった。

「中学から芸能を始めてきた自分だからこそ、わかることがあります。自分が生き延びてきたことに意味があるとすれば、痛みや苦しみをなくすこと」

そんな思いで、育成制度やレーベルの発足など「才能を殺さないため。」の土台作りに奮闘してきた。そして、その存在感が大きくなってきたからこそ、成長のための挑戦を止めなかったBMSGが得たもの(得るもの)は5つの成長「GROWTH5(グロース)」だと話す。

SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より
SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より

ひとつ目のトピックスは、成長を作る歴史の集大成として位置づける『THE LAST PEACE』。昨年の『BMSG FES’24』で発表され、BMSGとして3つ目のボーイズグループを誕生させるオーディションプロジェクトだ。SKY-HIが「僕の宝物」と胸を張る3人のトレーニー・RUI、TAIKI、KANONも参加。「自ら志願して二次審査から受けてくれている」と本気度を示す。

印象的なのは、各国でオーディションが盛んに行われるなかで『THE LAST PEACE』は、はっきりと“10代”に焦点を絞っている点だ。それは、世代を区分けするわけではなく、アーティストとして果たすべき課題意識からだ。

かつての渋谷や原宿といった、10代が夢中になれるカルチャーが生まれる場所がないこと。先進国の中でも特に幸福度が低い日本の状況に、「アーティストも責任を感じるべきだと思います」と問いかける。

「アーティストのすべきことは“夢の見方を教える”こと。救うべき才能をそのつど救ってきましたが、すべての10代にしっかり向き合うべきだと思いました。(……)彼らの衝動に火をつけていきたい。夢の見方を教えたい。夢や綺麗事を、胸を張って歌っていきたい」

そして、『THE LAST PEACE』も以下のとおり発表された。

すべての10代と、
かつて10代だった、
すべての人へ。

SKY-HIは常々、若い世代に受け継ぎたい社会性を伝えることに奮闘し、実際に育成制度もアーティストとしての技術向上に限らず、人間性を育てることにも重きを置いていた。このオーディションも“humanness”のひとつの過程として、意義のある社会現象になるのではないかと期待する。オーディションの配信は2025年6月末より、YouTubeのほか『THE TIME,』(TBS)でも報道として密着が配信される。

常にオルタナティブな存在であるために

ふたつ目のトピックスが「『No No Girls』とHANA」。ちゃんみなをプロデューサーとして迎えたオーディションプロジェクト『No No Girls(通称ノノガ)』から生まれた7人組ガールズグループ「HANA」の活躍は目を見張るものがあり、SKY-HIも「ノノガをやれたことを誇りに思う」と話す。

Kアリーナ横浜で行われた『No No Girls FINAL』YouTube配信の同時接続数は56万以上を記録。デビュー曲「ROSE」はBillboard JAPAN総合ソング・チャート“JAPAN Hot 100”で初登場首位を獲得するなど好成績を残しながらも、「一過性のトレンドではなく、彼女たちのアティチュードや音楽性にフォーカスしたいと思ってB-RAVE(BMSG傘下の事務所)を作った」とあくまでも足元を見るのは、「才能を殺さないために。」というBMSGの原点と重なる。

だからこそ、「HANAはBMSGの仲間で、一緒に夢を見ていく仲間です」という宣言は、これからの加速を約束する言葉として安心をもらえるものだった。

3つ目のトピックスは自社レーベル「Bullmoose Records」について。「BMSGの音楽を成長させることが、音楽業界を成長させることにつながると思っています。僕たちは独占状態ではなく、音楽業界とのかけ算で、業界をビルドアップしたい」と話すように、BMSGとして音楽制作の環境を整えることで、既存のやり方に疑問を投げかける。

「音楽ビジネスの、CDの売れ行きを予想して予算を決めるやり方だと投資が生まれなかったり、予算回収までのフェーズが短くて失敗ができなくなり、挑戦もできなくなっていく。そうすると、アーティストとしてのポテンシャルも下がっていくと思います。だからこそ、BMSGはクリエイティブファースト、クオリティファーストをしっかりやり続けたい。たとえばAile The Shotaのアルバムパッケージは、Shotaが持っているセンスを昇華させたもの。めちゃくちゃかっこいい」

BMSGの音楽作りの中核を担う「Bullmoose Records」が目指すのは、「常にオルタナティブな存在であること」だ。

「純粋にクリエイティブを追求し、成長させ、新しい境地を切り拓き、探求していく。そうやっていくために新しいスローガンを決めました。“Stay Alternative”、この精神でやっていきたいと思います」

アーティストにリスペクトを持ち、オルタナティブな視点で可能性を柔軟に育てていく。そのひとつとして、プロデュースや楽曲、宣伝などアーティストが求める契約内容を結べるオーダーメイドの契約形態「Flex Deal」を実施。

そして、BE:FIRSTやMAZZELなどに楽曲提供する「Sunny」を新しくゼネラルプロデューサーに迎え、世界的に活躍する音楽プロデューサー兼アーティストの「BANVOX」やSKY-HIと旧知の仲であるラッパーの「SALU」との契約を発表した。

SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より
SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より

もっと深く、よく考えて、業界全体のリテラシーを上げたい

4つ目のトピックスは、ファンとともに成長する場作り。BMSGが思うひとつの理想の関係構築ができる場として作られたファンプラットフォーム「B with U」は、自身の過去の悩みから生まれた。

「すべてのアーティストはファンに感謝しているし、聴いてもらって初めてアーティストになれる。にもかかわらず、ファンが怖くなってしまうことがありました。自分の話なんですけどね。そうなってしまうことを防ぎたい、健全なファンとのコミュニケーションを促進したいと思って立ち上げました」と打ち明ける。

オンラインサロン「B-Town」がある、というのも音楽業界全体を眼差すBMSGらしさだといえるだろう。「エンタテインメントは社会をよくするためのもの」「日本の芸能界をもっと深く、よく考えて、業界全体のリテラシーを上げたい。何が社会にとって、アーティストにとってよいことなのか、熱がある方と循環型の関係性を育てて、学びと共創が生まれる場所にしたい」と熱く呼びかける。

5つ目のトピックスは「Less Waste, More Music」。持続不可能にしないための提言として、環境への配慮・プラスチック量減に向けて具体的なアクションを行ってきたBMSG。CDのパッケージをプラスチックから移行し、祝い花を「フラワーディスプレイ」にすることで破棄ゼロに。破棄されるはずだったグッズを再利用する新アップサイクルブランド「Goodie Goodie」など、社会との接続を意識し、未来を見据えるBMSGの想いが伝えられた。

SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より
SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より

BMSGが考える“世界戦略”

出席者からの質疑応答では、興味深い質問が投げかけられた。

まずは、オーディション番組で常に話題を集めるBMSGが考える「テレビとインターネットのバランス」について。テレビ離れが叫ばれるが「本当か?」と考えているという。

「インターネットの100万人が、テレビの視聴率の1%だったりします。最近では、テレビで起こったおもしろいことがネットでバズることも。もちろん、若者のテレビ離れの実感はありますが、テレビとネットは相関関係なので、今回『THE LAST PIECE』は社会的な角度からも取り扱ってもらうために番組で密着してもらい、YouTubeでも観てもらえるようにします」

続いて、質問されたのが「世界に対する戦略」だ。K-POPのように横連携をして世界に打って出るのか、それともアーティスト単体で戦略を測るのか。ワールドツアーをスタートさせたBE:FIRSTなど世界に通用するアーティストを抱えるBMSGの一歩に、注目が集まるなか、SKY-HIは「横連携を想定している」と口を開く。

「どの程度、というのは言えませんが、楽曲単体で跳ねても組織立てていくには、海外の音楽コミュニティの一員にならなければいけない。同じような思考を持つアーティストと連携したいと考えています」

世界は見ているが、大事にしたいことがあると声を大きくする。「たとえば、アメリカに展開するからといって、現地に受けそうなサウンドのアレンジはしない。現地に根差したマーケティングをする必要はありますが、プロダクトアウトの戦略を取っていきたいです」と、あくまでもクオリティファースト、クリエイティブファーストを海外でも貫く姿勢だ。

トレーニー、REIKO、edhiii boi、HANAがパフォーマンス

最後は、BMSG所属アーティストによるライブパフォーマンスが行われた。SKY-HIから「お立ちいただいてもよろしいですか!」という声かけで、プレゼンテーション会場の雰囲気が一変。そして、SKY-HIの愛ある“紹介ラップ”とともにひと組ずつステージに登場。

RUI・TAIKI・KANON(BMSG TRAINEE)/『Greeting & Gathering ’25』より
RUI・TAIKI・KANON(BMSG TRAINEE)/『Greeting & Gathering ’25』より

「俺の宝物。そして、これからの日本の宝物になるアーティストとして育て上げられたことを心から誇りに思います」と紹介を受け、登場したのは『THE LAST PEACE』に参加するBMSGトレーニーのRUI、TAIKI、KANONの3名。デビュー前とは思えないパフォーマンス力とチームワークで4月18日にリリースされた「GOTH」を披露。それぞれのダンスや歌唱にBMSGのDNAが凝縮されているように感じた。

RUI・TAIKI・KANON(BMSG TRAINEE)/『Greeting & Gathering ’25』より
KANON・TAIKI・RUI(BMSG TRAINEE)/『Greeting & Gathering ’25』より

次に登場したのは、REIKO。

REIKO/『Greeting & Gathering ’25』より
REIKO/『Greeting & Gathering ’25』より

「ルーツをフィリピンに持ち、抜群の歌唱力とパフォーマンススキルだけでなく、なぜか声を聞いているとこっちが泣いてしまう。もともとはオーディション(『THE FIRST』)で一番泣かれる方だったのが、今や一番人を泣かせる方になっています」

REIKO/『Greeting & Gathering ’25』より
REIKO/『Greeting & Gathering ’25』より

「あなたの涙を愛します。」というメッセージを込めたR&B3部作の第1弾で、4月21日に配信リリースされる「Take It Back」を披露した。

3組目として登場したのは、edhiii boi。

edhiii boi/『Greeting & Gathering ’25』より
edhiii boi/『Greeting & Gathering ’25』より

「歌のうまいREIKOのあとだと比較されるから嫌だ……と、たまに自信のないところ、弱いところを見せたりします(笑)。でも、ひょっとしたら10代の孤独感、不安感みたいなことに意識的になれたのは、edhiii boiの存在が大きいかもしれません。社内でこっそり打ち出している彼のテーマは“トー横の救世主”。これは大げさじゃない。今の若者が感じている孤独感、寂しさ、不安をしっかり歌とパフォーマンスにして実際に救うことができているし、そのポテンシャルもあります」

edhiii boi/『Greeting & Gathering ’25』より
edhiii boi/『Greeting & Gathering ’25』より

そう力強く背中を押され、高校生活の集大成となるフルアルバム『大人になんてなりたくない』から「マジだりぃ」を披露。「僕も同じような境遇の人を救えたらいいなと思っていて、かまします」と等身大のリリックが鳴り響いた。

「今の日本において、日本の音楽業界において、一番必要なグループが誕生したと思っております。胸を張って改めて紹介させてください、新しいBMSGの仲間です」とラストに登場したのは、HANAだ。数週間前にデビューしたとは思えない安定感でデビュー曲「ROSE」を披露し、会場の期待する視線を掌握する。

HANA/『Greeting & Gathering ’25』より
HANA/『Greeting & Gathering ’25』より
HANA/『Greeting & Gathering ’25』より

彼女たちのパフォーマンス直後に「ちゃんみな、ありがとうーーー!」と声を届けたSKY-HIは、「嫌なことも悔しいこともありましたけど、こんな素敵な仲間たちに囲まれて、音楽がある空間で、非常に充実した人生を送れています。これからもどうぞよろしくお願いします」と、『Greeting & Gathering ’25』を締めくくった。

人間的に正しく生活しながら作品に向き合う、そのために

きらびやかで楽しそうなイメージが強いエンタテインメント業界の「やりがい搾取」が問題視されるようになって、しばらく時間が経つ。映画業界やテレビ局なども少しずつ働き方改革をしているものの、業界に根付く独特な文化を変えるには綺麗事では済まされない課題が山積みだ。

米エミー賞を受賞した『SHOGUN 将軍』の日本人スタッフはとあるインタビューで、働き方改革先進国であるアメリカの「人間的に正しく生活しながら作品に向き合う」というクリエイティビティを前にして、「真っ当なことなのにないがしろにしてきた」と内省し、「やりがい搾取を克服しないと、日本のコンテンツを世界的に展開できないと思う」と話した。

SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より
SKY-HI/『Greeting & Gathering ’25』より

BMSGによる『Greeting & Gathering ’25』の随所で、「才能を殺さないために。」という言葉が重くリフレインする。それは、アーティストの尊厳を守ることからすべてが始まる、という強い思い。

「品行方正である必要はないけれど、どんな生まれ育ちであっても、今日より未来をよくしていきたい」「アーティストにはより意欲的に、社会に対してコンシャスであってほしいです」という理想的な社会責任をまっとうできるのも、尊厳が守られているからだろう。

私自身、BMSGに興味を惹かれたきっかけである、ジェンダーの視点からメディアやカルチャーを捉え直している東京大学大学院教授である田中東子氏が、MAZZELを生んだオーディションドキュメンタリー番組『MISSION×2』第11話で「メディアリテラシー、フェミニズムについて講義をした」という新鮮な取り組みも、『Greeting & Gathering ’25』でのプレゼンテーションを観て違和感なくつながった。

業界の常識を疑い、やりがい搾取の状態を克服して、人間的に正しく生活しながら作品に向き合う──その状態に最も目線を合わせている芸能事務所/レーベルのひとつがBMSGではないかと、改めてその視座の高さと可能性を感じるプレゼンテーションだった。

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羽佐田瑶子

(はさだ・ようこ)1987年生まれ、執筆・編集。女性アイドルや映画などガールズカルチャーを中心に、インタビュー、コラムを執筆。主な媒体は『クイック・ジャパン』『She is』『BRUTUS』『TV Bros.』『CINRA』など。岡崎京子と女性アイドルなど、ロマンティックで力強いカルチャーや人が好き..

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