音楽が「聴くもの」から「作るもの」になるまで(ヤギ・ハイレグ)

2025.4.13

編集=菅原史稀


『Quick Japan』のコンセプト「DIVE to PASSION」にちなんで、「私だけが知っているアツいもの」について綴るコラム企画「DtP」。

今回執筆するのは、2025年4月9日発売の『Quick Japan』vol.177表紙&特集アーティストであるピーナッツくんの楽曲参加でも知られ、ラッパー/ビートメイカーとして活動しているヤギ・ハイレグ。

今は音楽を発信する側となった彼だが、かつては“ギターを買って放置……”という多くの人が身に覚えのある挫折も。しかし、音楽が「聴くもの」から「作るもの」へと変化したのは、思わぬタイミングだったという。

軽音部のライブを見て感じたモヤモヤ

2018年、なけなしの貯金をはたいて買ったMacBookで、初めてシンセサイザーの音を鳴らしたときのことを、今でもよく覚えている。キーボードを叩くとパソコンから音が出て、しかもそれを操作できるという感覚は、それまで「聴くもの」でしかなかった音楽に対する認識を、いとも簡単に一変させた。

高校生だったころ、文化祭のライブで軽音楽部がキャーキャー言われながら演奏している姿を、観客のひとりとして眺めていたとき、サッカー部じゃなくて軽音に入ればよかったなぁ、と軽い後悔の念が浮かんだ。ライブが終わったあともなんとなくモヤモヤしていた私は、帰宅後すぐにパソコンに向かい、Amazonでエレキギター初心者セット(1万円)を注文した。

その数日後にはギターを手にしていたが、Arctic Monkeys「A Certain Romance」のごく一部分のメロディを弾いただけで、それ以降はそのギターから音が鳴ることはなかった。母親に「あんたはパパと似て、熱しやすく冷めやすいよね」と言われたが、無視した。

とはいえ音楽を聴くこと自体は相変わらず好きなままで、ロックだのHIP-HOPだのアイドルだのを雑多に聞いては、たまにライブを観に行ったり、タワレコやディスクユニオンでCDを買ったりと、数少ない趣味のひとつとして、音楽鑑賞を気ままに楽しんでいた。

ある日、職場の喫煙所で

それは社会人になっても変わらず、職場では同じ趣味の同僚と仲よくなることができた。休憩時間の喫煙所で、その同僚と音楽の話をするのが、仕事の合間の貴重な息抜きだった。

とある日に、いつものように同僚とおしゃべりしていると、彼は「最近『Ableton』買ってみたんですよ」と言った。エイブルトン? なんですかそれは。聞けば、それはパソコン上で作曲するソフトで、憧れのビートメイカーが使用していたから、興味を持って買ってみた、ということだった。私はその同僚ともっと仲よくなりたかったので、自分も『Ableton』を買ってみます、とその場で伝えた。2018年のことだ。

今はその同僚とはすっかり疎遠になってしまい、彼がビートを作っているかどうかもわからない。私はというと、今日もビートを作ってラップもして、ああでもないこうでもないとパソコンに向かっている。先述の母親の指摘のとおり、自分が極度の飽き性なのは否定しないが、音楽制作に関しては、今のところ続いているというわけだ。

たとえばこの先の未来、自分の作った曲が爆売れして、かつての同僚がその曲をたまたま耳にしたとき、「あれ、この声って……」と気づくようなことがあれば、素敵な話のでき上がりとなるが、それは望み薄だろう。あのころの喫煙所にいたヨレたスーツのメガネ男が、黄色いハイレグを履いたヤギに転生して音楽活動をしているだなんて、にわかに信じ難いだろうから。

ヤギ・ハイレグ
ラッパー/ビートメイカー。レオタードブタとヤギ・ハイレグ及びソロ名義で活動している。

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