境界を攪拌するエンタテインメント──ぽんぽこ&ピーナッツくんがVTuberとして体現する「自由」

2024.12.26

文=北出 栞 編集=山本大樹


「おもしろいと思ったことは、まずやってみる」。その強烈なバイタリティと、姿形を自在に変えるスタイルでVTuber界でも異色の存在感を放っているのが、5歳児のピーナッツくんと甲賀流忍者ぽんぽこの凸凹コンビによるYouTubeチャンネル『ぽんぽこちゃんねる』だ。

先日の24時間配信企画『ぽんぽこ24 vol.8』はYouTuberのはじめしゃちょーや後藤真希によるVTuber・ぶいごまら豪華ゲストが登場し、同時視聴者5万人を集めるなど、人気はもはやVTuber界だけに留まらない。編集者・文筆家の北出栞がその魅力を語る。

イラストに声が乗っていればVTuber?

まさか商業媒体で「ぽこピー」について書かせてもらえる日が来るとは思っていなかった。昨今のVTuberの一般社会への浸透度を加味しても、ジャンルの黎明期から活躍している彼女たちがフックアップされるのは当然と思うのだけど、なんというか身近さやアマチュアリズムを現在に至るまで体現しているのがこのユニットの魅力だと思うから、やっぱりすごい時代になったなとは思うのである。

話が走りすぎた。まずは「ぽこピー」の解説からしなくてはならない。

ぽこピーとは、ぽんぽことピーナッツくんという「2匹組」のVTuberユニットである。ぽんぽこのSNSのユーザーネームは「甲賀流忍者ぽんぽこ」となっているのだが、見てのとおり自らの属性を示すものであり、ファンや同業者からは単に「ぽんぽこ」と呼ばれることが多い。それでいうとピーナッツくんもSNSのユーザーネームは「オシャレになりたい!ピーナッツくん」なのだが、これは彼がもともと同名のWEBアニメのキャラクターだったからである。

第1話「#ハッシュタグ」オシャレになりたい!ピーナッツくん【自主制作アニメ】

つまり2017年末〜2018年初めのVTuber元年と言われるなか、「イラストを前面に出して、そこに声が乗っていればVTuberと名乗っていいんじゃないか?」という、ある種のトンチによってアニメキャラクターからVTuberに「なった」のがピーナッツくんなのである。そしてぽんぽこはWEBアニメの制作者、すなわちピーナッツくんの「ご主人様」であるぽんぽこの兄(通称「兄ぽこ」)によってデビュー=YouTubeチャンネルを開設させられたという経緯を持つ。その後、現在に至るまでぽんぽこのチャンネルにピーナッツくんは「ゲスト」として出演するというかたちが貫かれている。

地方在住のDIYユニット

ここでまずもって押さえておくべきなのは、「甲賀流忍者」とあるように滋賀県を拠点にしたチャンネルだということ(少なくともぽんぽこは滋賀県在住を公言している。ピーナッツくんは「原宿にルーツを持つピーナッツの妖精」とのことだが……とにもかくにも地方在住者の視点をネタにした動画が多いことは事実だ)。2点目は、ぽんぽこ誕生の経緯にも表れているように、兄妹という極めてプライベートな関係を軸にしたユニットだということ。そして最後に一番重要な点だが、企業に所属しない完全DIYの活動者(いわゆる「個人勢」)だということである。

VTuberにかかった費用、すべて公開します。

2018年の時点ではVTuberシーンというもの自体を私は追っておらず、当時のぽこピーの立ち回りについてはテキスト情報などであと追いした部分が多い。しかしにじさんじ・ホロライブといった企業運営のグループを筆頭にVTuberが産業化し、収益を上げやすい企画やグッズ展開の「型」もほとんど固まったかのように思える昨今において、ぽこピーは「VTuberだからこそできること」の拡張の仕方、あっと驚くような手数の多さによってプロップスを上昇させ続けている

リアル/バーチャルの境界をまたぐ「着ぐるみ」という発明

初めに触れておきたいのは「ゆるキャラグランプリ」への進出である。観光地や商業施設がマスコットキャラクターを制作し、そのなんともいえない造形が「ゆるキャラ」として愛でられる文化が根づいて久しいが、ぽこピーはどの自治体や企業をバックにするわけでもなく、自ら「本人」として着ぐるみを制作し乗り込み、見事グランプリをかっさらっていってしまったのである(ピーナッツくんが2019年度グランプリ、ぽんぽこが2020年度グランプリ)。

ピーナッツくんがゆるキャラグランプリで優勝しました!
【速報】ゆるキャラグランプリ優勝しました!!!!

正直なところ、このネットニュースを最初見た当時はVTuberというものをよく知らなかったこともあり、「強固なファンダムを持つ外様の存在が、別の論理で伝統をハックしてしまった」と、あまりよくない印象を持ってしまったのを覚えている。しかしのちに現地の様子を記録した動画を観てわかったのは、2匹はけっして愉快犯的に場を「荒らし」に来たのではなく、「ゆる」の魂を持つ同志としてその場に溶け込み、そこにいたたくさんのゆるキャラたちと交流を温めていたということだった。

姿形を変えることで、リアル/バーチャル、ネットカルチャー/ご当地カルチャーといった境界をまたいでみせる。このゆるやかな越境性、どこに行っても手をつなぐことのできるフレンドリーさこそが、VTuber本来の可能性なんじゃないか。そう思ってぽこピーを追い始めるのに、そう時間はかからなかった。

パペットに見る「Eテレっぽさ」

ファンになる最後のひと押しになったのは、着ぐるみに続いて新しい姿としてお披露目された「パペット」である。NHK Eテレ『ざわざわ森のがんこちゃん』のパペットも制作している会社に、安くはない私財を投じてオーダーメイドしてもらったとのこと。これにより、その場にいるたくさんの人の目を集めるイベント用の着ぐるみと、小回りの利く自チャンネルに投稿する動画用のパペットという、ふたつの実空間に接続する姿を得ることになった(以降、Vlogやホテルレビューなど、パぺットを用いた企画も多くなっていく)。

また、パペットの質感や動きがまさに「本物」で、「子供のころ見たEテレっぽさ」へのノスタルジーを刺激してくれるのだ。YouTubeコンテンツでありながらテレビにかじりついていたころの体験を想起させる、つまりは時間をもまたぐような経験も与えてくれる。

貯金を捧げて、新しい体を手に入れました。

クリエイティビティを刺激する、ピーナッツくんという「ハブ」

そしてピーナッツくんの個人活動になるが、彼の音楽アルバム『Tele倶楽部』(2021)が非常にクオリティの高いものだったことものめり込みに拍車をかけた。ジャンルとしてはヒップホップ/エレクトロニックミュージック。筆者はそのころ仕事の都合でDTM(PC上の操作で完結させる音楽制作のスタイル)についてリサーチする必要があり、ネット上のDTMコミュニティをウォッチしていた。そこでのいわゆる同業者評価も高かったのである。

ピーナッツくん - Unreal Life feat.市松寿ゞ謡 / Album “Tele倶楽部”

コンピュータ上で音楽を作る(ビートメイクする)こと、ラッパーは時に特定のビートメイカーとコンビを組み、ユニットのような関係性で作品を作ること。バンドを中心に音楽を掘ってきた当時の自分にとって、それらすべてが新鮮だった。現在、ピーナッツくん楽曲のビートの大半を手がけるnerdwitchkomugichanは3ピースバンド・Age Factoryのベーシスト・西口直人の別名義で、もともとは彼が個人的にピーナッツくんのファンだったところから関係がスタートしたとのことだが、こうして周囲のクリエイティブを刺激するハブとなるのがよいラッパーの条件であることを、今の自分は知っている。

思えばヒップホップも、育ってきた地域や親しんできたカルチャーをレペゼンすることで自らの「リアル」を表現する、「キャラ立ち」の文化である。そしてVTuberが生身の配信者ともアニメのキャラクターとも異なるのは、リアルタイムで本人にまつわるエピソードが蓄積していくと同時にやはり「2次元」的でもあるため、視聴者が描くファンアートなどによって「キャラ立ち」が重層的に起きていくというところである(そして、描かれたファンアートをVTuber本人が自身の配信でサムネイルに使うといった循環も起きていく)。

ピーナッツくんを通して、インターネットを介してクリエイティブが連鎖していく現象としてのヒップホップカルチャーとVTuberカルチャーを、筆者は同時に理解したのだった。

ピーナッツくん - BloodBagBrainBomb Tour Final

DIYのプラットフォーム『ぽんぽこ24』

『ぽこピーランド』のプロジェクトは、こうした「クリエイティブのハブとしてのVTuber」という観点の延長上に捉えられる。なんとVRChat上にバーチャルな遊園地を作ってしまおうという試みで、ぽこピーの呼びかけに応じた有志が集まってデザインから実装までが手がけられている。

特筆すべきは完全無料で、いつでも訪れることのできる仮想の空間として一般ユーザーにも開かれているという点だ。ランド内でぽこピーたち本人と触れ合える機会も時たま設けられ、もちろんその際のアバターは普段動画で観ている姿と同一である。着ぐるみやパペットで私たちの生きる世界へと越境してきたと思ったら、今度は自らの住んでいる世界に私たちも招き入れるということをやってのけているのだ!

【重大告知】念願のアレがついに・・・!!!

そして忘れてはいけないのが『ぽんぽこ24』。これはデビュー年の2018年から続いている24時間ぶっ通しの生放送番組で(今年の開催で8回目)、1時間区切りでさまざまな企画を放送していく。

【第1部】気楽にのんびり楽しい24時間生放送がはっじまるよー!!! #ぽんぽこ24 vol.8!

企業勢・個人勢問わないさまざまなVTuber・活動者が入り乱れる様も圧巻なのだが(アポイントメントからリアルタイムの配信オペレーションまですべてぽこピー本人がやっているというのだから恐れ入る)、本編以上に見応えがあると言っても過言ではないのが企画の転換時に流れるCM枠である。

上述のとおり、すべての配信をワンオペならぬツーオペで行っているためブレイクタイムとしても機能しているこの枠だが、自らの活動を宣伝したい(ぽこピーと同じような)個人活動者が事前審査を経て30〜60秒ほどのCM動画を流すことのできる貴重な場ともなっている(ちなみに事前審査には協力者がおり、もともとは過去のCM枠に募集してきた人だったりする)。

たとえ無名であってもきらりと光る才能を感じさせるものが提出されることもしばしばで、初期には個人勢時代の星街すいせい(現ホロライブ所属)のCMが流れたという逸話も。「おもしろいと思ったことは、まず自分でやってみる」という気持ちでつながった人々が一堂に会する、温かみのあるプラットフォームとなっているのだ。

【#ぽんぽこ24 vol.8】CM選考委員会による選考振り返り配信!

境界を越境・攪拌するエンタテインメント

まとめよう。「ぽこピー」は自らの姿形を自在に変えることで、リアル/バーチャル、アニメ/実写、地方/東京といったさまざまな境界を越境・攪拌するエンタテインメントを生み出す。また、自らがハブとなることで、音楽・CG・イラスト・動画などさまざまな専門性を持ったクリエイターを結びつける。そして時に自らのチャンネルをひとつのメディア/プラットフォームとして、DIYコミュニティを視聴者に可視化する役割を果たす。こうしてまとめるとなにやらかっこつけた感じがするが、本人たちの空気感はあくまでゆるく、楽しそうにさまざまなことにチャレンジしている姿が印象的だ。

繰り返すが、2匹はなんの企業のバックアップも受けておらず、本人たちの強烈なバイタリティひとつでここまでの活動を実現してきており、その意味で唯一無二の存在であることはいくら強調してもし足りない。しかしその上で「一緒にやろうよ」と呼びかけてくるようなフレンドリーさを保ち続けているのが、筆者がぽこピーを好きな最大の理由だ。実家のような安心感、童心に帰らせてくれる楽しさ、そしてピーナッツくんの楽曲において時に象徴的に表れる、マスに対するカウンター精神……これらがすべて矛盾することなく同居していて、何年経っても目が離せないのである。

「VTuber」の可能性を切り開きながら、同時に「VTuber」という枠を超えたオリジナルの存在になりつつあるぽこピー。末永く健やかに活動をし続けてほしいと願いつつ、そのエネルギーで私たちを巻き込み続けてほしいとも思う。面白いと思ったことは、まずやってみる。2匹と同じように自分もそうしていたら、いつかどこかでお互いの道が交わる日も来るんじゃないか。そんなふうに夢見ながら、今日も動画を再生しては次のアクションを起こすための元気をもらっている。

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北出 栞

(きたで・しおり)1988年生。神奈川県横浜市出身。1990年代半ばをドイツで過ごす。音楽雑誌の編集部員、音楽配信サイトの運営スタッフを経て、2010年代半ばより現名義で評論同人誌への寄稿を始める。2021年、〈セカイ系〉をキーワードにした評論アンソロジー『ferne』を自費出版。同人誌即売会「文学..

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