「好き」はなくても愛着は作れる(『OUT OF SIGHT!!!』編集長・堤大樹)
『Quick Japan』のコンセプト「Dive to Passion」にちなんで、「私だけが知っているアツいもの」について綴るコラム企画「DtP」。
Eat, Play, Sleep inc.代表、『OUT OF SIGHT!!!』編集長の堤大樹に聞く、「仕事」と「好き」の単純ではない関係性について。
「好き」を見つけるのは本当に大事なことなのか?
パッションは家出中だ。36年間、一度もその姿を見かけていないから、最初から自分の内には潜んでいなかったのかもしれない。自我が芽生える小中学生のころから、世界が広がる大学時代、その後の社会人生活の中でも、驚くような熱心さで何かに打ち込んでいる人たちがまわりにはたくさんいた。熱心さに裏打ちされた地道な鍛錬は、鈍く重い輝きを放つ。そうした光にあてられるたび、自身の薄っぺらさを見透かされた気がして落ち込んだ。一朝一夕では出せないすごみが、じりじりと気持ちを焦らせる。そこまで熱を傾けられる好きなものに、自分も早く出会いたい。
紹介が遅れたが、京都を拠点とした『ANTENNA』というカルチャーとローカルをかけ合わせたようなメディアを10年ほどやっている。インディペンデントな、といえば聞こえはいいが、要は少し遠い親戚程度の付き合いをお金と続けているということだ。たしかに力は入れてきた。しかし、それがパッションだったかといわれると疑問が残る。僕自身、メディアや編集をやりたいと思ったことは一度もない。始めたのは、たまたまだ。
この10年の間に、メディアにはずいぶんと多くの人が出入りした。辞める理由はそれぞれだが、半数ほどは「自分がそこまでカルチャーも、書くことも好きじゃないと気がついてしまった」というものである。とかく、我々は教育の中で夢や、熱中できる好きなことを持つことが美徳とされてきた。その呪いには自身も苦しめられてきたから、見覚えのあるツラをしている。しかし、思うのだ。「ほな、好きになれるものずっと探さなあかんのか?」「一生出会えなかったら?」と。少なくとも、僕は自身が納得するほどのサイズの好きには、あれほど焦っていたくせに正直まだ出会えていない。
知識や経験が増えるほど、新しい好きとは出会いにくくなる(もちろんそれらが増えることで出会う好きもある)。そして、体力と気力の衰えは好きということに大きなエネルギーを使うことを気づかせる。
だからこそ大切なのは「好き!ビビビ!」のセンサーに頼らないやり方を覚えることではないか。自分のセンサーが大きく振れることはなくても、内省によって「あれ、なんかいいかも」という小さな兆しを捕まえることはできるはずだ。加えて「丁寧に取り組むことで得られる愛着」は、好きとは少しかたちが違うかもしれないがその隙間を埋めてくれることがある。
手入れをしていればたいていのものには愛着が湧く、というのが持論だ。今、僕は編集の仕事にも、身の回りの仲間にも愛着がある。選択肢が多く与えられてしまう時代。好きとの出会いより、出会ってしまったものへの愛着が持てるかを考えてみたい。そうしてものの見方を変えてから、日々の生活は平熱だ。大きな感情の揺れに期待せず、愛着が持てるようにひとつずつ目前のことに取り組むよう心がけている。「かわいいはつくれる」というCMのキャッチコピーが以前あった。好きと出会えるかは知らないが、「愛着はつくれる」のだ。
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