ドラマ『1122 いいふうふ』は共感を超えて自分事のように見えてくる

2024.7.31
『1122 いいふうふ』コラム記事アイキャッチ画像

画像=(C)渡辺ペコ/講談社 (C)murmur Co., Ltd.

文=かんそう 編集=鈴木 梢


Amazon Prime Videoで配信中のドラマ『1122 いいふうふ』が大きな話題となっている。渡辺ペコのマンガを原作とし、高畑充希演じる相原一子(あいはら・いちこ)と岡田将生演じる相原二也(あいはら・おとや)の夫婦の生活を描く作品だ。なぜこれほどまでに話題となっているのか、本作の魅力をブロガーのかんそうが考える。

不安が一瞬で吹き飛ぶほどの描写力

Amazon Prime Videoで配信中のドラマ『1122 いいふうふ』がおもしろすぎる。「婚外恋愛許可制(公認不倫)」を導入しているセックスレスの仲よし夫婦を描いた作品なのだが、最近「愛」というものがわからなくなりがんじがらめの生活を送っていた俺の心にあまりにもブッ刺さってしまった。

監督を務めたのは今泉力哉。この名前を目にしただけでわかる人間は一瞬でわかるだろう。この作品は「ヤバい」と。『愛がなんだ』『街の上で』などの映画を手がけており、恋愛を軸とした男女の会話劇を撮らせたら今最もえげつない監督だ。儚く、美しいだけじゃない。かっこ悪く、醜くも愛おしい人間の生々しい感情を失明するほどの解像度で我々に食らわせてくる。

今回『1122 いいふうふ』の主演に起用されたのが、高畑充希と岡田将生。正直、原作マンガをイメージしていると、ビジュアルの面でふたりは「原作どおり」ではなかった。しかし、そんな不安は1話を観て一瞬で吹き飛んだ。

高畑充希の新境地、岡田将生のクズっぷり

Amazonプライムビデオ『1122 いいふうふ』画像_高畑充希
相原一子(高畑充希)

高畑充希は、たとえばテレビドラマ『過保護のカホコ』『同期のサクラ』(いずれも日本テレビ)など、純粋で汚れを知らないがどこかブッ飛んでいる女性を演じたときの破壊力は凄まじいものがあるが、今回彼女が演じたのは、いい意味で「どこにでもいそう」な女性・相原一子。その等身大でリアルすぎる姿は、まさに新境地。高畑充希に抱いていた印象がガラリと変わった。

フリーランスのWEBデザイナーとしての仕事が波に乗っていた一子(いちこ)は、夫の二也(おとや)にセックスを求められるも仕事の疲れからか拒否してしまう。それが発端となり婚外恋愛許可制がスタートするわけだが、夫婦生活をおろそかにして外の女にうつつを抜かす二也への嫉妬心と、自分が認めた手前強くは言えない矛盾を抱え苦悩する姿を、あまりにも誠実に演じていた。

Amazonプライムビデオ『1122 いいふうふ』画像_岡田将生
相原二也(岡田将生)

そして岡田将生。この役を岡田将生にあてた時点で、このドラマの勝利は確定したと言っても過言ではなかった。今の俳優界で岡田将生以上に「優しいドクズ」が似合う男がいるだろうか。爽やかなビジュアルから放たれる殺人級のパーフェクト・スマイル。あの顔を向けられて心がほだされない人間などこの世に存在するのか?と震え上がってしまった。

岡田将生が演じた相原二也は一切の悪気なく無自覚、無邪気に、人を癒やし、傷つける善玉サイコパス。「自覚がない」というのが本当に恐ろしく、外の女にはうつつを抜かし「恋」を求め、一子との関係性も捨てられず、内で「愛」を求めるという強欲。世が世なら、市中引き回しの上、島流しになってもおかしくはないほど傲慢野郎なのだ。

だが、そんなナチュラル・ボーン・クズ二也の気持ちが、俺は同性として痛いほどわかってしまう。それが本当に悲しい。もし実際に自分が二也と同じ状況に立たされたら、同じことをし、同じことを言ってしまうだろう。だからこそ、3話ラストに訪れる前代未聞のシーンで二也と同じように股間を押さえてうずくまってしまう。あの瞬間、確実に俺の股間と二也の股間がリンクしていた。

もうひと組の夫婦、柏木美月と志朗の存在

『1122 いいふうふ』はこのふたりだけの話ではない。二也と不倫関係にある柏木美月と、その不倫を知りながら黙認している夫・志朗という、もうひと組の夫婦の物語でもあるのだ。

Amazonプライムビデオ『1122 いいふうふ』画像_西野七瀬
柏木美月(西野七瀬)

美月は、志朗から育児をすべて押しつけられていたストレスなどで疲弊していたタイミングで、二也と出会い、惹かれ、事に及んでしまう。少しずつ心が削られていた美月の唯一のオアシスが二也だった。

美月のやっていることは世間から見れば許されない行為かもしれないが、美月の気持ちは痛いほど理解できる。回を重ねるごとにさまざまな苦難が訪れる美月に、心から「幸せになってくれ……」と願ってしまう。

そんな不安定な美月を完璧に演じた西野七瀬は、10年前の俺に教えても絶対に信じてくれないような衝撃的なセリフや行動を何度も我々に見せつけてくる。いい意味で乃木坂46時代を微塵も感じさせない、その姿に感情が崩壊した。

Amazonプライムビデオ『1122 いいふうふ』画像_高良健吾
柏木志朗(高良健吾)

高良健吾演じる志朗は、「こう」と決めたら「こう」としか生きられない難儀な男で、それによって妻の美月との軋轢が生まれてしまう。見方によっては、志朗が「モラハラ夫」に見える人もいるかもしれない。だが、人間は単純なレッテルではくくれないということをこのドラマは丁寧に描いているのだ。

そして4人の中で最も不器用で、最も純粋な志朗を、高良健吾は言葉と表情で完璧に演じきっていた。この世には、高良健吾の演技を見ることでしか救えない魂がある。柏木志朗は、横道世之介(映画『横道世之介』)、曽田練(ドラマ『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』(フジテレビ))と並ぶ、三大高良健吾として俺の心に深く刻み込まれた。

相原夫婦、柏木夫婦。「どこにでもいそう」だけど「どこにもいない」ふた組の夫婦が本当の愛を求めて苦悩する。その姿に共感を超えて自分事のように観ることができてしまう。そんなドラマ『1122 いいふうふ』は、夫婦やカップルだけでなく、シングルな人にもぜひ観てもらいたい作品だ。

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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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