ピン芸人・本日は晴天なりによる連載「バツイチアラフォーの幸せだけじゃない日常」。
2022年に韓国人のパートナーと結婚した本日は晴天なり。10年以上日本で暮らしているパートナーは母国よりも日本が好きだそうで、たびたび彼女も驚く日本の魅力を伝えてくれるという。
衝撃だった『エヴァンゲリオン』との出会い
着物を着たり、キセルを吸ったり、日本人でも珍しいほど日本文化を広く堪能している旦那。韓国人の旦那がなぜ、こんなにも日本が好きなのか。そのルーツを探ってみた。
私の旦那は物心つく前からアニメオタクだった。幼稚園のころから、テレビでやっていた日本のアニメを吹替版で観ていたという。『銀河鉄道999』、『スレイヤーズ』、『(美少女戦士)セーラームーン』などの記憶があるようだ。
小学校高学年になると、レンタルビデオ屋で『新世紀エヴァンゲリオン』を借りるようになったそうだが、それが衝撃の出会いだったようで、今でも酔っ払うと第1話から観ている。また、「シンジ」や「アスカ」という名前の人に会うと芸能人に遭遇したかのようなリアクションをする(レイにはまだ会ったことないらしい)。「碇」という名字の人を発見したときには、細い目をかっぴらいて感動していた。
中学生になった旦那はある日、『エヴァンゲリオン』の映画の海賊版がネットに上がってるのを見つけた。非公式の動画のため、もちろん吹き替えはされておらず、主人公たちの言語が聞き取れない。そのときに初めて『エヴァ』が外国(日本)の作品なのだと知ったそう。
それと同時に、あの素晴らしいアニメの数々を作り出している日本という国とは……!と、日本自体に興味を抱いていったそうだ。
今でも日本のアニメが大好きな旦那。一般的にオタクに分類される人とは違い、ひとつの作品についての深い知識があるというよりは、とにかく広く浅く「アニメ」という文化自体が漠然と好きみたいだ。朝、目を覚ましたり、歯を磨いたりするのと一緒で、仕事から帰ってきたらまずアニメをチェックするというのが、生活の一部になっている。新作が始まるタイミングでは、毎期膨大な量の新作アニメをひととおりチェックする習慣があり、私は毎晩のようにそれに付き合わされる。
アニメで覚えた日本語
旦那が小学生のころに通っていた塾には漢字に詳しい先生がいて、休み時間に気になる漢字の読み方を教えてもらっていたという。もちろん知りたいのは日本のアニメに関する漢字で、「最終兵器彼女」などの読み方と意味を教わったりしていたそうだ。
『エヴァンゲリオン』と出会い、ますます日本に興味を持つと、夏休みの期間中は日本語の塾へ行くように。まわりは社会人ばかりで中学生くらいの子供は旦那とオタク友達のふたりだけだったそう。ちなみに、今でもその友達とは仲がよく、日本に遊びに来たらふたりで秋葉原に行ったりしている。
このとき、アニメと同じくらいのめり込んでいたのがパソコンやゲーム。「最近の子供はずっとスマホを見てよくない」などの意見を目にするたびに、「私もずっとパソコンやってたからなぁ~別にいいのに」と口にする。
そして高校生になると、将来は日本のゲーム機のエンジニアになりたいと考え、アニメによる基盤を生かして日本語検定1級を取得。その勢いで日本の大学へ進学した。
私も現在、旦那の影響で韓国語の勉強をしているが、もともとK-POPに推しがいるわけでもなく、韓流ドラマにハマっているわけでもないので、「推しの言ってることを理解したい!」「ドラマのセリフを知りたい!」などの情熱がないせいか、いつまで経っても日常会話すらまともにマスターできずにいる。
好きなものについて理解したいという情熱は、ひとりの少年をバイリンガルにするのだから本当にすごい。そういえば、ビートルズが好きだった中学の同級生も高校生のころに留学し、今もイギリスに住んでいるな。昔から憧れていた……。私も外国語をペラペラ話してみたい。
どこの国の言語でもいいからバイリンガルになりたい!と考え、フランス語を勉強した時期もあったが、電車でネイティブの発音を目の当たりにしたときに、1文字も聞き取れず心が折れ、その日から一度もテキストを開くことはなかった。
旦那は日本人でも年に数回しか口にすることがないであろうワード、「縁側」「蚊取り線香」「田舎のおじいちゃんち」などなど、何を言っても「アニメで観た」という。先日もアニメの中で出てきた「これは駄賃だ、取っておけ」というセリフを聞き、「ダチン?」と、またひとつ日本語を覚えていた。
最近はなんのアニメで知った言葉なのかを当てるのが私たちの中で流行っている。「縁側」は『サマーウォーズ』で知ったらしい。
韓国語の落とし穴?
「どうしたら韓国語を覚えられるの?」と尋ねると、「ドラマを観てたら覚えられるよ!」と簡単に教えてくれた。しかし、その“観る”は“(四六時中浴びるほど)観る”という意味なのだろう。
それでも勉強がてらメジャーどころは押さえようと、いくつかの韓流ドラマを旦那と一緒に観るようになった。『イカゲーム』、『D.P.-脱走兵追跡官-』、『愛の不時着』(セリフが「北朝鮮訛りだから覚えないほうがいいかも」と言われ、途中で観るのをやめてしまったが……)など。
しかし、韓国の作品は映画にも共通していえることだが、とにかくセリフにスラングが多い。日本語では「クソッ」とか「ちくしょう!」などと翻訳されているが、実際の意味は「クソッ」なんてかわいいものではないらしく、「日本語にこの言葉を表現する言葉はない!」と旦那は言う。
こういったスラングは、いろんな作品で何度も出てくるので簡単に覚えてしまうのだが、うっかり使うと取り返しのつかないトラブルになるケースもあるようなので注意したい。そもそもそんなセリフを映画やドラマで連呼しないでほしいが……。
プリンが買えるのは日本の魅力
日頃から「やっぱ日本は最高だ!」と言っている旦那から見た日本の魅力は、私からすると意外なものが多い。
たとえば、プリンが売ってるいるのも日本の魅力だという。韓国にはプリンが売っていなかったそうだ。さすがに信じられず、旦那の友人にも確認したが、彼も大学生になるまでなかったと言っていた。そういえば私の実母も17歳のときに初めてピザを食べたと言っていたことを思い出した。
旦那は韓国にいたころ、アニメでもよくおいしそうなプリンが登場するので、どうしても食べたくなり、自分で作ったことがあるらしい。
また、「日本の青空は本当に青い!」と何度も言っている。
日本に比べ、韓国は「黄砂の影響で空が暗い。空気が濁ってる!」そう。たしかに一緒に韓国に行ったときも、ずっと曇りで車から眺める景色はぼんやりしていた。しかし、それはタクシーで流れていたラジオでも「黄砂に注意」と言っていたように、黄砂注意報が発令されていた日だったからだと思う。だから「たまたまでしょ! 青空も見られるでしょ!」と反論するが、「いーや、ソウルに青空はない!」と、偏見丸出しで断言してくる。
日本が好きすぎて母国への愛がイマイチ薄い。韓国好きの友人に韓国の魅力をプレゼンしてほしいくらいだ。
これは逆に恥ずべき点だ……と思ったのだが、「コンビニでエロ本が売っていた!」と言われたこと。うれしいやら、恥ずかしいやら、とにかく衝撃的だったそう。今でこそ規制されているものの、つい最近まで当たり前のように陳列されていたエロ本。年頃の男子からしたらラッキーなことかもしれないが、日本人として誇れることではないな……と思った。
仕事で日本に来ているため、いつかは韓国に帰りたいという友人も多い中で、一生日本で暮らす気マンマンの旦那。意外な日本の「好き」を熱弁されるたび、「どこがいいの~?」なんて返しつつ、私が生まれたこの国をこんなに愛してくれていることを素直にうれしいと感じている。
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