お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、ピン芸人・本日は晴天なり。
お店での勤務が終わってからお客様と飲みに行くことを「アフター」という。できるだけ長くお店に滞在してもらうために使用される「アフター」だが、そこでもさまざまな駆け引きが繰り広げられているという。今回はそんなアフターでひと癖あったおじさんや印象的なエピソード4選を紹介する。
遠回りをさせられ、お金も足りず……
ある日、4人組のお客さんと場内指名されたキャバ嬢4人でアフターへ行った。男女8人、居酒屋で飲み、朝4時半に解散。そこからはお客さんがひとりずつキャバ嬢をタクシーで送ってくれることに。
私はプロレストークで意気投合し場内指名してくれたお客さんとタクシーに乗り込んだ。先に家に送ってもらえるものだと思っていたが、彼は「先に俺んち経由させて」と、横浜方面へ向かうよう運転手に指示した。
当時の私は東京都北区在住。そのため、横浜に先に向かうというのは、東京から大阪に行くのに青森を経由するような真逆感だった。
どんどん上がっていく深夜割増のメーター。こんな遠回りするならほかの同じ方角の人と相乗りさせてほしかった。
乗車前に「私、逆方向だよ!?」と伝えたとき、彼は「いや~もう少し話したくてさ」とか言っていたが、すぐに爆睡。そのまま車内では会話することなく到着し、「じゃあ、俺、このあたりで降りるから」と1万5千円を渡してきた。
すでに1万近くかかっていたので「2万でも足りないわ!」と言いたい気持ちをぐっと抑え、私は「足りないけど……」と言った。すると相手は詐欺にあったような顔をしていた。逆方向なのを承知で同乗させといて、あんな顔されるなんて。もう、指名はもらえないだろうと悟った。
そのあと、車酔いをしてしまった私は途中で何度も止めてもらうことになり、家に帰るまで3時間かかった。電車なら1時間もかからなかったのに。
危うく家バレ?
何度か来店しているフリーのおじさんとアフターで、そのおじさん行きつけの飲み屋へ行った。店長がずっと「チョリーッス」って言いながらテキーラを飲んでいるようなチャラい店だったが、なぜかしっぽりと飲んだ。
解散するころには5時を過ぎていたので、彼は自身のお抱えタクシーを呼んでくれた。お抱えタクシーがどういった契約なのかはわからないが、料金は1カ月ごとにまとめて払っているようで、「これで帰りな」と言っていた。
私はその日、午前中から新宿で打ち合わせがあったので、運転手に「新宿に行ってください」と伝えた。しかし、向かってる途中でやはりいったん家に帰ろう思い、北区へ向かってもらうことに。
すると、さっき別れたおじさんから「行き先変えた? どこ行くの?」と、電話がかかってきた。恐怖で頭が真っ白に。どういうからくりなのかわからないが、位置情報がモロバレだった。しかし、事実をそのまま伝えたら「ふーん。そうなんだ」とだけ言って、電話は切られた。
幸いにも私の家は車が入り込めない路地に位置していたので、最寄り駅前で降りて帰路についた。今までこの手法で家がバレた女の子もいたのでは?と考えるとぞっとした。
初めからアフター狙いのおじさんも
店長いわく、店のお客さんで一番男前というおじさんは私より身長は低かったが、筋肉ムキムキで原田龍二のような顔立ちをしていた。そんな爽やかおじさんが、ふたりで近くにあるバーに行こうと誘ってきた。
私は「シフト0時までなんです」と伝えたが、店長が「今日は暇だから23時で上がっていいよ」と言ってきた。あまりにもスッと許諾したのでグルなのでは?とも思ったが、悪い人ではなかったし、小一時間くらいで帰れば終電も間に合うだろうと考え行くことにした。ちなみにこれが私の初めてのアフター。
どんな会話をしたのかあまり覚えていないが、思ったよりちやほやされ、まんまと終電を逃してしまった。
そのまま朝まで飲むんだろうと思っていたが、2時ごろに「そろそろ帰ろうか」と言ってきた。そんな時間に解散されても困るとわかっていたのだろう、続けて「どうする? うち来る?」と聞いてきた。
「それはちょっと……」とうろたえていると、「じゃあ、俺の会社来る?」という提案が。家のあとに会社と言われたら、なぜかすごく安全な気がしてしまい、私は「行きます!」とタクシーに乗り込んだ。もし、自分に娘が生まれたら絶対こんなバカ女にはならないでほしい。
彼は会社の社長だったらしく、六本木のビルの一室へ。お持ち帰りにカウントされるのかわからないが、30代にもなってこれはやらかしたと反省。
ソファーに横になってふたりで並んで寝ようとしてきたので、「私はこうやって寝るので大丈夫です!」と、ソファーであぐらをかいて寝る、通称“あぐら寝”の意思を表明した。すると相手は無理に横にならせようとするわけでもなく、「オッケー! じゃあ、おやすみ」と隣であぐらをかき、目をつむった。紳士なのか臆病なのか、ダメもとで提案したあぐら寝はソファーで眠るには体制的にかなり無理があり、このおじさんがもし私より背が高ければ、あぐら寝を許諾してくれなかったのでは?とゾッとした。
そのうち抱き寄せられたりしないかヒヤヒヤしたが、グゥ~という寝息を5回聞いてからそっと起き上がり、静かにビルをあとにした。もしあのまま横になっていたら、大人の関係になっていたかもしれない。
後日、店長に話を聞くと、この爽やかおじさんはアフター狙いで来店するお客さんで、とにかく店の外で飲みたい人らしく必ず閉店間際に来店していたそう。しかし、アフターに行った子たちからの被害届はないらしい。
ちなみに私はアフターに誘われたら必ず「終電ないからタクシー代くれるなら行くよ」と伝えて行くようにしていた。タクシー代はせがむんかい!と思う方もいるだろう。このひと言でげんなりする方も多いかもしれないが、キャバ嬢が相手じゃなくても、自分が一方的に飲みたい!と思ったり、少しでも好意があって終電がない時間まで飲むなら、これくらいは普通だと思っていてほしい。
それに私は飲みに付き合ってあげる対価としてお金が欲しいわけではなく、本当にただ純粋に家に帰りたいだけだった。30代前半まではいただいたタクシー代はなんとしてでも使わずに始発までファストフード店で時間をつぶしたり、根性で歩いて帰ったりもしたが、30代後半はとにかく家で安らかな休息を得たい一心だった。ただそれでも自腹を切るほどの余裕はないので、初めてのアフターで会社まで連れ去られた反省も生かし、初めから正直に直談判するようになっていた。
遊び方知ってるぜおじさん
月に1、2回ほど来店する竹中直人似のイケおじが初めて後輩を連れてきた。20代の後輩はイケおじのことを「すごいッス! さすがッス!」とヨイショしまくりで、職場の上下関係も大変だなぁなんて思っていた。
その日は、このふたりとキャバ嬢ふたりで、老舗のバーへ。そこは、ねづっちさんのジャケットのような柄の赤チェックのベストに蝶ネクタイをしているバーテンダーが接客する本気のバーだった。「男なら、こーゆうバーに来なくっちゃ!」とドヤりながら、イケおじは20代の後輩に1杯1万のバーボンを見せるように頼んだ。
目の前に瓶が置かれ、全員が息を呑んだ。1本ではなく“1杯”1万円のバーボン。なんだかオーラをまとっているようにも見えた。飲ませてもらえるのか?と思ったが、イケおじは「いいか? これは誰かにおごってもらうような酒じゃねえ。自分の力で飲むことに意義があるんだよ。それで初めて一人前だ」と言った。竹中直人の顔でそんなこと言われたら、反論できない。
これはもしやアルハラの類なのか?とも思ったが、後輩くんはまっすぐな瞳で「飲みたいッス! 飲むッス!」と自腹で頼んでいた。どうやら彼にとってこのイケおじは本当に憧れの先輩だったらしい。
そんな彼のピュアな心につけ込み「ひと口ちょうだい」と言ってみた。自腹じゃないせいか、おいしいのかよくわからなかった。
アフターは“同伴”とは違い、給料が発生するわけではないので、次の来店につなげるためのいわば投資の時間。中には本当にただ飲みたくて付き合うキャバ嬢もいるが、最低でも店内にいるときに場内指名くらいはもらっていなければ、アフターに付き合うことはほとんどない。
そのため私はフリーのお客様に誘われた際、瞬発的に「なんでだよ!!!」と声に出してしまい、自分でも驚いたことがあった。
アフターは店の従業員の目が届かない、いわば無法地帯。キャバ嬢側も自己責任だ。そんなときこそ、紳士的な対応でキャバ嬢からの信頼を得るチャンスだと思ってほしい。
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