お笑い芸人として活動しながら、キャバクラで働いていた経験のある、ピン芸人・本日は晴天なり。
ケチで当たり前のようにセクハラをしてくるお客さんが数多く来店するキャバクラでは、金払いと女の子の扱いがいいお客さんこそ“良客”として認められるという。しかし、彼女が出会った良客は、とある行動ひとつですべての善行を“台無し”にしてしまっていたという……。
キャバクラには当たり前ができない人ばかり
「台無しおじさん」は栃木から都内に用事があるときだけたまにやってくる工務店の社長。ほどよく筋肉質でほんのり日焼けした肌、ポロシャツにチノパンのラフな格好で来店する。1、2カ月に1度くらいしか来なかったが、古くから通っている常連客だった。
しかし、このおじさんは初対面のときからかなり口が悪かった。隣にいるキャバ嬢を呼ぶときは、「お前」どころか「テメェ」。「一緒に1杯いただいてもいいですか?」と尋ねると、「テメェ、バカ野郎、テメェ、勝手に飲めよ! テメェ」といった具合に「テメェ」で始まり「テメェ」で終わる。
「もう1杯飲んでいいですか?」
「テメェ、ばかやろ、そんなに金使ったら、おりゃぁ~、かあちゃんに怒られちまうだろ? テメェ」ちなみに、かあちゃんとは奥さんのことらしい。
しかし、「えーん! 飲みたいです~!」と返すと、「なーにがえーんだ、ばっかやろう。ほら、もう1杯飲めよ、この野郎、テメェーよぉ」と、もう1杯ごちそうしてくれる。口調に引っ張られて、ものすごくひどいことを言われてる感じになっているが、ちゃんと飲ませてくれる。
もう、おわかりのように、このおじさんは口が悪いだけで言ってることは普通なのだ。いや、むしろキャバクラではかなりの“良客”の部類に入る。
カラオケ中に「歌うまいですね!」と褒めた際、「何言ってんだよ、バカ野郎! お世辞言ってんじゃねえぞテメェ! ほら、いいから飲み物頼めよ! でも無理すんなよ!」と言われたことがあった。
こちらから伺わずとも、手元のグラスが空いているのを見て、ドリンクを頼むよう促してくれる。かつ、お酒を飲むペースに関しても、気遣ってくれる紳士っぷり。1セット(1時間)で帰るときの言い訳も、「明日、朝からかあちゃんの家庭菜園の肥料買いに行かなきゃいけねぇんだよ!」とか、「姪っ子のダンスの発表会があんだよ!」とか、理由がいつも家族サービスだったことにもすごく好感が持てた。
さらに、このおじさんは絶対にセクハラをしなかったし、絶対に下ネタを言わなかったし、女の子の容姿を悪く言うことも絶対になかった。むしろ「この店の子はどいつもこいつもきれいな顔しやがってよお!」と毎回褒めてくれたし、「俺はよ~若い子と何話せばいいかわかんねぇんだよ!! まあ、俺から言わせりゃ、あんたもじゅうぶん若いけどな! ケッ!」など、口の悪さもただのツンデレに思えてきてカワイイとすら思えてくる。
それくらいできて当たり前じゃね?と思うかもしれないが、当たり前のことができるおじさんが輝いて見えるのが、キャバクラなのである。
生粋の年下好きの私でも、“枯れ専”の気持ちがこのおじさんと出会って初めてわかった気がした。
止まらない“台無し”おじさんの魅力
そして、この台無しおじさん、地方とはいえ工務店の社長なので金払いもそこそこいい。指名嬢の誕生日や年末シーズンなどで店が混んでいたりすると、シャンパンなどの単価が高いお酒を開けて30分でサッと帰る。どんな短い時間でも金だけはしっかりと使う粋なスタイル。逆に店が空いてると閑散としないよう、次の客が来るまで必ず延長してくれる。どちらも店のスタッフやキャバ嬢から一番好かれる行動だ。
キャバクラには少しでも長く居座ろうと、お会計が終わったあとにタバコを吸い始めたりするお客様も多いので、ルールを守るだけで素敵に見えてしまう。そう考えると、キャバ嬢はなかなか落とせないイメージがあるかもしれないが、案外“普通”なだけでポイントを稼げるので、もしかしたら落としやすいのかもしれない。
しっかりケチで、しっかりセクハラしてくるのがお客さんのデフォルトなので、金払いも女の子の扱いもいいなんて、「良客オブ・ザ・イヤー」があったらこのおじさんが受賞して殿堂入りするだろう。
ある日、落ち込んだ様子の新人がこのおじさんの席についた。すると、このおじさんは元気がないことを責めるわけではなく、「お姉ちゃんどうしたんだい?」と話を聞き始めた。
その新人は昼職の仕事でミスをして上司にこっぴどく叱られてしまい、キャバクラに出勤してからもそのときの悲しみや自己嫌悪が顔に出てしまうと素直に話した。この悩みにおじさんは「いいか、よく聞けよ。今日は飲みたきゃ飲んで、帰ったらゆっくり風呂でも入れ! わかったな?」とだけ言った。
キャバ嬢が悩みを口にすると、ほとんどのおじさんが見当違いで押しつけがましいだけの“クソバイス”をしがちだが、台無しおじさんはまさかの聞き上手でもあった。そんなスキルまで身につけているなんて、人生何回目? この優しさは今でも私の心にも残っている。
そんな一面もあったからか、次第に「んなこと俺に聞くんじゃねーよ! テメェよお!!」なんて言いながら、けっして相手を頭ごなしに否定せず、キャバ嬢たちのちょっとした人生相談にも乗ってくれるようになった。
ある行為ですべての善行が“台無し”に
そんな「良客オブ・ザ・イヤー」殿堂入りクラスのおじさんがなぜ“台無し”おじさんなのか?
それは、口の悪さが理由ではない。台無しおじさんの入ったあとのトイレは、便器って知ってる?と問いたいくらい、床がびしょびしょになっているからだ。そう、彼は“トイレをびしゃびしゃにして、紳士な振る舞いをすべて台無しにするおじさん”だったのだ。
台無しおじさんが入ったあとのトイレはびしゃびしゃだとわかっているから誰も入らない。うっかり入ってしまい、ツイスターゲームの負ける寸前みたいな体勢で用を足したこともあった。けっしてオーバーな表現ではなく、床にかなりデカめの水たまりができてしまっているため、そうせざるを得ないのだ。こぼれるとかいうレベルではなく、おそらく一滴も便器に入っていないであろう量だ。
私の店のトイレはけっこう広く、大人が横になれそうなくらいあった。そのため従業員の間では、1.5m以上うしろから放たなきゃあの位置が濡れないだろと話題にもなった。そういう人に限ってベージュのチノパンを履いているので染みがついてしまう。
良客すぎるがゆえ、見えないところでトイレをびしょびしょにしてストレスを発散してるサイコパス説も浮上した。ちんちんが下向きに硬直してるのかも?と思い、隣に座った際、バレないように股間をチラ見したこともあった。
店長は「たぶん、おしっこしながらぐるっと一周してるんだよ」と言っていた。「さすがにそれはないでしょ」とマジレスするのは野暮なのでやめた。店長はそう考えないとやってられないのだろう。台無しおじさんがトイレから出ると、店長は大量の雑巾を持ち、覚悟した顔でトイレに消えていく……。
これだけで「台無し」は言いすぎかもしれないが、「樽いっぱいのワインに一滴の泥水が入れば、それは泥水だ」なんて言葉があるように、あの水たまりは「良客オブ・ザ・イヤー」剥奪レベルの迷惑行為と言っても過言ではない。
一滴でも尿を便器に入れてくれていたら……。“一尿善行に勝る”なんてことわざにしたいお客さんだった。
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