「ちょっとよかったあの日」の記憶を唯一無二の筆致で描くAマッソ村上によるファンタスチックな回顧エッセイ。『芸人雑誌』の連載を飛び出して、今回でサイバー連載第3回目。“今月のオキニのスープ”「しじみ汁」を皮切りに、食に取り憑かれた村上のグルメバイト遍歴をたどる。
今月のスープは「しじみ汁」
【材料】
・水…400ml
・不揃いなしじみ…150g
・昆布…折り紙を四つ折りにしたサイズ
・塩…親指と人差し指でひとつまみ
・酒…酔わない程度
・醤油…ぴちょんと
【作り方】
①しじみを塩水で砂抜きする。
②水と砂抜きしたしじみと昆布を鍋に入れて静かに煮立たせ、しじみと昆布の旨味汁を引き出す。
③アクをとり、昆布を取り出し、塩と酒を加える。
④醤油をぴちょんと入れる。
⑤お椀に注ぎ、青ネギをちらす。
ほぉ〜五臓六腑に染みわたる〜。特に肝臓にね!
しじみには肝機能を改善、サポートする成分オルニチンとタウリンが
たっぷり入っているため疲労回復や高血圧の予防などさまざまな効果が期待できるよ。
うちはもちろん二日酔い解消のために飲んでいるよ!
でも、二日酔い予防のためには、しじみ汁を飲酒前に
飲んでおくとより効果を発揮するみたいだよ!
そういえば、小さい頃はしじみがあまり好きじゃなかったな〜
むしろ海鮮全般好きじゃなかったな〜
VS食べたろかマン
うちの家族はおとん、おかん、兄、うち、弟、妹、プラスに犬と共にパークサイドハウスに住んでいた。
兄弟が多いと食べ物の取り合いが横行して殴る蹴るの喧嘩に発展したりするんじゃない?って疑惑をかけられたことが何度もあるがごはん中に正拳突きやかかと落としを繰り出した記憶はない。
ただ兄ちゃんはすごく食い意地の権化だった。
“食べたろかマン”と家族の中であだ名が付いていた。
自分の分をさらりと平らげた兄ちゃんはうちや弟のご飯をじ〜っと見つめ、
耳元で「食べたろか〜?」と何度も何度も聞いてくる。
“妖怪食べたろか〜”のがあだ名として適してるんじゃないかと思っていたが
オムライスに付いてるパセリをうちや弟が残してる時も「食べたろか〜?」と現れる。
苦いパセリもペロリと容易く食べる姿がヒーローに見えたのか?
だから“食べたろかマン”になったんかしら。
もしくは、3分以内に食べてどこかに行くからか?はてはて。諸説あります。
あまり好きじゃないものは残してるといつの間にかなくなっていた。
“食べたろかマン”のおかげで、「残さず食べなさい!」と怒られたこともなかった。
うちは知らぬ間に偏食怪獣スキナノダケタベルモンになっていた。
偏食怪獣スキナノダケタベルモンの主戦場はバイキングだった。
おかんはあまり料理が得意じゃなかったからか、外食に行くことが多かった。
とにかくコスパがいいお店はどこなのかとありとあらゆるお店に行った結果
村上特捜隊が導かれたのはバイキング!
そう食べ放題が我が特捜隊に一番合っていると答えが出た。
一定の料金で好きなものを好きなだけ食べれる画期的なシステムそれがバイキング。
「クゥ〜!バイキングのシステムは偏食にはもってこいだぜ!ダッハハハ!」
バイキングの発祥は日本らしく、1957年に帝国ホテルから誕生したそうな。
そのバイキングを広めたウルトラ料理人のお名前が村上信夫さん。
同じ苗字!うちと3文字違い!
これは先祖をたどれば、もしかしたら遠い親戚かもしれない。
そう思うと鼻高々!信夫おじちゃんよく頑張ったねと思う。
うちの先祖がバイキングを広めたんやぞと堂々と胸を張ってバイキングに行ける。
バイキングで完全体になる
しかしながら、帝国ホテルのような高級バイキングに行けるようなブルジョワな生活はしておまへんので、大人1980円小人980円と非ブルジョワな値段設定のバイキングに足繁く通うのだった。
よく行っていた和洋中様々な料理があるバイキング。
そこでは、スクランブルエッグやベーコン、ウインナーといった加工肉中心の前菜をちょろっと食べ、そしてメインディッシュを取りにいく。
6つに仕切られた白いお皿のすべての窪みにライチを大量に乗っけて席に戻る。
アルマジロみたいなライチの皮をベリベリ剥いて、すべて剥けたら一粒づついただきますのキスをして口の中に運ぶ。
すべて愛し尽くしたら、食後のデザートにまたライチ。
しゃぶしゃぶ食べ放題に行けば、しゃぶしゃぶそっちのけで着色料ガンギマリのアイスクリームをベロが七色にデコられるほど食べた。
飲茶バイキングでは紅さつまいもスティックのみを食べ、
注文しすぎて売り切れになったこともあった。
その時は「ガオー!(食べ放題やのに売り切れなんかあってええのけ?)
(もう来た意味ないやん)(ダルいわ〜金返せ!)」と大暴れした。
※偏食怪獣スキナノダケタベルモン完全体になってたので語彙を失っていた。
おかんに「小籠包も美味しいで」と促されたが、
「ガオ!ガオ!(そんなびちゃびちゃの豚まんいらんわ)」
「ガオォー!!(551の方がええわ!)」と小籠包まで傷つける悪党になっていた。
その1ヶ月後くらいに飲茶バイキングのお店は閉店した。
それがショックで偏食怪獣スキナノダケタベルモンは勢力を失い退治された。
そしてうちは白米の痛ファンになった。
俄然炊きたての粒だった麗らかな白米推し!
炊飯器の蓋を開ければ、湯気が立ち昇り、いい香りを浴びせてくれる。
ファンサエグいて!とキャーキャー黄色い声援を送っていた。
魔法使いサリーちゃんのお気に入りのお茶碗に白米を盛り何杯も食べた。
1杯目はおかずは何もなくただただ白米をほおばるタイム♪
2杯目はなめたけ、海苔の佃煮、おばあちゃんが作った昆布の佃煮をお供に食べていた。
3杯目は鰹節、醤油を適量にかけて猫まんまにして食べる。
これでお腹はマハリクマハリタヤンバラヤンヤンヤン♪
もっともっと白米の魅力をUPさせるためにお供の種類も増えていった。
お好みやきや焼きそばでご飯も食べれるし、クリームシチューだってwith白米よ。
焼き魚や明太子、すじこ、つぶ貝などあまり好みじゃなかった海鮮類も美味しく食べれるようになった。
そして飲食店でバイトをし始めてからさらに食への興味が加速していった。
大阪、粉もんバイトの街
飲食店でバイトすれば、美味しいまかないが食べれると聞いた。
そうなると大好物のお店で働くしかないと思い、最初に思い浮かんだのはうどん屋さんだった。
近くのうどん屋さんに面接に行ったが秒で落とされた。
深夜帯働ける人を募集してたらしく高校生は今受け付けていません。だと{ちゅるちゅる}
次に鰻屋さんに面接に行ったが、飲食経験がなかったので落とされた。{肝吸い〜}
働くことより食べることを考えながら面接を受けていたからうちはヨダレそのものになってしまっていたので、まぁ致し方ないか。
よこしまなヨダレにならない飲食店を探した。
そうや!ここは大阪や!ほな、粉もんの一つや二つ作れた方がええやんけ!
と思いお好み焼き屋さんで働こうと求人雑誌を熟読した。
好都合なことに高校の近くにお好み焼き屋さんが1ヶ月後に開店するからオープニングスタッフを募集していた。すぐに飛びついた。
面接に行くと開店前なのにバイトがもう2人辞めて、人手が足りないからすぐ採用された。(不穏)
ホールで採用されたがそこの店はお客さんの席でお好み焼きを焼いてあげるシステムだったので研修でお好み焼きの作り方をたたき込まれた。
お店が開店して1週間はオープン記念でお好み焼きを半額で提供していたのもあってすごい賑わった。
うちはらんま1/2に出てくる久遠寺右京のようにデカイコテを振り回しお好み焼きを作りまくった。
オープン記念が終わるとすぐ閑古鳥がやってきて爆音で鳴いていた。(不憫)
うん、こうなることはわかってた。だってお好み焼き不味いねんもん。
研修で自分が作ったお好み焼き、店長が作ったお好み焼き、
別のバイトの子が作ったお好み焼きを試食したが、あろうことかぜ〜んぶ不味かった。(不味)
暇が続き、店長はヒステリックになり、何もしていないのに怒ってきた。(不機嫌)
まかないも売り上げが目標に達してない日は出せないと言い出したり。(不服)
出勤すると今日は暇そうやから入らないでとトンボ帰りをさせられたりした。(不満)
そしてお店がオープンして1ヶ月、店長がレジ金を持ち逃げする事件が起こった。(不祥事)
すぐお店は潰れた。うちの飲食店デビューは真っ黒に焦げて終わった。(不戦勝)
そうや!ここは大阪や!と実感した。(不条理)
うちの食への追求は停滞した。(不覚)
偏食怪獣スキナノダケタベルモンは、そうして
もう、まかないなんかどうでもいいから時給が高いところで働こうと思って求人雑誌を再び、読み漁った。
するとお好み焼き屋で仲良くなった一つ年上のベティ・ブープのようにお目々がくりくりでナイスバディなお姉さんが「時給もお好み焼き屋より断然いいし、一緒にしゃぶしゃぶしない?昨日チップもらえた♡」と如何わしいお誘いを受けた。
ノーパンになる覚悟で面接に行った。
なんだか敷居が高いお店だった。
ベティちゃんの紹介なので即採用してくれた。
説明を聞くと、着物で接客、ノーパンにはならなくていいとの事。
新しい自分を開花できるかもと思っていたので少し残念な気持ちになる。(アバ搾取)
着物の着付けを覚えるのが難しかったり、
お箸の持ち方で怒られたり「お肉はピンク色が美味しゅうございます。」
と使ったことのない言葉を連呼させられたり困難はあったものの、着付けを覚えることで、浴衣を自分で着れたり、お箸の持ち方もクロス箸から許容範囲の持ち方になれたし、お肉はピンク色が美味しゅうございました。
何より自家製のごまダレがクリーミィで美味しかった。
今まで行っていたしゃぶしゃぶ食べ放題のゴマだれとは格段に違った。
ごまダレをこっそり湯飲みに入れて休憩中、お茶を飲んでるフリしてごまダレを飲んだ。そうさせるくらい美味しかった。ごまダレで塩分取りすぎて、いつもバイトをあがる頃には顔がぱんぱんにむくんでいた。
うちの中の偏食怪獣スキナノダケタベルモンがひょこっと顔をだす。
タベルモン 「ダハハ!好きなものだけに執着して食べるのが一番いいよな」
動揺するうち 「うん!ごまダレめっちゃ美味しい!ずっと飲んでたい!でも…」
料理長 「まかないできたぞー!」
覚悟を決めるうち 「(生唾ゴクリ)偏食怪獣スキナノダケタベルモン!うち行かなきゃ!」
タベルモン 「どこにダヨ?一緒に楽しくヤろうゼ!」
生まれ変わるうち 「ううん、うちは行く!次のステージへ!」とビビビビィーと光線を放つ。
偏食怪獣スキナノダケタベルモンは「コンナ自分モ居タコトハ忘レナイデ! バ イ バ イ」と言い放つと爆発し、塵となった。
うちは涙をこらえ堂々と胸を張りまかないを食べるバックヤードに向かう。うちは三角食べだって身につけたんだかんな!と空に強がりを漏らす。
料理長 「今日は特別にお刺身とすき焼きやぞー!」
着物姿のうち 「いやん、贅沢品!これは大層美味しそうでございます。ようけ白米盛って、よばれよ〜!料理長いつもありがとうございます。」
作ってくださる料理人の方々に感謝することも覚え、停滞していた食への興味がみるみると湧いてくる。
季節ごとにメニューが変わるのでそのたび試食があり、土瓶蒸しや海老しんじょなど、はじめましての食べ物に感動させられた。知らん名前の美味しい食べ物はたくさんこの世に存在することを発見!もっと食べたい!もっと知りたい!と探究心ギンギン丸だった。
ハタチになり、お酒が飲めるようになると焼き鳥が大好きになった。
美味しい焼き鳥を毎日食べて極めたいと思い、ユニクロと掛け持ちで焼き鳥屋さんでバイトを始めた。
まかないが最高だった。焼き鳥丼、手羽先の唐揚げ、たまにビールも飲んでもいいよと飲みながらまかないが食べれた。
すごい極まった!東京に上京してからは焼き鳥屋の店長に紹介してもらい、中目黒の鳥料理屋でバイトをした。水炊きを売りにしていて焼き鳥とはまた別の鶏の魅力を見せつけられた。
そして今!グルメが止まらない!
うちはいつだって全力酒食!
注がれたもの飲み干して、出されたものはたいらげる!止め処ない夜の店で空の胃を満タンに!をモットーに過ごしている。
衣食住の中で食が最も重要で特に重きを置いてるのは、夜ごはん。
ここ最近見事な夜ご飯週間があった!
月曜日:麻布十番で牛
火曜日:麻布十番で中華
水曜日:笹塚でタイ料理
木曜日:新御茶ノ水で蕎麦
金曜日:中目黒でおばんざい
土曜日:長居で焼き鳥
日曜日:堺でしゃぶしゃぶ
「みんなちがって、みんないい」って井之頭五郎も言ってくれるはず。
時を経てうちは、健啖怪獣オイシイモノゼンブタベタイモンになっていた。
「過去のうちよ、こんなにバラエティ豊かな舌になったぜ!グフフフ
さぁ未来のうちよ、これを超えれるグルメな週間をもたらすことは出来るかな?」
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