囲碁将棋『ZEKKEI NETA CLUB』には、なぜ町の人たちが協力してくれるのか
囲碁将棋が漫才スーツを持って絶景スポットを巡り、北海道の大自然でネタを披露するバラエティ番組『ZEKKEI NETA CLUB』(UHB北海道文化放送)の第3弾が9月10日(日)に放送された。
第1弾、第2弾は深夜の15分番組だったが、今回は60分スペシャル番組として放送され、番組初となる2組のゲスト(真空ジェシカ&令和ロマン)も出演。絶景スポットだけでなく国の重要文化財でもネタを披露する内容となっている。
なぜ『ZEKKEI NETA CLUB』は北海道の魅力的なスポットで、町の人々の協力を仰ぎながら、ロケ(しかもネタ披露)を実現できるのか。その理由を、同番組の企画と演出を務めるディレクター・ふたつぎが考える。
「テレビじゃないとできないこと」ってなんだろう
先日、ニューヨーク単独ライブ『虫の息』札幌公演に行ったときのこと。たまたま『囲碁将棋 Official YouTube Channel』で「ZEKKEI MANZAI」の撮影と編集を担当されている映像作家さんとお会いする機会があり、お話をさせていただいた。
そもそも『ZEKKEI NETA CLUB』は、囲碁将棋Official YouTubeの「ZEKKEI MANZAI」がきっかけで生まれた番組である。映像作家さんとお話する中で強く印象的だったのが「テレビじゃないとできないことをやってもらえて(もらえると)うれしいです」という言葉だった。
今の時代、「テレビは規制が多くて、できないことが増えてつまらなくなった」「YouTubeのほうが自由で、いろんなことができておもしろい」といったことを言われることが多い。そんな中で「テレビじゃないとできないことがある」という話を聞けてとてもうれしかった。それと同時に考えたのが「『テレビじゃないとできないこと』ってなんだろう」ということだ。
町の方が教えてくれた、テレビの価値
『ZEKKEI NETA CLUB』第3弾では、北海道の南部にある「シラフラ」「縁桂」「恵山」「旧函館区公会堂」という4カ所の絶景スポットで漫才の撮影を行った。
1カ所目の「シラフラ」は白い断崖が広がる海岸線で、荒波があったあとは波打ち際に多くのゴミが流れ着く。これではもう、絶景スポットどころか、滝沢ごみクラブスポットだ。ロケではそのゴミを事前に回収したり、道中の草を刈ったり、撮影クルーに同行して機材を運んだり、そういった環境作りを町の方々が有志で行ってくれた。
そもそもなぜ、そこまで町の方々が協力してくれるのか。その理由は、昨年同局で放送した『タカアンドトシの北海道全力絶景』という特別番組にある。
この番組はタカアンドトシ、EXIT、番組ディレクターたちが北海道の絶景を探し求めて奔走するバラエティ番組なのだが、なんと番組内でGLAYのTERUとTAKUROがシラフラを背景に歌唱するシーンが実現した。そのロケも乙部町の方々による多大なご協力により実現したもので、番組も大きな反響を得た。
先輩ディレクターから聞いたところ、ロケのためにブルドーザーを出して絶景スポットを整備したり、車両規制をかけたりなど、町をあげてロケに協力してくれたそうだ。町の人によると、番組後シラフラに来る観光客がとても増えたという。そういった経緯があり、『ZEKKEI NETA CLUB』のロケにも協力してくれたのである。
しかも乙部町はロケのサポートだけでなく、『ZEKKEI NETA CLUB』の番組提供にもついてくれた。なぜそこまでテレビに好意的なのだろうか。お金を払うということは価値を見出しているからであり、乙部町はテレビに価値を見出してくれているということだ。
町の人と話している中で、その価値のひとつは客観性にあると感じた。町の人は当然、町のことを主観的に捉えている。どんなに魅力にあふれていても、その場所で暮らしつづけていると、何をどう見せれば魅力的に映るか気づくことは難しい。テレビはその点、客観性を持って主体の魅力を見出し、広く伝えることができる。そこに乙部町の方々は、価値を見出してくれているのではないだろうか。
実際、乙部町の方からこんなことを言われた。
「うちの町にあるものはいいものだと思っているけれど、それをどう伝えればいいかわからない。テレビの人は、町のいいものを魅力的に見せられる術を知っていると思っているんだ」
いろんな町を訪れるテレビ制作者は、町の魅力に気づき、どうすれば魅力的に映せるかを知っている。だからこそ『タカアンドトシの北海道全力絶景』を通じて乙部町の魅力を伝えることができたし、町の方々もその映像や話題の広がりに感動してくれた。その結果、『ZEKKEI NETA CLUB』の番組提供にも加わってくれたのだ。
だからこそ、この番組でも魅力的に映すことができるよう、町の銘菓を食べている囲碁将棋を撮影した。
国の重要文化財の許可取りで気づいた、テレビの力
今放送では自然の中だけでなく、初めて室内でもロケを行った。サブタイトルで「~北海道の大自然をステージに~」と言っているのにもかかわらず。
サブタイトルを無視してでもロケを行いたかった場所は、函館市にある旧函館区公会堂。明治期に建てられた国の重要文化財だ。舞台が道南で、ゲストが令和ロマンに決まった時点でここにしたいと決めていた。
しかし、旧函館区公会堂でロケをするのは容易ではなかった。やはり「国の重要文化財」ということもあり、すぐに撮影を快諾してもらえるわけではない。それに、報道番組や情報番組ならまだしも「絶景で漫才をする番組」となると、交渉も難航する。
施設に企画書を送ったあとは、施設関係者内での会議、函館市の文化財課内の会議を経て、教育委員会の許可が下りて、初めてロケを行うことができる。
許可取りをしている最中に、「テレビじゃないとできないこと」のひとつがこういう場合なのではないかと思った。「絶景で漫才を撮影する」という企画内容自体は同じでも、たとえばテレビなのかYouTubeなのか、媒体によって撮影可否が変わることもある。
施設の担当者の方に電話口で「旧函館区公会堂さんの魅力ある館内のスポットで、漫才をさせていただきたいんです!」と熱弁をしたところ、館内で漫才の撮影をする許可が下りた。「よし!」と思い、つづけて「漫才だけではなくロケをするパートもありまして、想定としては、ドレスを着て即興ユニットコントとかも……」と言った際に、「ユ、ユニットコントですか?」といったような反応があったので、「NHKの番組のような、教育的な要素もあるユニットコントです! ええと、たとえるなら『わらたまドッカ〜ン』みたいな感じです!」と伝えた。
その結果、囲碁将棋と令和ロマンのユニットコントが実現した(※『わらたまドッカ〜ン』みたいな感じかどうかは番組を観て確かめてほしい)。
結局「テレビじゃないとできないこと」ってなんだ
とても表現が難しいのだが、「町のために」番組作りをしたことはない。その町におもしろいものや人、いいものがあると思っているからこそ、その魅力をどう伝えるかを考えたいと思っている。
メディアが上になり、取材先や取材対象者が下で「取り上げてやっている」という構図にはけっしてなりたくない。テレビ制作者として魅力的だと感じた、いいものやおもしろいものをテレビを通して伝えて、結果的に町が活性化されることが理想的だと思う。
その町のことをずっと考えて、我々以上に「町のために」という思いを持っている人たちがいるのを知っている。メディアの人間は、ずっとそこにいるわけではない。その意識を忘れずに、テレビにしかできないことをやっていきたい。
なんだかすごく善良な人間風につらつらと語っているが、私はそんなにたいそうな人間ではない。ディレクターという肩書きを取ったら、北海道に住む痛めのお笑いファン。X(Twitter)で「お笑いと心中した地方局D」と書かれたこともある。心中って……せめて結婚させてほしかった。
中学生のころから囲碁将棋のファンだから、囲碁将棋の番組を立ち上げ、大学のお笑いサークルの先輩にあたる真空ジェシカと令和ロマンをゲストに呼んだ。会社では「私利私欲番組」と呼ばれている。そんな私利私欲番組だが、出演者の方々、そして町の魅力が詰まっていると思うので、ぜひ観てもらいたい、喜。
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