「Ado」と「あの」、新たに始まった何が起きるかわからないパルプンテラジオ
2023年4月にニッポン放送の改編があり、月曜の『オールナイトニッポン』パーソナリティにはCreepy Nutsに代わり「Ado」が就任。火曜の『オールナイトニッポン0(ZERO)』パーソナリティには、ぺこぱに代わり「あの」が就任した。
Ado、あの。今年80歳になる祖母には一生覚えられないほどに名前が似ているふたりだが、その個性は唯一無二。どちらも一度その歌声を聴けば、二度と忘れられないほどのインパクトがある。
正直なところ、「いくら今大人気のアーティストとはいえ、化物のようなおもしろさを誇っていた前任のCreepy Nutsとぺこぱのあと番組を本当に継げるのか……?」と、最初は『M-1グランプリ』で各芸人に点数をつけているツイッターのオッサンのようなテンションでいた。
しかし、Adoとあのちゃんの初回放送をそれぞれ聴いたあと、電波の前で土下座したくなった。これ以上ない「最高の初回」。Creepy Nutsやぺこぱとはまったく違う、異次元ラジオが爆誕した。
いい意味でラジオの定石を無視するAdo
自らを「20歳の明るい陰キャ」と称した『Adoのオールナイトニッポン』は、誤解を恐れずにいえば本当に「やかましかった」。『封神演義』の話をするときだけ異常にテンションが上がっていた同じクラスの美術部の女子を思い出す爆弾のようなトークだった。「朝まで起きて朝に寝て14時くらいに起きる」らしく、深夜が最も元気になる時間帯なのか、いい意味でラジオの定石を無視した「ツイキャス」や「ニコ生」配信のような自由な放送だった。
自分の好きなものを語るときにはとんでもなく饒舌になったり、0のテンションで話していたかと思ったら次の瞬間にはいきなり100になる。脳を介さずそのまま口から言葉が出ているようなトークはDJ松永を彷彿とさせる。
しかし自らの曲を流せば、力強さと繊細さを兼ね備えた圧倒的な歌声に、今までしゃべっていた人間と本当に同一人物なのかと錯覚する。どこかミステリアスで他人を寄せつけない歌唱時の雰囲気と、フリートークの雰囲気との乖離に脳が破裂しそうになった。
「ギャップ」という点でいえば、中島みゆきのラジオを聴いたときの感覚に近いものがある。また「顔出し」を一切していないというのもラジオという媒体では大きな魅力で、まだradikoもなかった時代に適当にラジカセの周波数を合わせて、どこの誰かも知らない人の番組を聴き「この人はいったい誰なんだろう? どういう人間なんだろう?」と声だけでパーソナリティを想像していたときのことを思い出し、懐かしさで涙腺が崩壊した。
偏見と暴論まみれで切れ味抜群の、あの
そしてもうひとつ、恐ろしい番組が始まってしまった。『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』だ。私自身、最初はあのちゃんに対しての理解が追いつかなさ過ぎて「いったいなんなんだ」と思っていたのだが、直接脳をくすぐられるような声、常に予想の斜め上を行く摩訶不思議なキャラクター、異次元のワードセンス。ブラックホールのような吸引力に、気がついたらあのちゃんの一挙手一投足を追っている自分がいた。そして先日『あちこちオードリー』(テレビ東京)に出演していたあのちゃんを観て完全にやられた。笑顔を守りたい、そう思ってしまった。そんな彼女の初回放送、ひと言でいえば「ロック」だった。
「こんな叩きやすい人材を叩くネットアーチャーはダサい。プロ失格」「みんな本名出してないじゃん? フワちゃん、粗品、あの。逮捕されるとき用に芸名にしてるんで」「星野源さん逮捕要素ゼロだったもん」「長屋晴子さんもあんなきれいな目見たことない。たぶん一回も逮捕されてないよ」「どうします? 犯罪おかします?」「炎上国士無双13面待ちフリテン」「刑務所ラジオ」
冒頭から、自らの首が飛ぶほどの凄まじい切れ味の刀をブンブン振り回し、一瞬で「ヤベえ……」と思わせる。何を言うかわからないワクワク感と恐怖が入り混じった、偏見と暴論まみれの「これぞ深夜ラジオ」といえるほどの爆発力があった。そして、情緒をかき乱され意識が飛びそうになるなか、急に始まった星野源「くだらないの中に」の弾き語り。緊張で何度か演奏をやり直しながらも全身全霊で歌うその声は、誰のマネでもない「自分が自分として歌う」ことのすごさを改めて感じさせてくれた。
陰キャラジオ『Adoのオールナイトニッポン』、刑務所ラジオ『あののオールナイトニッポン0(ZERO)』、これから何が起こるかまったくわからないパルプンテラジオにこの先どうなっていくのか、本当に楽しみでならない。
そして、あのちゃんが番宣CMで「月火で変な女つづくなあ」と言っていたが、月曜日はAdo、フワちゃん、火曜日は星野源、あのちゃん……この並びに挟まれながら何も変わらずに「星野源」をやりつづけている星野源の存在が、逆に一番怖い。
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