ヒップホップ売人によるヒップホップ売り場『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』番組の終了に寄せて

2023.2.5
Creepy Nutsのオールナイトニッポン

画像=ニッポン放送

文=かんそう 編集=鈴木 梢


『Creepy Nutsのオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が、2023年3月末に終了を迎える。

振り返れば、2016年に単発放送された『オールナイトニッポンR』から『オールナイトニッポン0(ZERO)』そして『オールナイトニッポン』への昇格と、長い歴史があるこの番組だが、私がCreepy Nutsのラジオを聴き始めたのは2019年の5月『ゴッドタン』の企画「ラジオ芸人サミット」にCreepy Nutsが出演していたことがきっかけだった。

人気番組を持つハライチ、アルコ&ピースと並び、その2組に劣るどころか、えげつないほどのテンポで爆笑をかっさらっている姿を見て「なんだこいつらは……」と衝撃を受けた。そこから本放送を聴き、ゴッドタンのときと変わらぬ、いや、それ以上に狂った放送を展開するふたりの虜になってしまった。

いい意味で下品で幼稚、なんでもありのバーリトゥードスタイル。ほんの些細な話題からまったく予想だにしない方向に進む予測不能ぶりと「知る人ぞ知る」だったふたりが芸能界のスターダムを駆け上がっていく過程をリアルタイムで追うことができるワクワク感。「深夜ラジオに求めるすべて」がそこにあった。


ある意味、誰よりもヒップホップな男・DJ松永

DJ松永は、檻から放たれた獣だった。「ツイッターで意見を一切言わない代わりにラジオでマジレスする」と豪語するこの男は一切の話題に事欠かない。決して尊敬はできないが魅力しかない、その人間性を知れば知るほど圧倒的な中毒性に満ちていた。

DJの世界一を決める大会『DMC WORLD DJ CHAMPIONSHIPS FINALS 2019』でロンドンに渡英した際は、エド・シーランを探し、現地人に「Are you Ed Sheeran?」と話しかけて逆に「何かキメてんのか?」と言われ、初詣に行けばおみくじを何本も買い大吉を無理やり引き当て、神にカマすために賽銭箱に7万円をブチ込み、AirPods Proを買えば5回なくした挙げ句、変わりに中国製のパチモノを2個購入するが両方壊れ、結局AirPods Proを再び買い直し、気持ちが下がったときは自分より下手なDJの動画を観て自己肯定感を高める……どこを切り取ってもクレイジーエピソードの宝庫。ある意味で誰よりもヒップホップな男がここには存在していた。

また「メール読み」の才能は凄まじく、ふつおた、コーナーメール問わず、変幻自在に声色やテンポを変えて臨場感たっぷりに読み上げる。まるでメールを読まれたリスナーが「そこ」にいるかのようだった。特にエド・シーランの「Shape Of You」の「ポンポンポン」に歌詞をつけてあげるコーナー「大江戸シーラン」はDJ松永なくしては絶対に成立しない。個人的にメール読みのうまさのトップ2は、DJ松永と爆笑問題の太田光だった。

R-指定の暴走と異常な愛情

そんなDJ松永を抑え込み、共に暴走するのがR-指定。DJ松永が獣ならば、R-指定はそのブレーキを自らの意思で外している改造車。時にはDJ松永以上のヤバさを見せることも多々あった。類稀な記憶力からくるトークはもはや落語の域で、何年も前の話をまるで昨日のことのような再現度で我々に届けてくれるし、YouTubeの早口漫画広告を即興で完全再現できる人間はR-指定においてほかにはいない。

また、異常な愛情からくるレジェンドラッパーたちのものまねのクオリティは「変態」のひと言で、SOUL’d OUTのDiggy-MO’が歌う「ディギモニ。ジャンケンぴょん!」は永遠に脳の海馬に刻み込まれている。ヒップホップだけでなくJ-POPや日本ドラマなどの知識量も凄まじく、R-指定によって記憶の奥底に眠っていたものが再び引き出される感覚を何度味わっただろうか。「CRAZY FOR YOU」、ENDLICHERI☆ENDLICHERI、フードファイト……鍵のかかっていた扉が開く感覚は「快感」以外の何物でもなかった。

猛毒を水だと言って一般人に言葉巧みに売りさばくヒップホップ売人


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かんそう

1989年生まれ。ブログ「kansou」でお笑い、音楽、ドラマなど様々な「感想」を書いている。

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