Stray Kids『THE SOUND』から受け取った「押し込める“べき”感情からの解放」というメッセージ
2月にさいたまスーパーアリーナと京セラドーム大阪で行われた『Stray Kids 2nd World Tour “MANIAC” ENCORE in JAPAN』の4公演で約13万人の観客を集め、2月22日に待望のJAPAN 1st Album『THE SOUND』をリリースした8人組ボーイズグループ、Stray Kids(ストレイキッズ。通称「スキズ」)。
同アルバムはオリコンの「週間アルバムランキング」で自身初の1位に輝き、初週の売り上げは37.8万枚を記録した。そんな日本でも絶大なる人気を誇るStray Kidsの魅力を、ライターの新亜希子が『THE SOUND』の“音“を通して紐解いていく。
日本初フルアルバムでも示したStray Kidsのモットー
2月11日・12日にさいたまスーパーアリーナ、同月25日・26日に京セラドーム大阪にて『Stray Kids 2nd World Tour “MANIAC” ENCORE in JAPAN』を成功させた韓国の8人組ボーイズグループ、Stray Kids。
2022年に発表したミニアルバム『ODDINARY』『MAXIDENT』がいずれも米・アルバムチャート「Billboard 200」で1位を記録し、同年にはワールドツアーを成功させるなど世界を席巻する彼らが、2月22日に待望のJAPAN 1st Album『THE SOUND』をリリース。同作はオリコンデイリーチャートで首位を獲得、勢いそのままにウィークリーチャートも制し、月間アルバムランキング(2月度)でも1位に輝いた。
本稿では、同アルバムに収録された新曲7曲を中心に紹介したい。
強く壮大なトラックに鼓動が高まるリード曲「THE SOUND」は、ストレートなタイトルと<This is the sound it’s our sound>の歌詞のとおり、Stray Kidsが鳴らす“音”を誇りと共に突きつけた楽曲。「世界」「僕ら」と、日本語になることにより、当初こそStray Kidsらしい強さがないようにも感じたのだが、とんでもない。彼らがデビューアルバムのタイトル曲「District 9」に認め、常々口にする「Stray Kids everywhere all around the world」──何者でもない人、彷徨っている人、すべての人、“みんなとつながる”というモットーを、日本初フルアルバムにおいても示した重要な楽曲である。
始まりの号令のごとく吠える「Stray Kids!」。M2「Battle Ground」は、一人称が“俺”である点も日本オリジナル曲ならではの味わいだ。全面的に押し出した負けん気と悪童っぽさ、共存する不安と気勢、けれど絶対に捨てない夢、音楽という“Battle Ground”に向かう意思を8人のかけ合いで表現している。世界中でI.Nだけが持つ、不思議な響きのボーカルがぴたりとマッチするサビの解放感と、随所に散りばめられたトラックの遊びからは、どこかゲームミュージックの風味も。今やStray Kidsのトレードマークであるフィリックスの低音ラップを存分に堪能でき、スンミンの強い表現にも驚かされた。
キーリングパートでもあるブリッジが印象的なM3「Lost Me」は、チャンビンらしい繊細な歌詞が印象的な楽曲。「Streetlight」や「Mixtape : On Track(바보라도 알아=バカでもわかる)」など挙げればキリがないほど、彼が綴る情緒的な歌詞には、誰もが抱えているであろう寂しさや不安、心の澱、後悔や、それでも信じたい思いが重なる。うまく言葉にはできない、むしろ隠しておきたい、けれど時には言葉にして吐き出したい感情を音楽にするのがチャンビンでありStray Kidsなのだと改めて思う。歌詞だけを見れば、心の奥が少し苦しくなる「Lost Me」。けれど、そのすがるような、願うような言葉たちを、希望をまとった温かなサウンドが包み込む。“聴く”ことで得られるぬくもりこそ、歌詞に込めた願いへのアンサーだ。
メンバー間で異なる愛の表現
ところで前作『MAXIDENT』について彼らは、Stray Kidsならではの愛の表現に挑戦した一枚だと語っていた。とはいえ“ラブソング”と分類される楽曲は、過去にもいくつか発表されている。しかし、たとえば「좋아해서 미안 (Sorry, I Love You)」や、いくつかのメンバーのソロ曲、ユニット曲からは、どこか愛を遠ざけようとする傾向を感じていた。美しく尊いものであるから、あるいは、傷つき傷つけられるものであるからと、理由こそさまざまだが、愛することへの臆病さや怯えさえ感じるような“特別視”と、相反する渇望が混在しているように思えたのだ。
その最たる表現といえるM4「DLMLU」は、ヒョンジンが制作に携わった楽曲。タイトルは「Don’t let me love you」、すなわち「もう愛させないで」。愛し過ぎる前に、壊す前に逃げてほしいとまで願う、強い愛情の裏返しと葛藤が描かれている。むせぶようなイントロのギター、繰り返すリフ、寂しげだが熱を帯びるディープなサウンド、トップラインにはどこか懐かしいロックのテイストも感じられる。嘆くようなヒョンジンのボーカルは、母語の違いなどまるで感じないほど感傷的で抒情的。パフォーマンスの機会があるとすれば、どう魅せてくれるのだろう。SOUNDだけでも痛いほどダイレクトな彼らの感性に、期待が高まるのを禁じ得ない。
ここでがらりと空気を変えるのが、スンミンが制作に携わったM5「Novel」。親友同士のヒョンジンとスンミンが描く、愛や恋の表現の違いもまた興味深い。「恋をしたらこんな感じなのかなと思って書いた」というコメントや、敬語で綴った歌詞もスンミンらしい、色彩豊かなピュアソングだ。トラックはときめく胸の高鳴りと同期し、スンミン、I.Nがみずみずしいボーカルで世界観を表現。フィリックスがラップとはまるで異なる形で存在感を示すほか、リノの甘やかな声になんともいえぬ味わいがある。クリアなのにスモーキー、かつ少年性と色気を併せ持つ彼のペパーミントボイスは、いつからかStray KidsのSOUNDに欠かせないものとなった。
Stray Kids“SOUND”の柱
彼らはプロのアーティストであるから、日本でリリースする以上、どれほど素晴らしくともその発音の美しさに感心するのは失礼にあたると思っていた。しかし3RACHA(スリーラチャ:バンチャン、チャンビン、ハンによるプロデューサーユニット)を中心とした日本語でのラップには、やはり驚愕する。
そんなスキルフルな彼らの、ボーカリストとしての表現を堪能できるのがM10「There」だ。深く静かなイントロから、ハンが歌えばまさに“情緒あふれ”、チャンビンの甘く切ないボーカルが語りかける。日本語を交えてディレクションを行い、その発音にもこだわるリーダー・バンチャンは、やはりSOUNDの柱。楽曲によって主人公は変われど、Stray Kidsの柱はバンチャンなのだ。
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『THE SOUND』には、一聴するとラブソングが多い。しかし、本作に「Japanese ver.」が収録された「CHILL」の制作にてハンが語っていたように、恋や愛を歌っていようとも、イコール恋愛の曲だと定義する必要はないとも思う。心の奥深くで叫んでいる、殻を破って今にも飛び出したがっている、押し込める“べき”としている感情、それらを解放してくれる音楽。それがStray Kidsの“SOUND”だと、本作を通して改めて感じた。
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