2002年『あいのり』主題歌「明日への扉」ヒットの裏側。女子高生だった川嶋あいが“絶対に譲れなかったこと”
I WiSHの「明日への扉」は、2000年代を象徴するラブソングのひとつだ。
2002〜2003年にフジテレビ系で放送された『あいのり』の主題歌となり、当時の女子中高生から20〜30代まで、幅広い年齢層に愛されるヒットソングとなった。
I WiSHとして活動していた川嶋あいは、今年でデビュー20周年を迎える。20年の時を経ても愛される楽曲はどのようにして生まれたのか、当時のことを聞いた。
目次
16歳で上京、「路上ライブ1000回」を決意
──歌手を目指して16歳で福岡から上京し、その約1年後から路上ライブを始めた川嶋さん。初めて路上ライブをしたときのことを教えてください。
雑踏の中で歌うのって、めちゃめちゃ勇気のいることだなと思いました。ただ、私が路上ライブをしていたころは、ほかにひとりで歌っている女の子が全然いなかったのもあって、「何をやっているんだろう?」という興味からいろんな方に観ていただいたのを覚えています。
──当時は「1000回の路上ライブをする」「自主制作のCD・5000枚を手売りする」「渋谷公会堂でワンマンライブをする」という3つの目標を掲げていたそうですね。
はい。路上ライブ1000回は、目標がないまま路上に繰り出して、くじけて帰ってきてしまっていたことを母に電話で相談したときに「1000回やってダメだったら、諦めて福岡に帰ろう」と約束して、決めました。
CDを5000枚売るというのは、路上ライブで出会ったI WiSHのnaoさん(作曲家・音楽プロデューサー)や今一緒に活動してるスタッフが「一緒にCDを作ってみない?」と提案してくれて、naoさんの家にあるスタジオで初めてレコーディングしてCDを作ったのがきっかけです。
渋谷公会堂でライブをやるというのは、ちょうど渋公の斜め前ぐらいでストリートライブをやっていたこともあって「いつかは中でやってみたいな」と思って掲げました。
──I WiSHとして共に活動していたnaoさんや、スタッフの方々との出会いは路上ライブだったんですね。路上ライブを始めてから、どのくらいのタイミングで出会えたのでしょうか?
始めてから2カ月後ぐらいですかね。最初は「協力できることがあったら、協力するよ」と言って、たまにお手伝いをしてくださる感じだったのですが、一緒に過ごしていくうちに波長が合うなと思うようになり、自然と仲よくなっていきました。
「『あいのり』主題歌を書き下ろしてほしい」番組プロデューサーとの出会い
──I WiSHのデビューシングル「明日への扉」は、どのような経緯で生まれたのでしょう?
ストリートライブを渋谷のハチ公前でやっていたときに、当時『あいのり』の番組プロデューサーをしていた方が通りかかったんです。そのときに歌っていた「旅立ちの日に…」を気に入ってくださって「あのメロディで、『あいのり』主題歌用の歌詞を書き下ろしてくれないか」と言われました。
──すごい偶然ですね!
もともと番組のファンだったので、信じられませんでしたね。『あいのり』といえば過去に名だたるアーティストさんが主題歌を歌っていましたし、そのチャンスをデビューすらしていないド素人の私がいただけるなんて、とびっくりしました。
ただ、そのときは、まだ正式に決定していたわけではなく、あくまでもコンペに参加できるとのことだったので、一生懸命歌詞を考えましたね。
──当時、歌詞を書くときに意識されたことを教えてください。
「結婚に向かっていくようなストーリーの男女の恋愛を描いてもらえないか」というオーダーを受けていたので、Aメロから最後のサビまで、全部強い言葉で書くことは意識しました。どこを切り取っても、心に刺さるような歌詞を書きたいなと。それで、10回以上書き直して、「明日への扉」の言葉に辿り着きました。
デビューしても「路上ライブ1000回」は絶対に達成したかった
──川嶋あいとしてでなく、I WiSHというユニットとして「明日への扉」をリリースしたのはなぜですか?
『あいのり』主題歌に決まった時点で、路上ライブを1000回やるという目標を、まだ100回程度しか達成できていなくて。「このままデビューしちゃったら、ストリートで歌えなくなるだろうな」と思って、名前と顔を伏せて、naoさんとI WiSHとしてデビューすることにしました。
──デビューと『あいのり』主題歌が決まっても、路上ライブ1000回はつづけたかったんですね。
昔から、一度走り出したら止められないタイプの人間なんですよね。だから、デビューしたことはうれしかったですけど、1000回は走り切りたいなと思ったんです。その後、19歳で路上ライブ1000回目を達成しました。
──路上ライブをやっていたとき、“I WiSHの人”とバレた経験はなかったのでしょうか?
曲が『あいのり』でオンエアされるようになってからは、毎回1〜2人に「I WiSHの方と声が似てますね」「歌ってる方ですか?」と言われました。でも「違います」って言い張って、切り抜けてましたね(笑)。
「明日への扉」記録的大ヒット。CDを手に取るお客さんを観察したことも…
──「明日への扉」は、デビューシングルにもかかわらず2週連続でオリコン週間ランキング1位を獲得し、2003年度の年間6位にランクインするほどの社会現象となりました。このヒットをどのように受け止めていましたか?
当時はCDショップにCDを買いに行くのが主流の時代だったので、渋谷のCDショップに見に行っていました。そこでI WiSHの特設コーナーを発見したり、いろんな方が視聴機で聴いて、CDをレジに持って行っているのを見たりして、たまらない気持ちになっていましたね。2〜3時間ぐらい観察してたこともあるぐらい、うれしかったです。
──確かに物理的に「CDを買う」姿を見られるのは、ダウンロードやサブスクで音楽を聴く文化ではなかった当時ならではですね。ファンの方から届いた声で印象的なものはありましたか?
I WiSHのホームページに、BBSとチャットのコーナーがあったのですが、そこに書き込まれるメッセージやリスナー同士のやりとりがアツくて、よく見ていました。「この曲を聴いて彼女にプロポーズしました」「この曲を聴いて結婚しようと思いました」「彼とけんかしてたけど仲直りできました」とか。恋愛における小さな一歩になれているのかもしれないなと思うと、胸が熱くなりましたね。
──一方、デビューシングルがヒットしたことで、プレッシャーになってしまったことはなかったのでしょうか?
プレッシャーというものは、どの作品のときもありました。ただ、2曲目の「ふたつ星」に関しては、ヒットするよりも前、デビューが決まったあとすぐに作り始めた曲だったので、そこまで影響はありませんでしたね。「明日への扉」はあくまでも『あいのり』を彩るための曲でしたが、そういうのを抜きにしてI WiSHのリスナーに届けたい歌をどう描くかをnaoさんと話しながら作りました。
──では、数字に惑わされたり、一喜一憂したりすることもあまりなかったのですね?
そうですね。結局I WiSHをやっていた期間って、ほぼ同じスタッフと川嶋あいとしての活動を並行でやっていたので「数字を上げないと!」という話はしたことがなかったんです。数字に関しては、レコード会社に任せっきりだったというか(笑)。
「川嶋あいとして『明日への扉』を歌えなかった」I WiSH解散の理由
──その後、I WiSHとしての活動を終えて、川嶋あいさん個人の活動に本腰を入れることになったのはなぜでしょう?
I WiSHはnaoさんと作る自分自身ではあったのですが、やはり「明日への扉」という曲がとてつもなく大きい存在になってしまっていったんですよね。
「川嶋あいです」とライブをやりに行っても「『明日への扉』を歌ってください」ってリクエストされることもあり、でも、川嶋あいとして出した曲ではなかったので歌えず、戸惑いを感じてしまいました。だからユニットを解散したら、気持ちを切り替えて、川嶋あいとして「明日への扉」を歌うこともできるかなと思ったんです。
でも、I WiSHとしての活動ってめちゃくちゃ楽しくて、刺激と学びがある時間だったので、解散するときは「寂しいよね」とnaoさんと話していました。結局、解散してからも全然会っているし、いまだに頻繁にご飯に行っているんですけど(笑)。
──そうなんですね。そして、今年デビュー20周年のタイミングで、I WiSHを再結成して新曲をリリースすることになりました。その理由を教えてください。
20周年を迎えていったん立ち止まってみると、本当に自分のことを支えてくれたいろんな方々に感謝を伝えたい気持ちでいっぱいなんです。そういう人たちのことを思い浮かべて、どうしたら喜んでもらえるかを考えたときに、I WiSHの新曲を出して、ライブをやりたいなと考えました。当時、一瞬でもI WiSHの曲を聞いていただけた方に、あのころの“I WiSH感”を感じてもらえたらうれしいなと思っています。
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I WiSH新曲「スノードーム~冬~」「スノードーム~春~」
2月14日、I WiSHの15年ぶりとなる新曲「スノードーム~冬~」「スノードーム~春~」の2曲を配信リリース。
■リリース情報
2023年2月14日デジタルリリース
I WiSH「スノードーム」
<収録曲>
1.スノードーム〜冬〜
2.スノードーム〜春〜関連リンク
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