私たちの「よりどころ」としての千葉雄大——この世に生きる一人ひとりをすくい取る俳優
ドラマ、映画に留まらず、オンライン舞台出演などさまざまな場面で活躍する俳優・千葉雄大。2020年に芸能生活10周年を迎えた彼は、これまでに多種多様な役柄でインパクトを与えてきた。
だが、彼の活動は演技だけに留まらない。特にSNSの使い方から見える千葉雄大の人柄は、悩みを抱える人の「よりどころ」となっている。2018年発売の写真集『横顔』や彼のSNSなどから、千葉雄大を正面ではない角度から読み解いていく。
千葉雄大が持つさまざまな表情
〈「横顔」には“人物の表向きには表れないある一面”という意味があるそうで。〉
2018年発売の写真集『横顔』(ワニブックス)の帯に、千葉雄大本人が寄せた言葉である。彼のふるさと・宮城県で撮影された写真集は、そのタイトルに違わず、横顔や俳優としての仕事の舞台裏を繰り返し写しつづけている。
レトロな遊園地のメリーゴーランドに乗る千葉雄大。快晴に羽織ったピンク色のシャツが映える。木馬の上で脚を上げ、おどけてみせる。撮影場所は宮城県民で知らない人はいないであろう「八木山ベニーランド」という遊園地だ。古いメリーゴーランドというと、彼が出演した映画『スマホを落としただけなのに』(2018)のクライマックスを思い出す。彼はスーツに身を包んで巡査部長役を演じていた。
図書館で、メガネをかけて本に視線を落とす千葉雄大には、『帝一の國』(2017)で演じた物静かな生徒会長候補の面影を感じる。また、海鮮丼をほおばるその表情はもちろん、目を引くのはその丼を持つ左手の造形美だ。手首の肌はわずかな曲線を描きながら白く光る。その先で丼を支える手は大きく、広い手の奥行きを感じる。
昭和の雰囲気漂う飲み屋街である「壱弐参(いろは)横丁」で撮られた写真は、打って変わってダークなイメージ。紫のシャツを着て前髪を上げ、突っかけるようにサンダルを履く。シルバーのネックレスは、夜の暗がりの中ではゴールドにも見え、そこにサングラスをかけると一気にアウトローな雰囲気が増す。
同じファッションで前髪を下ろし、青空の下で寺参りに向かう。自らの財布から小銭を出し、おみくじの「中吉」を引いて口を尖らせてみせる。ツンと上向いた唇の山の形は変わらない。なのに、夜の街で見るその口は何も語らないように見える。その一方で、おみくじを見せてツンとした唇のなんと感情豊かなことか。
千葉雄大は、ドラマ『プリティが多すぎる』(日本テレビ/2018)、『おっさんずラブ-in the sky-』(テレビ朝日/2019)、『いいね!光源氏くん』(NHK総合/2020)などで「かわいい」イメージの役柄を演じてきた。その影響もあり、千葉雄大=“かわいい”という印象を持つ人は多いかもしれないが、それは彼の一面にしか過ぎないことが、この写真集を見ただけでも伝わってくる。
深夜に聴くラジオのような千葉雄大のSNS
あまり広く知られていない千葉雄大の活動として、注目したいものがある。インスタグラムを使ったファンとの交流だ。
彼のインスタグラムをフォローしていると、時々多数のストーリーズがアップされていることに気づく。クリスマスや出演映画の公開、あるいは彼のノリで、フォロワーやファンからのメッセージを集め、ストーリーズ機能を用いてそれに一つひとつ回答しているのだ。
クリスマスプレゼントを何にするか考え中という人には、予算によると前置きしつつ、
「キャンドルかちょっといいブランドのボディソープかパジャマ」
と実用的なアドバイス。見た目が中性的なために「恋愛対象は男?」とよく聞かれると困っている男性に、千葉雄大は共感を示しながらこう答えていた。
「違くてもそうでもダルみだね」
「大丈夫。千葉雄大がそーゆー人はスワイプしろって言ってたなって思い出してみて」
将来何がしたいのかわからない、という漠然としているけれど切実な悩みには、長文で回答し下記のように締めくくる。
「私は仕事好きだけど、仕事するために生きてるわけじゃないから。ドライに聞こえたら嫌だけど、生きるために仕事してるから。似て非なるものよね。徒然ごめんなさい」
ファンとのちょっとしたやりとりに留まらず、このように、時には彼の仕事観や人生観までも垣間見せてくれる。普段はインタビュー記事などでしか知ることができない彼の考えが、彼の言葉そのままに届くことがうれしい。
また、質問者には共演者が登場することもある。2020年のクリスマス前には、『いいね!光源氏くん』で共演中だった俳優・伊藤沙莉が「恋人がサンタクロースらしいんですがいない私にもサンタは来ますか?」と質問。「こちとら、サンタって金積めば来てくれるって聞いたんだけど。稼いだ金積みな。あ、ジェンガしたい。」と冗談で返す仲のよさを見せていた。
インスタグラムのストーリーズ機能でファンや共演者と短いやりとりをする俳優、アイドルは多い。その中でも、千葉雄大は少なくとも2020年以前からその機能を使いこなし、差別や生き方に関するものなど、答えにくいようなコメントにも自分の言葉で回答をしてきた。
2017年に最初の投稿がされている千葉雄大のインスタグラム、投稿数は108件とけっして多くはない。距離が近い存在ではないが、彼のストーリーズが更新されていると、心の距離がグッと近くなったような気がしてくる。深夜に聴くラジオの声のような、内緒話のような親密さを感じずにはいられない。
多岐にわたる活動はわたしたちの「よりどころ」
千葉雄大の活動の場はドラマ、映画、舞台、ラジオなど多岐にわたる。
今年3月には、オールナイトニッポン55周年記念公演『あの夜を覚えてる』というオンライン舞台に挑戦した。生配信で、一度始まれば止まることができない舞台と配信のダブルの緊張感、そして直前に台本が変更になるなど、生のドタバタ感を体験したに違いない。
映画『スマホを落としただけなのに』や、ドラマ『アバランチ』(フジテレビ/2021)では、親を亡くしたり、親からの愛情を受けられなかったりする役柄。『殿、利息でござる!』(2016)や『帝一の國』などでは、周囲の人々のためを思い行動する役柄。『子供はわかってあげない』(2021)などでは、性適合手術を受けたトランス女性の役。ここに書き切れないほどの千葉雄大の演じてきた人物たち、どれかひとりには共感したり心を動かされたりするのではないか。
今年は、8月にケラリーノ・サンドロヴィッチ作・演出の舞台『世界は笑う』、10月公開の映画『もっと超越した所へ。』への出演が決まっている。舞台では、世の中と自分の足並みがそろっていないと感じている人物、映画ではあざとかわいい「クズ男」を演じるという。まるで、この世界で生きる一人ひとりをくまなくすくい取っていくようだ。
SNSでファンに寄り添う千葉雄大は、その演じる役柄でも人々に寄り添おうとしているように感じる。求められる役割に応えるだけでなく、自らも発信をしていく姿は、悩みや孤独を抱える人のよりどころになるはずである。
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