考察待ったなし!本格ミステリー『元彼の遺言状』 1話の入り組んだ設定と暗号を解きほぐす(ひと目でわかる相関図付き)
綾瀬はるかと大泉洋がバディを組んだ月9ドラマ『元彼の遺言状』(フジテレビ)がスタートした。「財産は、僕を殺した犯人に相続させる」という異例の遺言が公開されたことで展開するミステリー。関係者と伏線らしきものがドドドーッと登場し、まずは設定紹介という感じだった第1話。漫画家でライターの北村ヂンが入り組んだ設定を振り返る(ネタバレを含みます)。→ 2話レビュー
僕を殺した犯人に財産を相続させる
主人公は、敏腕だが「稼ぐために弁護士をやっている」と言い切ってしまうほど金に執着している弁護士・剣持麗子(綾瀬はるか)。
大学時代の知人だという篠田敬太郎(大泉洋)から、麗子の元彼・森川栄治(生田斗真)が亡くなったことを報される。篠田は、栄治が療養のために暮らしていた軽井沢の別荘で管理人をしていたのだという。
実は、栄治は森川製薬の御曹司で、とんでもない遺言状を残していたのだ。
元カノたちを含む、これまでにお世話になった人たちに、腕時計コレクションや美術コレクション、軽井沢の別荘、所有する不動産などを贈る。
そして、それ以外のすべての財産を、「僕を殺した犯人」に相続させるというもの。
普通に考えれば、遺産をエサに犯人をおびき出して捕まえるための罠だが、「犯人が刑事罰を受けることを望んでいない」ということで、「関係者全員に守秘義務を課すので安心して名乗り出てほしい」というのだ。
栄治の財産は推定で10億円。それだけでもデカいが、これ以外に森川製薬の発行株式総数の1.5%、1080億円分の株を持っていることが判明。
麗子は篠田と共謀し、篠田を殺人犯に仕立て上げて遺産を山分けする計画を企てる。
とはいえ、栄治の死亡診断書は「病死」ということになっているのだが。
登場人物みんな怪しいが……
遺産を相続する犯人を決めるのは、遺言状で指定された選考委員。
ひとりは栄治の父親で、森川製薬の社長・森川金治(佐戸井けん太)。もうひとりは栄治の叔母で、森川製薬の専務・森川真梨子(萬田久子)。
ふたりは社内の覇権争いで犬猿の仲だという。
専務派は、真梨子の息子・拓未(要潤)が開発した新薬を発売することで優位に立ちたい。社長派は、この新薬の発売を阻止したい。そして、栄治も新薬の発売には反対していたという。
栄治の遺産である株の行方が、社内でのパワーバランスにも影響してくるということだ。
真梨子と拓未には、新薬発売に反対していた栄治を殺す動機がじゅうぶんにある。
一方、父・金治も、遺言状さえなければ栄治の遺産をすべて相続していたはずだった。動機がないわけでもなさそうだ。
“元カノ”ということで登場した森川雪乃(笛木優子)と原口朝陽(森カンナ)もそこそこ怪しい。
雪乃は、かつて栄治と付き合っていたが、栄治が療養生活に入ったことで、拓未(栄治にとってのいとこ)に乗り換えて結婚している(金目当てだったのか?)。
朝陽は看護師で、療養生活に入っていた栄治の身の回りの世話をしていたが、借金を抱えており、たびたび栄治に金をせびっていたという。
さらに、拓未の妹で栄治のいとこの森川紗英(関水渚)は、幼少期から栄治に好意を寄せていたため、遺産目当てに現れた栄治の元カノたちに敵意を剥き出しにしている。
みんな怪しいといえば怪しい。
被害者にそっくりの兄が登場
そしてもうひとり、ものすごく意味ありげな存在が、栄治の兄・富治(生田斗真・一人二役)。元カノである麗子が本人と見間違えるほど栄治にそっくりなのだ。
富治に関しては「救世主ベビー」「ポトラッチ」というふたつのキーワードが登場した。
「救世主ベビー」は、臓器などの移植が必要な子のために、ドナーになるべくして作られた子供のこと。
富治は生まれつき重い血液の病気を患っており、栄治は富治に(おそらく骨髄を)移植するために作られた救世主ベビーだったのだ。
そして「ポトラッチ」とは、北アメリカの先住民族に伝わる風習。
部族間で贈り物をする場合、贈られたほうはもらったもの以上のものを返さなければいけない。それがエスカレートして、お返しができなくなればルール違反となり、富を持って相手を支配するという風習だ。
富治は「犯人に財産を相続させる」という常識外れの遺言状はポトラッチであり、返し切れない贈り物を贈ることで相手を苦しめることを目的にしているのではないかと語っていた。
富治自身、栄治から移植を受けたという“贈り物”が重荷になっており、“お返し”として森川製薬の株を相続放棄してもなお、苦しみつづけているようなのだ。
登場人物みんな、ほんのり犯行動機がありそうではあるが、問題はそもそもなんでこんな遺言状を書いたのかということ。
ポトラッチの理屈でいうと、莫大な遺産を相続させることで心理的にプレッシャーを与えようということになるが、関係者たちはみんな、遺産をゲットして喜びそうな人ばかり。復讐するつもりだったら、普通に警察へ委ねたほうがよさそうだ。
そこで、やはり怪しく思ってしまうのが、栄治とそっくりな富治だ。
この手のミステリーにそっくりさんが登場する場合、なんらかの方法で入れ替わっているというのが定番。
自分が「救世主ベビー」だと気づいた栄治が、富治に恨みを抱いていたとして、警察に捕まらないかたちで殺人を行うには、富治と入れ替わって「栄治が死んだ」と見せかけるのがベスト。
さらに、もともと栄治のものだった財産を、富治と入れ替わった自分がゲットするために、この遺言状が必要だったとも考えられる。
暗号の謎は!?
もうひとつ気になるのが、暗号の謎だ。
ミステリー研究会に所属していたほど、ミステリー好きだった栄治は、いくつかの暗号を残していた。
といっても、あいうえお表の横軸を数字、縦軸をアルファベットで表現しただけの、解読されることを前提にしているような、ものすごく単純な暗号だ。
例えば、サ行(3)の2段目(B)は「し」となる。
第1話のラスト、栄治の残した写真の中に暗号が隠されていたが、その内容は下記のようなものだった。
B3(し)E5(の)A13(だ)E10(を)A4(た)E5(の)C10(ん)A13(だ)
「篠田を頼んだ」
麗子はこの暗号を解いたことで、一度は手を引こうとした事件に取り組むことを決めている。
しかし、ワ行(10)はA10(わ)B10(を)C10(ん)となりそうなものだが、上記の暗号ではE10を「を」と解読している。
ワ行は3文字なので、1文字おきにアルファベットを割り当てたとしても、A10(わ)C10(を)E10(ん)なのだが……。
このズレが、何か深い意味を持ってくるのだろうか。
そして冒頭で、死に際の栄治がアガサ・クリスティー『ねじれた家』の文庫本に書き記していた暗号は下記のとおり。
B1(い)A3(さ)C10(ん)A6(は)
「遺産は」?
これはダイイングメッセージなのかなんなのか……。
とにかくまだ始まったばかりで、本題にすら入っていなさそうな本作。さまざまな謎が仕込まれていて、考察が捗りそうだ。
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