“自己承認”と“謝罪”。ふたつのセリフから紐解く『オッドタクシー』の美意識
2021年春にテレビシリーズが放送され、“衝撃の最終回”が大反響を呼んだアニメ『オッドタクシー』。このシリーズを総ざらいして、最終回の“その後”も描いた『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が4月1日に封切られた。
ライターの相田冬二は、「『オッドタクシー』は、大人のための人生観であり、21世紀をしぶとく生きるための現代批評でもある」と評する。
「どちらまで?」
「ジェネレーションギャップアピール、いらねえんだよ」
さらに、このふたつのセリフに『オッドタクシー』の美意識が表されているというが──。
多層的かつ多面的な魅力
『映画 オッドタクシー イン・ザ・ウッズ』が公開される、アニメーション『オッドタクシー』。映画は、テレビシリーズ全13話を再編集し、新しい映像を加えたもので、ダイジェストではなく、公式リミックス・バージョンの趣がある。最終回、衝撃のラストのつづきが描かれるが、「あのあと、どうなったの?」という純粋な興味よりは、フィナーレが補完されることで、観客がこのアニメ作品全体を俯瞰できるようになる。つまり、かなり批評的で、冷静な振る舞いとして捉えるべきスクリーンへの登場だ。
たとえば、20世紀に起きたエヴァ現象(テレビシリーズの締め括りを劇場版で行おうとしたが失敗。結局、完結までには四半世紀もの歳月を要した)とはまったく違う。が、かつてのエヴァ、すなわち『新世紀エヴァンゲリオン』の傍らに置いても、その作品的強度、芸術的価値において、なんら遜色がないことは念を押しておかねばならない。
その多層的かつ多面的な魅力は枚挙にいとまがない。
動物ばかりのキャラクターたちの、必然性と自由性。
プロ声優を基盤としながらも、メインキャラクターに漫才師ら芸人を配置することで、語りとしゃべりのモンタージュを活性化(実写の演じ手はほぼ見当たらないことは示唆的)。
タクシーの車内を大きな舞台のひとつとし、ホストとゲストの対話を基軸とした密室劇から、外の世界(芸能界やSNS、そしてアンダーグラウンドな闇ワールド界隈など)へと裾野を拡げていく思考的快感。
後半、やおら登場するラスボス風キャラクター(が、ラスボスではない)がほぼすべてのセリフの韻を踏み、ラップとして会話する(しかもボイスアクトは本物のラッパー)。
ヒップホップレーベル所属の3アーティストの共闘により、フレキシブルで、ダークで、ファンタジックな音楽世界を醸成。
謎解きに思える犯罪ストーリーで牽引し、事件の一部始終をきちんと語り切りつつ、脱ミステリー、脱ジャンル、さらには脱アニメーションへとベクトルが向かう。
難解さは微塵もなく、筆致は健やか、キャラは愛すべき、どこまでも明快な世界観なのに、安易なカタルシスに充足することなく、箱庭的に閉じるのではなく、視点を開いていく。
『イン・ザ・ウッズ』は、いわゆる入門編的に無駄な説明を施している映画ではない。つまり、極端に敷居を下げて、作品の格を台なしにするようなことはしていない。佳き抑制がある。が、本作を入口に『オッドタクシー』を体験することになったら、それはとても素敵なことだと思う。もちろん、すでに全13話に魅了されている方であれば、改めてテレビシリーズを初回から観直す契機になることを保証する。
“自己承認”への無様なまでの“願い”
さて。
『オッドタクシー』において、最も重要なのは現代性である。ここでは、そのことについて述べてみたい。
多彩かつ重層的。登場する面々は、主人公であるタクシー運転手、小戸川となんらかのかたちで関わりを持つ。間接的な場合もあるが、多くはタクシー運転手にとっての客、という関係性が中心となる。大学生からキャバクラのボーイ、漫才師からアイドルとマネージャーまで。多様に思えるが、それぞれに抱えているもの(あるいは、隠し持っているもの)は通底している。
劇中では主に「夢」として述べられるが、そのほとんどは【自己承認】への無様なまでの【願い】である。いつしか【自己承認】は【欲求】とセットで語られるようになったが、本作のストーリーテリングが優れている点は、【欲求】ではなく【願い】というタームを導入したことにある。時に【祈り】にも近づく【願い】が、【自己承認】という命題を抱き締めている。その方法にこそ、オリジナリティが存在する。
過酷といえば過酷、エグいといえばエグい要素の数々がレイヤーを交錯させつつ展開するが、キャラの動物化(動物の擬人化ではない)も相まって、けっして過激な主張には映らない。
作劇というものは、わかりやすさを目指すあまり、どうしてもデフォルメに向かいがちだ。しかし、『オッドタクシー』は過剰さとは無縁。ボイスアクトはメリハリが効いているし、複雑な設定を明瞭に伝える演出は冴えている。だが、大げさな振る舞いは皆無だ。ここが肝要な点であり、それが作品の美意識にもつながっている。
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