SKY-HIが考える「音楽業界の危機」と「芸能における不幸」。“アーティストの才能を殺さない”ためにできること
アーティストとして活躍し、プロデューサーとして「BE:FIRST」など若い才能を輝かせ、経営者として音楽業界を革新していくSKY-HIさん。プレイングマネージャーとして、まさに“八面六臂”で活動の幅を広げています。
SKY-HIさんがここまで精力的に活動するのは、“変わらない”日本の音楽業界に危機感を抱いているからだと言います。
若き才能を守り、育み、世界に羽ばたかせるため「BMSG」を立ち上げたSKY-HIさんに、音楽業界の現状や、アーティストにとってのSNS、そしてアーティストのためにファンができることを聞きました。
目次
「才能を殺さないために。」日本の音楽業界への“危機感”
──SKY-HIさんはアーティストだけでなく、株式会社BMSGのCEOとして経営に携わりながら、所属アーティストのプロデュースも行っています。なぜ、クリエイティブだけでなく、マネジメントまで担うようになったのでしょうか。
SKY-HI やっぱり自分の好きなように活動するためには、それができる場所をまず作らないといけないと感じたからです。
──コロナ禍での立ち上げになりましたが、大変でしたか?
SKY-HI コロナ禍だから大変ということは、意外と少なかったですね。BMSGの社員数は今20人弱なんですが、コロナ禍のような未曾有の事態になると、僕らのような小さな会社のほうが小回りが利いて、臨機応変に動けるんですよ。会社の規模が大きくなればなるほど、実際のリスク以上に考慮しなきゃいけないことが増えて、意思決定に時間がかかりますから。
──BMSGは「才能を殺さないために。」というスローガンを掲げています。SKY-HIさんはインタビューでも折に触れて、日本の音楽業界の“変わらなさ”への危機感を訴えていますね。
SKY-HI そうですね。日本の音楽業界はインターネットがこれだけ浸透していく過程でも、まったく変わろうとしなかった。iPhoneやSNSが生まれて、YouTubeで配信するのが当たり前になって、NetflixやSpotifyが台頭して、僕らの生活は10年前とは様変わりした。それでも変化を拒みつづけたんです。
海外の音楽業界はしっかり対応したし、K-POPもワールドワイドに打ち出すために試行錯誤した。その一方、日本ではCDに握手券や人気投票券をつける売り方が一番の発明になってしまったんです。
──握手券や投票券もひとつのアイデアとしては優れているけれど、それが覇権を握ったのが、日本の不幸というか……。
SKY-HI 残念でしたよね。宇多田ヒカルさんは、イギリスで過ごしながら「BADモード」を制作して、日本のレーベルからリリースし、世界中でリスナーを獲得している。日本にいると、特別なことだと誤解してしまうけど、宇多田さんのやり方は海外ではむしろスタンダードですよね。どこに暮らしていても、自分の思ったとおりの音楽を発信できる時代なのに、日本だけが変わっていないんです。
日本の音楽業界をたとえるなら、ガラケーを使いながらVHSで録画してタッチパネルを恐れているようなもの。こう言うと人は笑いますけど、本当にそういう状況なんです。
──古い仕組みによって、才能あるアーティストたちが思いどおりに活動できない現状がある。
SKY-HI 少なからずあります。その状況は絶対に変えるべきですよね。
あと、日本のエンタテインメント業界は、評価と対価が釣り合ってないという問題も抱えています。
──「評価と対価」ですか。
SKY-HI はい。今の日本って、世界中で評価を得たとしても、国内では評価されなくて、リターンが得られない状況があるんです。そうすると、アーティストが日本国内での活動を諦めてしまうんですよ。
ラッパーのKOHHが海外で評価され始めたころ、J-POPに知見がある海外の友人が「宇多田ヒカルとBABYMETAL、KOHHがパフォーマンスできる歌番組はなんで日本にないの?」と不思議がっていたのが象徴的で。音楽ジャンルはなんであれ、世界を舞台に活躍する人が、自分の母国の音楽番組には出られない状況って異常なんです。
少し話は逸れたところもありますが、とにかく現状を変えたくて、自分でBMSGを立ち上げました。
BMSGは「才能と音楽を大事にする場所がここにちゃんとあるよ」と打ち出しています。その結果出てくるアウトプットも、今のところ理念に沿っているから、ファンが信じて支えてくれる。いい循環を生んでいる手応えはありますね。
アンチの言葉にもファンの言葉にも、時には傷つくことがある
──ファンのお話が出てきましたが、SKY-HIさんはアーティストやプロデューサー、経営者としてもファンと接してきました。また、ここ10年でSNSが生まれ、「推し」や「ファンダム」という文化も根づきました。SKY-HIさんは現状のアーティストとファンにとってのSNSをポジティブに捉えていますか?
SKY-HI もちろんポジティブな面は大きいです。BMSGのような小規模の会社が、立ち上げ2年でここまで来るためには、SNSが不可欠でした。
SNSはファンの盛り上がりを可視化するので、僕らのような会社でも、ブームやムーブメントを広げやすくなったんです。SNSでの話題性は、ダイレクトに影響力となる。もちろんファンの応援の熱量や、応援の仕方という点でも、ポジティブな影響はありますよね。
でも、ご存じのようにネガティブな側面も少なくない。いろんな人の視線や感想の言葉に、年がら年中接しつづけるのは、不健康です。アンチのコメントはもちろんですが、ファンからのコメントだって、他者の言葉という意味では時には負担になるんですよね。
──アンチとファンで向けてくる言葉の性質は違うけれど、他者の言葉という意味では同じかもしれない。
SKY-HI そうですね。言い方が難しいのですが、アーティスト自身が意図的に打ち出している魅力とは異なる点を好かれるだけでも、複雑な感情になりますから。もちろんそういう好きの気持ちはうれしいですし、参考にもなるんですけどね。
勝手に好きな部分を作られ、勝手に心配され、勝手に嫌われる側面のある職業ではあるのですが、それが可視化されるのは功罪の罪が強いです。アンチコメントばかり強調されるけれど、実はファンとの接し方も重要ですよね。
BMSGのアーティストは比較的若いので、メンタル的にもまだ多少不安定なところがある。健全な活動をするためには、マネジメント側が一定のラインで線引きをしてあげて、SNSとある程度距離を取らせてあげる必要があるなとは思っていますね。
アーティストとファンを守るオンラインコミュニティ「B-Town」
──BMSGの立ち上げと同時に開設された公式オンラインコミュニティ「B-Town」も、その線引きの一環なのでしょうか。
SKY-HI その側面は多分にあります。さっき話したSNSの負の部分って、ファンと、通りすがりの人、そしてアンチが同居してることなんです。だから「B-Town」のように、好意を持ってくれてる人だけが参加するファンコミュニティという場所を作る。
心ない言葉をシャットダウンし、アーティストが安心して情報発信できるのが、オンラインコミュニティなんですよね。そういうクローズドな場所って、どんなアーティストやアイドルでも必要なんです。
アーティスト側も自分に好意を持ってくれる人が多いと知っていれば、本音をオブラートに包まず出せる。ファンとしてもそういう生々しい情報はうれしいはずなので、Win-Winだなぁと。
ただひとつ「B-Town」に課題があるとすれば、情報発信の量かもしれない。まだまだ発信していかなくちゃと思っています。今後コンテンツの量と種類を増やしていくために、いろいろと整えているところです。
──「B-Town」を見て「すごい情報量だ……」と驚いたのですが、まだ足りないんですか?
SKY-HI はい。我々が止まらずに活動している以上、発信する情報って毎日無数に生まれているので、まだ出しつくせてないです。「B-Town」はほぼ自分だけで運営している状況ですからね。SNSに親しんでいるファンは、毎日情報が流れてくるタイムラインに慣れている。だから情報の流れを止めないことは重要なんです。
──ちなみにプラットフォームはインスタグラムを利用されていますね。その意図を教えていただけますか?
SKY-HI 「B-Town」は「ファンクラブとオンラインサロンの間」というイメージで運営していて、そのスタンスにはインスタグラムが合っていたからです。選択肢にはフェイスブックもありましたが、フェイスブックは相互コミュニケーションありきでのコミュニティの発展に適性があると思うし、ファンの方々でも日常的に使われている方は多くないんですよ。
でも、僕らの目的はエンタテインメントの情報発信。発信者であるアーティストと、受信者のファンという明確な区分けがあるから、インスタグラムのほうが向いてるなと判断しました。
“芸能における不幸”は、ファンの認識と実態のギャップから生まれる
──「B-Town」では、所属アーティストの情報発信だけでなく、SKY-HIさん自身が近況を報告するインスタライブや、リアルイベントの「ブリーフィング」(報告会)もあります。活動の振り返りや展望だけでなく、経営状況などもお話しされます。なぜここまで積極的に音楽ビジネスのリアルを伝えるのですか?
SKY-HI アーティストを応援しているのなら、ビジネススキームとしての芸能業界は知ってもらったほうがいいなと思って、可能な限り報告しています。“芸能における不幸”は、実際の芸能界の実態と、ファンの認識のギャップから生まれてると思うんですよ。
たとえば、ファンの中には、CDの売り上げがタレント自身にかなりの割合で還元されると誤解している人が少なくない。CDを売る行為は、多くの中間業者が絡んでくるので、最終的にアーティスト自身に入ってくる金額は5%あればいいほうです。新人だったら1〜2%が当たり前なんです。
もう少し具体的に言うと、「B-Town」の会費でいただく売り上げをCDで達成するためには、3カ月に1回ミリオンヒットを出さないといけない。それってほぼ不可能ですよね。でも、今は「B-Town」に支えられているので、お金がないから諦めることがまったくないんです。
利益率は芸能事務所としては異例の40〜50%を記録し、まだ2年目の事務所ながら、今後はBE:FIRSTに大手事務所と同レベルかそれ以上の予算がかけられる。スタッフにも期末には大きな額のボーナスを出せますし、採用にもお金をかけられます。創業間もない会社なのに、こんなに資金面で安心できるのは、本当にありがたい。そういった仕組みはきちんと説明したほうが、ファンも安心できるはずです。
──そういった事情を具体的に教えてもらえると、ファンもどこにお金を使えばいいのか判断できますね。
SKY-HI そうですね。ただ誤解されたくないのは、僕もコレクター気質なので、好きなアーティストのCDが形態違いで出てたら全部そろえたいタイプです(笑)。だから収集欲をそそる、満たせるクリエイションにはこだわりたいです。音楽と同様にビジュアルを作り込むことからも逃げたくないですね。ひとつの形態だけでも当然ですが、たとえ複数の形態が発売されてその全部を集めたとしても、満足感を損なわない事務所でありたいです。
でも、まったく同じ種類のCDを、アーティストを応援するためと言いながら100枚、200枚と大量に買うのは違うんじゃないかと。そのお金はアーティスト本人やその活動にはあまり還元されません。
こういう込み入った話って、SNSはもちろんインタビューでの発言でも、切り取られて過激に受け止められがちですよね。でも、「B-Town」のようなコミュニティであれば、丁寧に話せるし、ファンも聞いてくれる。彼らの疑問には、僕らも真摯に答えられる。
そうやって、ファン一人ひとりが音楽リテラシーを上げていくことが、ひいては、音楽業界を革命していくことにもつながると思っています。
「CAMPFIREコミュニティ」とは
CAMPFIREコミュニティは、月額制のオンラインコミュニティを誰でも作れるプラットフォーム。日本最大のクラウドファンディング「CAMPFIRE」で集まった仲間とつながりつづけたいという思いから生まれた。これまでに4500件ものコミュニティが作られ、ファンクラブをはじめレッスン、サロンや定期便など、さまざまなスタイルで運営されている。
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【連載】クリエイターズChoice -変化と挑戦-<CAMPFIRE×QJWeb>
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