『菅田将暉のオールナイトニッポン』の衝撃──番組の終了に寄せて

2022.3.14
菅田将暉ANN

文=かんそう 編集=鈴木 梢


『菅田将暉のオールナイトニッポン』(ニッポン放送)が2022年3月末に終了を迎える。2017年からスタートしたこの番組だが、私が聴き始めたのは約3年前。それまでお笑い芸人やミュージシャンのラジオを中心に聴いていた私にとって、俳優のオールナイトニッポンはとても新鮮だった。

それまで私は「菅田将暉」という俳優を掴めないでいた。仮面ライダー、学生、フリーター、芸人、殺人犯、チンピラ、ボクサー、総理大臣、偉人からキャラクターの実写化まで、作品を観るたびにまったく違う人間に変身する菅田将暉とはいったい何者なんだろうとずっと思っていた。そしてこのラジオを聴き、いろんな意味で衝撃を受けた。

菅田将暉のあり得ない親近感

『菅田将暉のオールナイトニッポン』を聴いていると本当におこがましいのだが、まるで菅田将暉と「同じ学校のクラスメイト」になったかのような錯覚に陥ってしまう。同人誌即売会『コミックマーケット』の話題になれば「同人誌ってナミとロビンと◯◯(自主規制)するみたいなこと?」、天神祭で行われている「ギャルみこし」の話題になれば「ギャルが初めて会った人と屋外でハアハア言いながら上下運動するってこと?」と、嬉々とした声色で奇言を放つアカデミー俳優がそこにはいた。しかし、そこに1ミリも「失望」はなかった。むしろ一瞬で菅田将暉という人間の虜になった。

このあり得ない親近感の大きな一因となっているのが「菅田将暉が使う関西弁」だと私は思っている。菅田将暉が普段演じている役は標準語でしゃべる役が多いため、イメージがないかもしれないが、実は生まれも育ちも大阪でコテコテの大阪人だ。ラジオでふいに飛び出す「なんやねんそれ」「何言うてんねん」という関西弁を聞くたびに、えも言われぬ感覚に襲われる。

以前「方言女子」「方言男子」という言葉が流行ったときは「なに寝言ぬかしてんだ? 方言ごときで人の好き嫌いが決まるわけねぇだろ、人は心だろうが」と憤慨していたのだが、今ではその気持ちが痛いほどわかってしまう。あんなに遠くに感じたはずの人間がふいに見せる「素」の部分、それが方言であり、そのトップオブ方言が関西弁。そしてそれを操る方言神が菅田将暉なのかもしれない。富、名声、力、この世のすべてを手に入れている「俳優王、菅・D・将暉」がラジオでは「大阪のマサキ」になる。このギャップを体験して菅田将暉の虜にならない人間はおそらく存在しない。

菅田将暉×King Gnu井口理のカオスラジオ

そんな『菅田将暉のオールナイトニッポン』のここ数週間の放送は、松坂桃李、山﨑賢人、永山瑛太、仲野太賀など菅田将暉にゆかりのあるゲストがほぼ連続で登場しており、毎週がスペシャルウィークのような内容になっていた。そして2022年2月28日放送で登場したのが、King Gnu井口理だ。ドラマ『ミステリと言う勿れ』(フジテレビ)の主演と主題歌を担当するアーティスト、同じオールナイトニッポンのパーソナリティ経験者と共通点の多いふたり。間違いなく「カオスラジオ」の幕開けを予感させた。

登場早々「触らなくても気持ちいい」「空気が触れただけでフィニッシュできる」とカミングアウトする井口理。『King Gnu井口理のオールナイトニッポン0(ZERO)』を担当していたときから思っていたのだが、King Gnuですべてを浄化するような美しい声で歌う男と、この男は本当に同じ人間なのかと脳がバグを起こす。他を寄せつけない圧倒的なセンスを持つロックバンドのボーカルが、ラジオでは、aikoとポルノグラフィティとギャルが好きな長野から来た青年へと変貌する。菅田将暉と同じく、井口理もまた作品とラジオとのギャップによって「近さ」を感じるひとりだった。

井口理を交えて行われた「第二回常田選手権」は本当に最高だった。「魚しか食べない」「情熱大陸はフルCG」King Gnuの絶対的存在で楽曲すべての作詞作曲を担当し、生きとし生けるすべての生物が憧れる鬼才・常田大希。その「常田大希」を自負するリスナーからエピソードを披露してもらい一番の常田大希を決める、それが「常田選手権」だ。

序盤こそ「しょっぱいクレープめちゃめちゃ食べる」「紙飛行機の先っちょに輪ゴムをつけることを思いついた」「回転寿司で食べた20皿すべてネギトロ軍艦」など選りすぐりの常田エピソードが送られてきたのだが、後半は「井口理選手権」「菅田将暉選手権」が開催され、最終的には「スコップを地面につけながら原付乗ってる(菅田)」「学ランちゃんと着てるけどケンカ強い(井口)」「パンチングマシーンでエラー出す(菅田)」「ダンレボ目隠しでいける(井口)」と紅白アーティストとアカデミー俳優による「どっちがカッケーか」マウントの取り合いが繰り広げられていた。

ラストは尾崎紀世彦の「また逢う日まで」をふたりで熱唱して大団円。「あと5時間くらいやろうよ」という井口理の言葉が忘れられない。両リスナーとしては「一生やっててほしい」と思った。しかし、こんな楽しい放送もあと数回。最高の3年間をくれたクラスメイトの勇姿を最後まで耳に焼きつけたい。

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