オーイシマサヨシが「けっこう分離している」と語る、大石昌良の人格と現在の活動
ポップでキャッチーな楽曲とキャラクターで、一躍人気となったアニソンシンガー・オーイシマサヨシ。30過ぎまでバイトをしていたエピソードは有名だが、「オーイシ」になるまで浮き沈みのある音楽人生を送っていた。
子どものころからヒーローに憧れ、他人から認められることに人一倍敏感だった少年期を過ごし、音楽だけでは食べていけない時期を経験したからこそ、彼の作る音楽は、聴く人を楽しませるワクワクの詰まった曲になっているのかもしれない。オーイシと親交の深いアニソン評論家の冨田明宏が、今に至るまでの話を聞いた。
※本記事は8月21日(土)発売『オーイシマサヨシ コーシキブック』(太田出版)の内容を一部抜粋したものです。
やれるうちにやれることを全部やり切ろう
——アルバム『エンターテイナー』を聴いていて興味深く感じられたのは、オーイシマサヨシという存在と“エンターテイナー”、そして“ヒーロー”との対比だったんです。エンターテイナーは日常の退屈から救い出してくれる現実的な救世主で、ヒーローはフィクションにおける救世主。その両方をつなぎ体現している存在がオーイシマサヨシなのかもしれないなと。
オーイシ すごくうれしいです。
——でもその一方で、1曲目の「エンターテイナー」を聴きながらSound Scheduleの曲を思い出してみたんですよ。あのころとは全然違うメンタリティがそこにあって。
オーイシ うん。確かにそうですよね。
——だから今日はいろいろな角度から“オーイシマサヨシ”を見ていきたいのですが、まず初の公式ブックが出版されますが今の心境はいかがですか?
オーイシ ……正直、僕ってそんなに自分に自信があるタイプの人間ではないので、「俺でいいのかな?」って思ってしまって。でもお声がけいただいたときはものすごくうれしかったし、光栄でしたし。ふたつ返事で「もちろんです!」と受けさせていただいたんですけど……冨田さんにもいろいろと解剖していただくということで、逆に僕自身が自分のヒストリーを振り返るいい機会になるのかもしれないなと。僕もこれを機にこれまでのストーリーと、セカンド・ストーリーを集大成して、また次のストーリーに向き合えるような、そんなきっかけになったらいいなと思ってます。
——やはりご自身の中で、現在のカタカナの“オーイシマサヨシ”の活動以降はセカンド・ストーリーであるという実感がある?
オーイシ ありますね。激動でしたし、ここまで人生の色彩が変わるなんて……すべてカタカナ名義を立ち上げてからですから。やることがとにかく増えた(笑)。それこそ音楽だけじゃないですからね。10代のころにメジャーデビューをした後のロック・ストーリーとはまた違う物語、まったく想像もしてなかった物語が待っていました。不思議な感じはしますね。本当に全然、まだふわふわしてますから。
——まだふわふわしてますか?(笑)
オーイシ してますしてます! でもこのオーイシマサヨシって、いつでも畳めるつもりでやってるんですよ。いまだにそう。「今目の前にあるお仕事を一生懸命やろう、いつ終わるかもわかんないし」って思いながらやっていて。「推しは推せるときに推せ」じゃないですけど、「やれるうちにやれることを全部やり切ろう」という感じなんです。だからいろんなものに体当たりで挑戦できたし、ずっと攻めの姿勢でいられた。それは背中にちゃんと崖を背負ってるからこそで。
“オーイシマサヨシ”は飛び道具的な役割
——エンタメ業界って、ファンやクライアントから求められないと存在を許してもらえない世界じゃないですか。
オーイシ まあそうですね。
——そういう意味で言うと、オーイシマサヨシってずっと求められつづけていますよね?
オーイシ あー……。
——求められたことはすべて出し惜しみせずにやると。その背景にはSound Scheduleやシンガーソングライター・大石昌良の活動が本来の軸としてあるからですが、だからこそオーイシマサヨシは飛び道具的でもあって。
オーイシ 飛び道具ね(笑)。まさに、ずーっと飛んじゃってますよ。飛び道具って本来一回きりで終わりのはずなのに、ずーっと飛んでるなーって。まるで人ごとのように思ってます。だから本当のことを言うと、けっこう分離しちゃってますね。自分の人格と、カタカナのメガネをかけたときのオーイシマサヨシは。「コイツやってんなー!」って傍から見ている感じというか。
——ちょっと高いところから見てるぐらいの。
オーイシ そう。TVつけてて「キンカン」のCM流れていても「このメガネの人やってんなー」って(笑)。他人のように思ってますね。それぐらい分離してる感じはあるかもしれない。
——もしかしたらそれ、Sound Schedule時代からのファンも同じことを思っているかもしれませんね。
オーイシ そうですね。今でも「オーイシマサヨシってサウスケなのか!」ってつぶやき、Twitterとか見ていて多いので。別人というこの感覚は僕だけじゃなくて、ファンの方や昔から知っている方も同じみたいです。それがありがたいんですよね。だってそもそもオーイシマサヨシ名義を立ち上げたきっかけが、その感覚だったので。「今までのファンの方々に申し訳が立たないな」と。
——申し訳が立たない?
オーイシ はい。バンドでデビューしてシンガーソングライターも漢字名義でずっとやってきて、ギターを握らずにステージに上がること自体、セオリー違反だったんですよ。でもアニソンを歌うことになると、マイク一本で歌うことが多くなってくるじゃないですか。あとカラオケ音源で歌を歌うとかね。インストアイベントとか特にそうですけど、カラオケで歌うこと自体もともと僕のミュージシャンシップには反してたんですよ。やっぱり生音で全部自分の音で体現したい、みたいなことをバンドを背負っていた時代は大切にしていたので。
でももう割り切って名義を変えて、カタカナの“オーイシマサヨシ”という人格を作ってみようと。さっきも言った通りすべて体当たりで、「いつやめてもいいようにいっぱい黒歴史作ってやろうぜ!」っていうのが最初のコンセプトだったんです。だから「君じゃなきゃダメみたい」のMVで僕は踊ってるんですけど、あれが黒歴史の1ページ目ですよ(笑)。
——でも1ページ目で踊ったから、そのあとも踊れているわけですよね。
オーイシ そうそう、確かにそうなんです。発端はとにかくみんなと一緒に面白いものを作るための名義だったのですが、結果的に今の時代にフィットしたのかもしれないなって思います。
——僕はもちろんSound Scheduleを知っていたし、TVでも観ていたし曲も聴いていたので、アニソン業界で出会ったオーイシマサヨシとイメージの乖離がやっぱりありました。大石昌良は、僕のイメージからするとナイーブで内省的で。「ピーターパン・シンドローム」のような楽曲に象徴されていますけど、大人になることに対する折り合いがつけられず、「アンサー」のように行き着く先が結局忘れられない昔の恋人だったり。
オーイシ そうですね。なにも解決してない。
——でも自問自答のまま、答えが出せないままの歌が本来のアーティスト性であるとすれば、オーイシマサヨシって180度違うんですよ。
オーイシ 言われてみればそうですよね。
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