コロナ終息祈願!下半身むき出しの「スカ屁」は、アマビエ以上のご利益(ピストン藤井)

2020.5.3

文=ピストン藤井 編集=田島太陽


新型コロナウイルスで世界中が苦境に陥るなか、アマビエという妖怪がブームになっているのを知っているだろうか。SNSではコスプレが流行し、ヴィレッジヴァンガードはアマビエが描かれたTシャツを販売。『もやしもん』で知られる漫画家・石川雅之が描いたアマビエをパッケージにしたビールも発売がスタートした。

しかし、富山県にはアマビエ以上のご利益がある妖怪がいるという。富山在住のライター・ピストン藤井が、地元に密かに伝わる予言獣「スカ屁」を紹介する。

研ナオコ、衝撃の#アマビエチャレンジ

疫病退散にご利益があるというアマビエが日本を席巻しています。江戸時代後期の肥後国(現在の熊本県)の海中から現れ、豊作と疫病を予言したとされる半人半魚の霊獣です。

「疫病が流行ったら我の写し絵を人々に見せよ」と告げたと、当時の瓦版に記されているそうです。キューティクルが行き届いた長い髪の毛、つぶらな瞳、鳥のクチバシのように突き出た口、鱗で覆われた胴体……。水木しげるによるアマビエ画(『日本妖怪大全』収録)が水木プロダクションの公式ツイッターから発信されたことで、その存在が一気に広まりました。

ネット上では「アマビエチャレンジ」なるハッシュタグが生まれ、コロナ禍の終息を願った現代風アマビエのイラストが、プロアマ問わず次々と投稿されています。中でも研ナオコのアマビエコスプレはすさまじかった。アマビエ以上にモノノケでした。

生きるか死ぬかのシャレにならない状況下で、シャレかと思うような愚策の千本ノックに身も心も疲弊していたので、ナオコが体現する本気のシャレに胸がすくような思いでした。

この研ナオコ版アマビエと、「歌番組で『北国の春』を熱唱する千昌夫withインコ2羽」の映像(※)に私はどれだけ救われたことでしょう。得体の知れないものへの不安や恐怖を、一時でも払拭してくれるのがアマビエならば、ナオコも昌夫もまた、同じ役割を果たす霊獣なのかもしれません。

※テレビ東京で4月10日に放送された『にっぽん!春の歌祭り』で、千昌夫が両肩にペットのインコを乗せながら『北国の春』を歌った

「我の姿を広めよ」と言ったくせにバズらないクタベ

我が故郷の富山にも、アマビエと似た言い伝えのある霊獣クタベが存在します。江戸末期、富山の薬売りが薬草を採取しに霊峰立山に登ったところ、クタベが現れて疫病を予言。「私の姿を見れば難を逃れられる。見ることができない人々のために、私の絵を描いて知らせなさい」と告げたそう。顔は人、胴体は獣というクタベの姿がこちら。

https://www.facebook.com/tatehaku.toyama/posts/2670233419866034

無。む。ムムムの無。

アマビエのキラキラとしたマーメイド感に対し、クタベのズクズクとぬか床に漬け込んだような虚無感。「深淵をのぞくとき、深淵もまたこちらをのぞいているのだ」的なニーチェ感もなくはないですが、「で?」と人を腐すような表情にも見えてきて時間差で腹が立ってきます。

このクタベの模型は、立山の歴史や調査資料を展示する「富山県[立山博物館]」ロビーにあります。「我の姿を広めよ」と言ったくせにまったくバズらず、地元の人たちにも存在を知られていない非インフルエンサー、クタベを不憫に思った学芸員のみなさんが、昨年7月開催の特別企画展「立山ふしぎ大発見!?」内でフィーチャーしました。

水木先生はクタベも描いており、そちらは霊獣オーラがみなぎっています。

しかし同館では『奇態流行史』(大正11年刊)記載の覇気のないクタベを敢えてキャラに採用。平面体のクタベをむりやり三次元化した結果、ヌケ感あふれる仕上がりに。好きか嫌いかと問われれば大好きです。

パワーワード連発、アマビエ、クタベを超える「スカ屁」とは?

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ピストン藤井(藤井聡子)

(ふじい・さとこ)1979年、富山市生まれ。東京で雑誌編集者として勤務後、2008年に帰郷。ピストン藤井のペンネームで、富山ならではの個性の強い場所や人を探るライター活動を開始する。2013年にミニコミ『文藝逡巡 別冊 郷土愛バカ一代!』を自費制作。現在4号まで発刊している。2019年10月に本名名..

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