脚本家・花田十輝が語る「部活」という宇宙「高校の3年間は、社会人の数十年を圧縮して体験するようなもの」

2026.5.25

文=宮田文久


「卒業と同時に、ひとつの宇宙が崩壊する」。10年以上にわたり、『響け!ユーフォニアム』の脚本に携わった脚本家・花田十輝は、高校3年間の部活をそうたとえた。目標への距離感の違い、人間関係のなどあらゆ人間関係などあらゆる苦い経験が凝縮された宇宙から、久美子たちはその後に続く人生へ何を持ち出したのだろうか。

「部活」という宇宙を見つめ続ける花田にとって、久美子や麗奈の信念を結実させるとはどういうことなのか、花田が込めた想いに迫る。

『Quick Japan』vol.183/特集トビラより

2026年4月14日(火)に発売された『Quick Japan』vol.183では、今春最終章の始まりとなる映画『最終楽章 響け!ユーフォニアム』前編の公開を記念し『響け!ユーフォニアム』がバックカバー(描き下ろしイラスト)&特集に登場。「『部活』の終わり?」と題し、本作品を特集する。

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『Quick Japan』vol.183/描き下ろしイラストバックカバー

アニメでは意図して少年マンガ的に対立や主張をはっきりとさせた

TVシリーズ第1期から数えれば、10年以上の歩み。今春公開される『最終楽章 響け!ユーフォニアム』前編も含めて、北宇治高校吹奏楽部を描くアニメーションで一貫して脚本を手がけてきたのが(TVシリーズではシリーズ構成も担当)、花田十輝だ。

「見ていただいたみなさんにご好評いただいたおかげで、物語の最後までたどり着くことができて、本当によかったです。

主人公である黄前久美子たちが入学するところから始まるTVシリーズ第1期の脚本を準備していたときも、第2期で久美子たちのふたつ上の代である田中あすかたちの卒業を描いたときも、その先の展開が決まっていたわけではありませんでした。

それが次へ、さらに次へと企画がつながっていって、こうして卒業する久美子たちを見送ることができたのは、とてもうれしいことですね

TVシリーズ第3期『響け!ユーフォニアム3』をブラッシュアップし、新規のシーンも追加、花田も新たにシナリオを執筆したという『最終楽章 響け!ユーフォニアム』では、第1期では新入生だった主人公・黄前久美子たちが3年生となり、最後のコンクールに挑んでいく様子が思う存分に描かれる。

そこで重要な位置に立つキャラクターが、転校生にして黄前と同じユーフォニアムの奏者であり、実力者でありながら「全国大会金賞」という部の目標から距離を取ろうとする黒江真由だ。

最短距離を走ろうとする部活という営みを、どこか相対化するような存在にも見えるが──。

「そのあたりは原作者の武田綾乃さんが、小説の中で強く意識されていた流れだというように感じています。

吹奏楽部にとって、実力主義のもとに全国金賞を果たすことが大事なのか、それともみんなと演奏を楽しむことが大事なのかという、音楽に対するスタンスの違いですね。シリーズを通じて脚本を手がけるにあたっては、アニメという表現の中で対立軸がより明確に伝わるように、少しだけ調整はしています。

原作が女性同士のコミュニケーションも含めて繊細なタッチで描いているという点で、ある意味で少女マンガ的なところがあるのだとしたら、アニメでは意図してやや少年マンガ的に対立や主張をはっきりと際立たせて見せている部分もある、といえばいいでしょうか。

とはいえそうした構図の大元にある部活動をめぐるすれ違いや、関係性の難しさというテーマは、原作が一貫して焦点を当てているところだと思っています。

部として目標に邁進することの輝きも描けば、そのすべてを是とするわけではなく、部を辞めた人間の選択などにもきちんとフォーカスする。部員たちが胸に抱く疑問を引きずりながら、物語が進展していくところに、私も共感を抱きながら脚本を書いていきました」

久美子と麗奈はいつか、この選択に対して責任を取らないといけない

インタビューが進むなか、花田は、TVシリーズ第3期で描かれた、コンクールメンバーおよびソロパート奏者のオーディションをめぐる描写について語ってくれた。

そもそもオーディションは、久美子やトランペットの高坂麗奈が新入部員だった第1期において、同じく新しく部の顧問に着任した滝昇が導入したシステムである。

従来、なんとなく楽しくやれればいいという雰囲気が支配的だった北宇治高校吹奏楽部の空気を一変させる出来事だった。

オーディションを通じて、最後のコンクールとなる3年生のトランペット奏者・中世古香織ではなく麗奈がソロを担当することに決まるも部はまとまらず、滝の提案によって部員たちによる再オーディションが行われることになる。

その再オーディションの直前、久美子と麗奈が見つめ合って絆を確かめ合うシーンがある。

「あのシーンを書いているとき、『久美子と麗奈はいつか、この選択に対して責任を取らないといけないだろう』と思ったんです。

彼女たちは、実力主義によって部が生まれ変わっていくことを目指す選択を押し通そうとする。香織がソロを吹けずに卒業してしまうという道を選ぶ、つまり自分たちが押し通した選択で、自分たちが勝ってしまうんです。

でも、本当にその選択が正しいと言うなら、仮に自分たちが負けたとしても、そう言えなくちゃいけない。だからいつかふたりは香織と同じように取り返す機会がないところで負け、香織と同じ痛みを感じながら、それでもなお実力主義が正しい、と言うときが来るんだろうな──その瞬間、このときのふたりの信念は結実するんだろうと思っていたんです」

久美子にとって報われることとは何か、一緒に考えたい

「もちろん、当時はアニメのシリーズがその後続くかどうかもわからなかったので、あくまで自分の頭の中だけの話だったのですが、こういうかたちでシリーズが続いて、真由という久美子が負けてもおかしくないキャラクターの登場で、本当にその瞬間を描く機会が生まれた。

原作の展開と変わるので正直迷ったのですが、1年生編を見直して、やはりこのときのふたりの信念を結実させてあげたいと思いました。

なので今回公開される『最終楽章』のもとになるTVシリーズ第3期のシリーズ構成を準備する際、その原作に当たる「決意の最終楽章」を読み込み、その上で私が石原立也総監督や小川太一監督たちに相談したのは、オーディションによって部長である久美子ではなく、真由がユーフォニアムのソロパート奏者に決まるくだりを描き込むことでした。

これまでの歩みも含めて、どの選択が正解なのか、久美子にとって何が報われるということなのか、ご覧いただくみなさんにもぜひ一緒に考えてもらえたら、と思ったんですね」

『最終楽章』は、各部員の思惑がなかなかまとまらないなか、右往左往する久美子の姿が描かれる。

「立場が変わらないとわからないことってありますよね。それが成長ということなのだろうとも思います」と花田は語る。

部員たちの声に耳を傾けようと必死になるが、しかし久美子自身の思いはいったいどこにあるのか──。青春譚でありながら、社会人にとってもどこか、身につまされるところのある作品だともいえる。

「部活」という宇宙は時代が移り変わっても変化しない

高校時代の3年間の部活動というのは、社会人にとっての数年間、いやひょっとすると数十年間という時間を、ギュッと圧縮して体験しているようなものだと感じます。私たちの年齢になれば1歳差も2歳差も大した違いはないですが、高校生なら本当に大きな違いがそこにはあって、目まぐるしい変化の中で3年間を過ごしていく。

10代の子たちの学校生活を描くときに私が常に意識しているのは、『卒業と同時に、ひとつの宇宙が崩壊する』ということなんです。

毎日過ごしているこの当たり前の空間が卒業した瞬間、すべてなくなってしまう。一緒にいられないし、毎日来ている教室に来ることさえできない。それって学校や友達といる時間の長さを考えたら宇宙崩壊レベルのとんでもない環境変化です。

でもそれは誰にでも起きることで、その崩壊の日が来る不安や寂しさを生徒は全員どこかでぼんやり感じながら、毎日を過ごしている。

時代が移り変わってもそこは変わらない感覚のはずで、脚本家として青春ものを書くときはその遠くで続いているカウントダウンを忘れないようにしています

美は乱調にあり、などといわれるが、もし部活動に未来があるのだとしたら、千々に乱れる宇宙のありようを見つめることから始まるのだろう。異なる思いの矢印が交錯するその地点で、『最終楽章』は鳴り響く。

花田十輝
(はなだ・じゅっき)脚本家。『響け!ユーフォニアム』シリーズ全編で脚本を担当

『Quick Japan』vol.183は現在発売中。描き下ろしイラストデザインアクリルブロックも

『Quick Japan』vol.183/ローレン・イロアス

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宮田文久

(みやた・ふみひさ)フリー編集者。1985年、神奈川県生まれ。Ex.株式会社文藝春秋(「淑女の雑誌から」担当時は、机上がハードなレディコミであふれた)。博士(総合社会文化)。雑誌『DISCO』編集人、イベント『わたわたフェス』主催。インタビュアーとなる機会も多く、2016年の独立以降では、一柳慧、細..