「この世界ってもっと自由でいいんだな」出演者14人全員がラジオパーソナリティに!?『GNOSIA RADIO』プロデューサー・石井玄×声優・佐倉綾音 SP対談

2025.11.18

文=渡辺美咲 撮影=遥南 碧


2025年10月11日(土)より毎週24:00~放送中のアニメ『グノーシア』は「人狼」推理劇×SFループミステリーのゲームを映像化した作品だ。本作のラジオ番組『GNOSIA RADIO』のプロデューサーを手がけるのは、過去に『オールナイトニッポン』(ニッポン放送)のチーフディレクターを担当していた石井玄。数々の人気ラジオ番組でディレクターを務めていた彼の手腕や企画力も注目すべき点だろう。

そこで今回は、アニメ『グノーシア』でコメットを演じている佐倉綾音と石井玄にインタビューを実施。佐倉綾音が主演を務めたTVアニメ『天久鷹央の推理カルテ』で取り組んだラジオ番組や、『GNOSIA RADIO』収録時のエピソードについて話を聞いた。

「100日連続のラジオ番組」を振り返って思うこと

──石井さんと佐倉さんは『日刊 佐倉綾音~天才・天久鷹央になる100日間~』(以下、『天久ラジオ』)でもお仕事をご一緒されていました。今年の4月に最終回を迎えましたが、100日(以上)やってみていかがでしたか?

佐倉 もうずいぶん昔のことのようです。石井さんは終わってしまって寂しかったですか?(笑)

石井 僕にとってはマラソンのような企画だったので、「大変な日々だったな」という印象しかないんですけど、やはり佐倉さんが泣いていた最終回は心に残っています。

佐倉 あのときは走馬灯のように記憶がよみがえってきたのと、絶対泣かないだろうと思っていた自分へのフリが効いてしまった感じがあって。このメンバーならしんみり終わることはないと思っていたので、今となっては悔しかったですね(笑)。

──どの回が印象に残っていますか?

石井 「睡眠ASMR企画」(60日目・105日目)は心に残っています。あと僕が一番笑ったのは「カレーうどん いい音選手権!」(71日目)ですね。

佐倉 あの回は石井さん、今までにないくらい笑っていましたね。

石井 カレーうどんをどれだけいい音ですすれるかという企画だったんですけど、熱さと辛さで苦戦しているのが面白かったなって(笑)。佐倉さんは実験企画「風船をレモンの汁で割る」(91日目)を特に気に入ってましたね。

佐倉 この企画は、ドラマ『天久鷹央の推理カルテ』のフィッティング現場にラジオチームが押し寄せてきて、東映の会議室で録ったんですよね。普段は収録しないような場所に風船とレモンを持ち込んで、大人たちがわちゃわちゃしていたのが面白くて(笑)。あとは「目薬ジャストドロップチャレンジ」(103日目)もとても笑った記憶があります。

石井 ラジオをたくさんやってると、収録中に大笑いすることって少なくなってくるので、その点では珍しい番組でしたね。

──100日間ラジオを行う……という前代未聞の企画だったと思いますが、改めてファンからの反響はいかがでしたか?

佐倉 私のマネージャーがInstagramのDMを開放していて、私も見られるようになっているんですけど、「今○周目です」って周回数を報告してくるファンがいまだに何人かいて(笑)。

石井 僕が知っているのだと『くりぃむしちゅーのオールナイトニッポン』という伝説的な番組があって、とんでもなく周回を重ねている人たちがいるらしいんですよ。まさか『天久ラジオ』がそうなっているとは……。

そういえば『GNOSIA RADIO』が発表されたときにX(旧Twitter)を見たら、『天久ラジオ』のリスナーが「泣いた」「帰ってきた」ってポストしているのを見ました(笑)。

佐倉 (笑)。一部でカルト的な人気を博しているということで(笑)。

出演者14人が番組を持つ『GNOSIA RADIO』

──『GNOSIA RADIO』はアニメのストーリーにちなんで、ラジオの「第1回(#1)」を繰り返し聴いていただく構成になっています。このような企画を作るに至った経緯を教えてください。

石井 『グノーシア』はキャストがかなり豪華なのとキャラクターが個性的なので、誰かひとりがラジオをやるというよりは、みんなでやる方法はないか考えていました。ですが、みんなでやると一人ひとりの印象が薄くなってしまうので、「出演者14人が全員番組を持つのはどうですか?」と冗談交じりで話したら、すごく盛り上がったんですよね。

あとは、ストーリーやキャラクターのネタバレに配慮しながら作品の話をするのがなかなか難しいということもあり、このような方向性になりました。

──佐倉さんが、本番組の企画内容を初めて聞いたときの感想は?

佐倉 また石井さんが変なこと始めたなと(笑)。『天久ラジオ』の1日目でもアニラジ(アニメ関連のラジオのこと)に対して思うところを話していて、石井さんの思想や意見に面白さを感じていたのですが、『GNOSIA RADIO』でもその考えは活かされているんじゃないでしょうか。

石井 アニラジの形式が固定化されていることには前々から思うところがあったのと、キャリアの長い声優さんのラジオってとても面白いんですよね。今回出演されている関(智一)さんや津田(健次郎)さん、中村(悠一)さんなども、もっとラジオをやってほしいと思っていました。なので今回の企画でも、アニメを宣伝したり、内容をしゃべるだけではないラジオをやってみたいと思いました。

誰かがこういうことをやらないと、アニラジ全体が縮小していってしまいますし、成果が出たらアニラジの予算も増えるんじゃないかなって期待しているんですよ。

──石井さんは公式サイトのコメントでも「とても大変な取り組み」と話していたと思います。本番組をプロデュースするにあたり、苦労した点や難しかったことはありましたか?

石井 同時進行で15個番組を立ち上げつつ、進めていくのが一番大変でした。あとまだ終わっていないんですけど、編集もかなり大変なんですよ。従来のラジオ番組はフォーマットを一回作ったあとは簡単なんですけど、『GNOSIA RADIO』は毎回違うしBGMや素材も変わるので。今は全員分のオープニングテーマを探しています。

──オープニングテーマも全員違うんですか!?

石井 そうなんです。番組が別なので、それぞれに合うテーマも違うじゃないですか。実をいうと各番組のPodcastのサムネイルも「すべて変えてほしい」とお願いしています。

ですが、キャストのみなさんもラジオを楽しんでいる気がしますし、江口(拓也)さんにも「こんなアニラジは今までにない」と喜んでいただけたのでよかったなと思っています。

──放送を楽しみにしています。初回配信に先駆けた#00も現在配信されていますが、おふたりは実際に出演してみていかがでしたか?

石井 僕はほぼ知らない人たち(声優)の中に入って司会進行を務めていたこともあり、とにかく緊張しましたね。佐倉さんには事前に「あなたしか知っている人いないんだから頼みますよ」って言ったんですけど、あんまり助けてくれませんでした(笑)。

佐倉 完全に物理的なポジショニングを間違えてしまって(笑)。距離が遠くて全然助け船を出せずにいましたね。#00の収録時はアフレコブースの中央に石井さんがいて、まわりをキャスト陣が囲んでいる、という状態でした。石井さんが声優たちに囲まれて小さくなっているのが面白かったですね。

石井 そうですね、久々に緊張しました(笑)。あと#00は大人数でのラジオということで、今思うと貴重な音源になったんじゃないですかね。距離的には遠かった中村さんのツッコミを入れている声なども聞き取れたので、改めて「声優さんってすごいな」と思いました。

──佐倉さんは#00で、演じるキャラ(コメット)にちなんで「全部正直ベースで話すラジオ」にしたいと答えていました。実際に収録してみていかがでしたか?

佐倉 企画のとおり、“正直なラジオ”でした。『GNOSIA RADIO』では各パーソナリティ(司会進行役)によるひとりしゃべりが基本なのですが、キャストのみなさんがお便りなどいろいろな方法でちょっかいをかけているのが面白いなと思いました。

石井 番組のスケジュール的な事情で、アニメが放送されてからの収録が難しかったんですよ。なので、出演者のみなさんやスタッフさんがメールを出すという、ラジオサークルのような構成になっています(笑)。

佐倉 あとはゲストとして番組へおじゃましに行ったりもしましたね。

石井 そうですね。佐倉さんはゲスト出演も加えると、番組に多く貢献してもらってるんじゃないかな。

──企画する上で一番悩んだのはどの回でしたか?

石井 やはりククルシカ(No Voice)ですね。ほかは声優さんがラジオを行うので、基本的には予算やスケジュールに沿って、番組を作ればいいだけなので。ククルシカについては、どうすることもできないところからのスタートでしたし、今のところは「お楽しみに」としか言えないですね(笑)。

実現は大変でも、魅力を最大化できる提案を

──石井さんはラジオ番組をプロデュースするにあたり、面白い企画を数多く打ち出しているかと思います。どのようにして企画を練っているのでしょうか?

石井 僕の場合は新しく企画を考えるというより、「やるのは大変だけど、こうしたらラジオ番組の魅力を最大化できますよ」といった提案をしています。『天久ラジオ』の場合は佐倉さんをメインパーソナリティにして、アニラジを本気で作るにはどうしたらいいだろうといった話をしていくなかで、「本気でやるんだったら、アニメが放送されている期間、毎日配信したほうがいいよね」という考えになりました。

『GNOSIA RADIO』では14人のキャストと15人のキャラクターの魅力を最大化するにはどうしたらいいか?という話になって、「全員が番組を持てばいいんじゃないか」という発想に至りました。『天久ラジオ』とは違い、今回佐倉さんは14人のキャストの内の1人ですが、こういうむちゃくちゃなことをやってくれる声優さんも世の中にはいらっしゃるんです(笑)。

──『天久ラジオ』『GNOSIA RADIO』と関わりの深いおふたりですが、改めてお互いの第一印象を教えてください。

石井 出会いはすごく昔なんですけど、ほぼしゃべってなかったり、僕がメインでやってなかったりしたので、そういう意味では『天久ラジオ』が最初でした。『天久ラジオ』の企画が通って打ち合わせをしたら、佐倉さんが「こういうことをやりたい」と企画を何個も提案してきたので「変な人だな」と思いましたね(笑)。

佐倉 私は石井さんに対して「アニメや声優に興味なさそうだし、一定の距離を取りながら仕事されるのかな」と、あまりポジティブな印象を持っていなかったのですが、『天久ラジオ』の企画が上がってきたときに「アニラジに対して本気で向き合おうとしてくれているのかな……?」と感じました。

違う分野から来た人との仕事ってワクワクしますし、自分が好きなものを作っている人とご一緒できる機会もなかなかないので、私も企画をいくつか持っていったらなぜかドン引きされて(笑)。「なんだこの人」と最初はかなり探っていました(笑)。

石井 『GNOSIA RADIO』も佐倉さんは人柄や性格を知っているので問題ないんですけど、ほかのキャストさんに対してはドキドキしながら企画を出していました。「怒られるかもしれない」というリスクを抱えていましたし、収録中も「話しかけられたらどこまで返していいのか」というのは常に考えていましたね。

佐倉 たしかに声優という生き物に慣れていないからか、たまに不安そうな連絡が届きました(笑)。

石井 変なことを言うと作品に迷惑がかかってしまうので、様子を見ながら収録に臨んでいました。

──石井さんが思う佐倉さんの“しゃべり”の魅力は?

石井 すごく将来性があるパーソナリティだと思います。自分をさらけ出せるというのは大事なことですし、そこでストップをかけると面白くなくなってしまうんですよね。

佐倉さんは女性声優という立場ですが、『天久ラジオ』内で人間ドックを行ったり、その結果を面白く伝えられるというのはパーソナリティに必要なことだと思います。この先もさらに進歩していくんじゃないかなと思います。

──佐倉さんは、石井さんの言葉を受けていかがでしたか?

佐倉 石井さんは対等に接してくださるので信用していますし、目の前でけなされたと思いきや裏で褒めてくれていたりもするので、手のひらで転がされてるんだろうなと思っています(笑)。

私たちは結果がよくないと評価されにくい職業だと思うのですが、そのなかでも結果を出して突き進んでいる石井さんを見ていると元気がもらえますし、「この世界ってもっと自由でいいんだな」と実感します。

お互いに褒めつつけなしつつ(笑)一緒にものづくりができるというのはとても有意義なことだと思うので、これからも面白いことを共有していけたらうれしいですね。

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渡辺美咲

スポーツアニメ・漫画作品を中心に愛するライター。定期的にコラボカフェや展覧会などにも足を運んでいる。