「あのときの私と、あなたを救ってあげたい」──そう語るのは、歌手の和田彩花。15歳から24歳まで、女性アイドルグループのメンバーとして活動していた。
本連載では、和田彩花が毎月異なるテーマでエッセイを執筆。自身がアイドルとして活動するなかで、日常生活で気になった些細なことから、大きな違和感を覚えたことまで、“アイドル”ならではの問題意識をあぶり出す。
今回のテーマは「アイドルと労働環境」。グループに所属していた時代の“アイドルの働き方”から、「契約」「報酬」「休み」などの労働問題を考える。
目次
今の時代に「価値観を支配されること」の恐ろしさ
アイドルの労働問題を語るとき、私が経験した中で特に問題視するのは、これまでさまざまな回で話してきたように「価値観を支配されること」。
どんなに言葉にして伝えても、しょせん私の苦しみでしかなく、誰にどう伝わっているのか、正直わからない。この連載を読んだとメッセージをくれる人もいるけれど、私が関わってきた人数を思い出すと、あまりに少数の人たちにしか届いていない気もする。
同時に、個性や多様性を尊重する今の時代に、「価値観を支配される」感覚はわからなくて当然だろうなとも思う。

アイドル時代に「アイドルだから」という理由で制限される自己表現や自由のおかしさをマネージャーさんに伝えるために送ったのは、青空文庫で見つけた与謝野晶子さんの「『女らしさ』とは何か」という文章だった。
自分の言葉では説明できなかった時期に、私を支えてくれたもの。ここに書かれている与謝野さんが生きた時代の「女らしさ」の窮屈さは、今の(当時、平成)アイドルにも通じるし、同じことなんだと訴えたのを覚えている。
明治から昭和初期に活躍した与謝野晶子さんの女性論が平成に通じるというのは、平成の(または今の)アイドル界の価値観が、明治・昭和と女性に強いてきた規範そのものであることがわかる。
そう考えられるようになったときには、絶望しか残っていなかった。アイドルの世界の当事者でありながらも、当事者でさえなぜか認識できない歪な世界にいたのだと。
そりゃ何年経っても、うつはよくならず、安全圏だと思うエリアから一歩外に出れば、嫌だったことを思い出しては、自分を責め続けるしかない人生になってしまった。
だから、価値観を支配されることの恐ろしさをずっと語っているのだ。
一方で、アイドルの労働環境を語るときに欠かせない問題といえば、やはりその待遇についても話さなければいけない。
みんなが大きな会社に所属しているわけではないし、個人で活動するアイドル、さまざまな地域のご当地アイドルとして活躍する方々は、もっと根本的な契約について、または給料や報酬などに問題を抱えている。
アイドルの労働環境に関する実態については、私が特集の編集として参加した『エトセトラVOL.8』(特集:アイドル、労働、リップ)でまとめたアンケートをぜひご覧いただきたい。
労働の対価をもらえない…アイドル業界では「よくあること」?
アイドルによくありがちな業務委託契約で活動を始めたと想定して、話を進めよう。業務委託であれば、私たちアイドルは会社と対等な関係で仕事をしていける。
今、私が個人で働いているのと変わらず、その仕事を受けるか否かを決められて、時にはギャランティの交渉をする必要があるかもしれない。
しかし実態はというと、仕事を受けるか否かの判断をアイドル本人ができなかったり、そもそも意見を聞いてもらえなったりする。というか、会社側やスタッフのほうが立場が上、または下であるかのような対等ではない関係で結ばれているかもしれない。
加えて、与えられたスケジュールどおりに仕事をこなすしか術がなく、個人の予定を立てることができない状況であるかもしれない。
一番重要な「報酬」に関しては、最低賃金以下であるかもしれないし、ここまでがんばったら報酬が出るなど、適当な言葉で言いくるめられて、未払いになるかもしれない。
ここに書いたことが“よくあること”になってしまっているのが、これまでの、そして現在進行形のアイドル業界だ。

私は、ひとりで生きていける分のお金はいただいた(そもそも給料や報酬に関して、「いただいた」というのはおかしい。誠意を見せないと理解不能な反論に囲まれて主張がぼやけるので、便宜上「いただいた」と言っておく)。
そう言うと、以前「お金をもらって、海外旅行しているのに、なぜ不満を言うのか」というメッセージがInstagramに届いたのを思い出す。
そもそも、労働の対価をもらうことは当たり前なはずなのに、なぜお金をもらっていたら労働環境やその問題点について話をしてはいけないのだろうか。
そもそも私がどうお金を貯めて、どう使おうが自由であるはずなのに、いつもアイドルは仕事に対して“ありがたさ”を感じて、またはそれを言葉にして活動しなければいけない。
「活動させてもらっている」「歌わせていただいている」──実際、現役のときに私も使っていた言葉の数々だ。そう言えとは誰にも言われなかったのに。
これらの言葉に窺える姿勢は、その場を提供している(?)会社なのか、スタッフさんなのか、そういった人たちと対等な関係ではない。
アイドルは、何かを犠牲にしないと輝いてはいけないのだろうか。
そもそも会社もスタッフさんも、仕事としてやっているのであって、「夢を見る場所を提供している」「活動させてやってる」と思うのであれば、その場の構造が不均衡すぎるのではないだろうか。
業務委託契約を交わしているのなら、「させてもらっている」「いただいた」なんて言う必要はないことに気づく。
「アイドルの労働組合」を作りたいのに
これはなにもアイドルに限った話ではない。あなたの契約をもう一度、確認してみてほしい。
「労働者」として会社と契約しているのであれば、話は変わってくる。それでも雇われる側の権利は当然持っているので、労働組合を通して社内での問題を改善するために動けるはずではないだろうか?
私はアイドルの労働組合を作りたいと思っていたけれど、労働者が雇用主に働きかける一般的な労働組合とは異なり、業務委託契約などのフリーランスでまとまり、雇用主に働きかけなければいけないので、ハードルが高いと聞く。
そもそも、労働組合を作った時点で仕事を失うリスクがあるらしい。そんなことで依頼を取りやめるクライアントとは仕事する必要ないとつい思ってしまう性格であるが、生活のため、または私のイメージに影響することを考えると、なかなか慎重になってしまう。
個人になったら労働組合を作りたいと思っていたけれど、なかなか身動きが取れないのは、こんな状況に悩まされているからだ。
「がんばらなきゃいけないタイミング」に犠牲になるもの
それから、少し話しにくいけど、「アイドルの休み」についても。
最低限の休みはあってほしいと願いつつ、正直、がんばらなければいけないタイミングがあるのもわかる。
実際、私がデビューしたときは半年に1回休みがあるかもわからなかった。けれど、そのときにしかできない経験や露出をかなりやらせてもらった(あ、また「やらせてもらった」と言ってしまった)。あの活動量がなければ、グループが注目されることはなかったと思う。
または、私のように大学とアイドル活動の両立で、自ら忙しくなっている場合もあるだろう。大学との両立はそれなりに大変だけど、私の人生でとっても幸せな時間になったし、そのときの学びが人生の財産になったと胸を張って言える。
自分のやりたいことや好きなことのためなら、寝る時間を惜しんでがんばってしまう気持ちもわかる。そのときにしかできないことだし、私は寝る時間を惜しんでがんばってよかったと思えている。

けれど、その犠牲になるものもある。それは「健康」だ。2カ月に1回は風邪を引いて、それでも学校にも仕事にも行った。
そういうタイミングが人生のどこかにはあってもいいかもしれない。けれど、ずっとこの生活ではいけないことは知ってほしいし、心身ともに健康でなければ、これからの人生を楽しめないこともぜひ知ってほしい。
バランスよく働くためには、がんばる時期を見極める必要があるし、会社側は「休ませるためのスケジュール」さえも頭に入れなければいけないのかもしれない。
ずさんな管理のアイドル運営は、身を引いてほしい
アイドル業界の歪んだ考え方や雇用形態、働き方を問題として見つめるためには、アイドルを「仕事」として捉え直す必要があるのではないかと思う。
一般的に、就職活動するときに大切にする条件はなんであろうか?
人によって答えは異なるが、「休みがある」「給料がある」「保障がしっかりしている」というのが、働く場所を選ぶ際、基本にする箇所だ。
アイドルを夢見ることは悪くないけど、契約に夢を見ることはぜひ控えてほしい。
アイドルになるときだけ、契約がない(または曖昧)、給料または報酬についても曖昧、保障もない、なんておかしいに決まっている。どんな理由をつけても正当化されてはいけないことだとはっきり言いたい。
ずさんな管理でアイドルを運営している方々がいるならば、ぜひ言いたい。そんなふうにしてしかアイドルを生み出すことができないならば、あなたには経営・運営・プロデュース能力はないので、アイドルを運営すること、プロデュースすることから身を引いてほしい。
アイドルになるための契約も「就職活動」と同じように
私がオーディションに受かり、会社に所属するときの出来事を、最近になって父が教えてくれたので、みんなにもシェアしたい。
私は、親の勧めでさまざまなオーディションを受けさせられ、最終的にはいくつかの芸能事務所が候補となった。どれも大手の芸能事務所だった。
親を含めた面談で、父が給料・報酬の仕組みを聞いたところ、あるところでは「売れなければひとつも報酬が発生しない」と言われた。
“売れる”の基準は、誰もが名前を知っている俳優のレベルだったという。大手でもそういった曖昧な状況が当然のようにあるので、ぜひ注意してほしい。

父は自らの経験を含めて、労働環境や給料体制をきっちりと会社側と話してくれて、判断してくれたから幸いだった。
しかし、親が契約や雇用形態の違いがわからない場合もあるし、そもそも親には話さず、オーディションを受ける人もいるだろう。信頼できる相談先がないまま所属を決める人もいるかもしれない。
違和感を抱いたときは、ぜひこのエッセイを思い出してほしいし、夢を追うことを過度に特別視せず、一般的な就職活動だと思って考えてみてほしい。
そして、「夢だから」「やりたいことをやらせてもらう」なんて言葉のおかしさに気づいてほしい。
どんな業態でも、業界でも、仕事は仕事だ。労働に対価は必ずつくものだし、人間として最低限の生活を送っていく権利を持っていること、権利を行使できることを忘れてはいけない。
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