2025年8月20日にリリースされたピーナッツくんのアルバム『Tele倶楽部II』。4年前の2nd『Tele倶楽部』の続編にあたる本作は、漢 a.k.a. GAMI、PUNPEE、幾田りら、Daoko、そしてファイルーズあい、魔界ノりりむ、轟はじめなど、まさにジャンルを横断する豪華な客演でも話題を呼んでいる。
5枚目を数えるこの最新アルバムから、どんなピーナッツくん像が立ち上がっているのか? 今年11月23日にバーチャルライブ『PQ』開催も決定するなか、「ぽんぽことピーナッツくん」特集(『Quick Japan』vol.177)2匹の対談企画にてインタビュアーを務めた北出栞が本作をレビューする。
5thアルバムで表現される新しい「リアル」
正直、油断していた。QJぽこピー特集号での取材時に、直接本人からバーチャルライブに懸ける熱い思いを聞いていたし、前作『BloodBagBrainBomb』(以下『ブバブボ』)も一聴してわかる力作で、その限界を超えた制作の現場についてもクリエイター陣含め話を聞いていたから、少なくともバーチャルライブの完遂まではそのモードで行くものだと信じて疑っていなかったのだ。
しかも、『Tele倶楽部II』である。「Tele倶楽部」だって? 今となっては盟友・nerdwitchkomugichanとの共同制作が本格化する以前の最後のアルバムといえ、多数のVTuberをゲストとして招くこと自体がコンセプトだったあの作品を、現在の、制作チームが固まり、音楽界でのプロップスも確実に高まったピーナッツくんが更新したらどうなってしまうのか……率直に言えば、疑問と不安が大きかった。

しかし今となっては、バーチャルライブの構想を聞いた時点でこの想像をしておくべきだったと思う。『ブバブボ』のモードとは、「脳を爆発させた」とまで言うほど自分の内側に向き合った、ある種の文学的でアート性の強いモードだ。それは全国4カ所のライブハウスを回った『ブバブボ』ツアーで見事に完遂されていた。
そもそも、ショートアニメ『オシャレになりたい!ピーナッツくん』がそのようなアニメだったように、ピーナッツくんにとっての「バーチャル」とは、さまざまな文脈、デザイン、属性、来歴を持ったキャラクターたちが、時空を超え交流するカオスとしてある。さまざまなアーティストとの競演、『POP YOURS』のような巨大フェスへの出演……ほかならぬピーナッツくんの「攻め続ける」姿勢によって、従来の音楽界、HIP-HOP界もピーナッツくんのホームグラウンドに引き込む準備が整ったのである。
『Tele倶楽部II』とは、11月に満を持して開催されるバーチャルライブ『PQ』の姉妹編となる、「もうひとつのバーチャルライブ」と言えるだろう。そして、「feat.魔界ノりりむ」と「feat.漢 a.k.a. GAMI」が並ぶ前代未聞のこの状況とは、私たちの迎えた新しい「リアル」でもある。

YouTubeという「帰るべき場所」
本作のモチーフとなったのは「プロム」(アメリカのティーンエイジャーが集まるフォーマルなパーティー)だといい、恋愛という枠に限定されない多彩な社交が表現されている。ゲストに迎えた女性VTuberとの虚実入り混じる(?)恋愛模様をテーマとしていた『Tele倶楽部』の、そういう意味では正統更新作といえる。当時は「なぜか出てきちゃった」(『KAI-YOU』掲載:ピーナッツくん『Tele倶楽部』制作秘話、全曲解説超ロングインタビューより)という攻撃的な、たとえばVTuberビジネスを痛烈に皮肉った「SuperChat」のような曲は一切入っておらず、曲順、リリックのストーリーテリング、ゲスト陣の配役含め、すべてが緻密に構築され、ポップで社会に開かれたアルバムという印象を一見して持たれるだろう。
では、それが「守りに入った」ということを意味するのかと言われたら、もちろんそうではない。先にも述べたとおり、このアルバムの真の狙いはピーナッツくんと私たちの生きる、新しい「バーチャル=リアル」を可視化するという点にある。
そこで重要な役割を果たしているのがアートワークだ。イラストレーター/映像作家のRyu Okuboによるポップでオシャレなその仕事は、いわゆるジャケ写のみならず、すべての楽曲に「Official Visualiser」と名づけられたループアニメーションが用意されている点で画期的である。
自分は1周目を音楽のみで、2周目を「Official Visualiser」と合わせて聴いたのだが、その体験はまったく異なっていた。HIP-HOPというジャンルは、リリックの内容やフロウによって、いかに自身の「リアル」を刻みつけるかというところに、芸術性のすべてが懸けられるジャンルだ。その必然として、リスナーの耳は言葉の意味やライミング(押韻)の技巧を追いがちだし、それを歌う本人のバックストーリー──インタビュー記事や、もちろん今であればラッパー自身によるインターネット上での発信──と照らし合わせながらその真偽を考察することもリスニング体験の中に含まれている。
しかし音楽としてのHIP-HOPは、意味やストーリーではなく、音そのものの気持ちよさを楽しむこともできる芸術である。「Official Visualiser」のシンプルで抽象的なアニメーションは、そうした楽しみ方への感度を高めてくれる。アニメーションの中では、VTuberのゲストも、リアルな肉体を持って活動するアーティストも等しく、彼ら彼女らの特徴を示す、抽象的な記号のみで構成されたキャラクターとなっている。この「通常思い浮かべる姿が、抽象的な記号に解体されていく」プロセスが、「意味やストーリーのレベルで追っていたリリックが、音の質感やリズム、メロディに解体される」楽しみ方を手助けしてくれる。
実際には、この「解体される」というプロセスは、「この記号は、あの人のああいう特徴だよね」と元の姿に「再構築する」プロセスとも同時に起きるものだ。3周目以降は両者の楽しみ方を、対立するものとしてではなく表裏一体のものとして体験できるようになるだろう。それこそがピーナッツくんの生きる新しい「バーチャル=リアル」を、私たちも当事者として体感するということなのだ。
そして最も重要なのが、「Official Visualiser」をしっかり楽しもうと思ったら、必然的にそれらがアップされている、ピーナッツくんのYouTubeチャンネルを訪れることになるという点である。QJぽこピー特集の狸豆対談で、「VTuber(YouTuber)は結局、YouTubeが土台。YouTubeをしっかりやっていなかったら、ほかにどんなことをしてもナメられる」という旨のことを話していたピーナッツくん(とぽんぽこ)。Podcast『ぽこピーのゆめうつつ』の第20回でも同じ内容を熱っぽく語っていたが、ピーナッツくんが今まさに生きている世界のリアリティを、その本拠地であるYouTubeチャンネルでリスナーも体感できるという構造がそこにはある。
「ピーナッツくんのYouTubeチャンネルにアップされた2Dのアニメーション動画」という文字どおりの意味でも、実に2021年10月公開の第43話以来なのだが、ピーナッツくんが今まさにその只中を生きているカオスが、アニメーションによって表現されているという意味でも、この「Official Visualiser」は『オシャレになりたい!ピーナッツくん』の正当続編といえるのである。

そして、以前は「自分が生きるのとは違う世界を描いたアニメ作品」として観ているだけだった視聴者も、すでにライブハウスや数々のリアルイベントで、そのカオスの一部となっている。そう、私たちはすでにピーナッツくんワールドの住人なのだ。
そのことを自覚した上で、来るバーチャルライブ『PQ』も鑑賞する……いや、そこに飛び込んでみるべきだろう。『Tele倶楽部Ⅱ』のジャケットに描かれたダンスフロアは、そのまま11月23日の自室やライブビューイング会場の映画館とも地続きになっている。本作は『PQ』と対をなす「もうひとつのバーチャルライブ」であると同時に、『PQ』へいざなうピーナッツくんからの招待状なのである。
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