<麻酔ダイイングメッセージ>伊集院光✕藤井健太郎「過激なもの」ではなく「見たことないもの」を作りたい【『KILLAH KUTS』特別企画】
ヤバい企画、地上波ではオンエアできない番組……とはいっても、ネット配信でのお笑い番組が多数誕生している昨今、視聴者のハードルも上がり続けている。その壁を軽々と越え、お笑いファンに衝撃を与えているのが、Amazon Prime Videoにて配信中の『KILLAH KUTS』(キラーカッツ)だ。
すでに物議を醸している企画も多く、その是非は別として……ここでは各エピソードでMCとして登場したタレントたちに、番組の感想を聞いていく。
<エピソード2>「麻酔ダイイングメッセージ」では、意識を失う間際に犯人のヒントを書き残す“アレ”を、なんと麻酔で再現する。
企画は、被害者役の芸人が殺されるまでのドラマパート、麻酔を打たれて意識を失うまでの間にダイイングメッセージを残す実践パート、刑事役の芸人が部屋に残されたメッセージから犯人を推察する解決パートに分かれている。挑むのは、モグライダー、ラランド、そしてみなみかわとお見送り芸人しんいち。なんとかヒントを残そうと芸人が奮闘する姿には真に迫ったドラマ性すら感じられる。
なお、麻酔はあくまでも医療行為であるため、専門の医師によって行われ、本来の目的である胃カメラの検査もしっかりと実施される。ミステリー&次々と気絶する芸人&お笑い。これを見届けるMCの伊集院光、そして企画者の藤井健太郎氏に話を聞いた。
※番組における麻酔の投与は胃カメラ検査を目的とし、医師による監修のもと安全性に配慮した上で、通常の検査で行われる方法と同様に実施しております。また、番組の性質上ご覧になられる方によっては、一部不適切と感じられる場合がございます。あらかじめご了承の上お楽しみください。
※日本麻酔科学会は2024年10月16日に公式Xを更新。具体的な番組名は挙げていないが「厳格なガイドラインに従って静脈⿇酔薬を適切に管理し、いかなる場合にも不適切な使⽤を避けるよう強く要請いたします」と声明を発表している。
<エピソード1>スポーツスタンガン:設楽統 インタビュー
<エピソード2>麻酔ダイイングメッセージ:伊集院光✕藤井健太郎 インタビュー
<エピソード3>政治信条で右折左折レース:カズレーザー インタビュー(近日公開予定)
<エピソード4>人狼童貞:さらば青春の光 インタビュー(近日公開予定)
フィクションより謎めいたものが生まれる、という事実
──まずは伊集院さんに伺います。今回の企画を聞いて率直に思ったことを教えてください。
伊集院 藤井さんからお誘いをいただいた時点で「またおもしろいものに関われるかな」と、具体的な企画を聞く前にOKを出したんですけど、結果、もう断れないタイミングでこの内容を聞かされました(笑)。よく「地上波では放送できない」ってキャッチフレーズがありますけど、もう言葉に手垢がついてきちゃってるじゃないですか。その言葉の限界を想像はしてたんですけど、まあ超えてましたね。
──藤井さんは発案のきっかけは?
藤井 レギュラーでやっている『水曜日のダウンタウン』(TBS)という番組の特質上、ハイペースで日々いろいろな企画や新しいことは考えているので、ネタのストックも溜まっていくんですね。で、その中には「地上波にはハマらないな」「ちょっと無理だね」というものも当然たくさんあるんですよ。
──なるほど。ストックの中のひとつがこれだったと。
伊集院 でも『水曜日〜』でやっている内容も、地上波に向いてるかっていうとそんなことはないじゃないですか。藤井さんの中に「ここはクリアしてないとさすがに地上波はダメだな」という線引きがちゃんとあるんですね(笑)。
僕が感心するのは、「地上波で怒られる企画を探そう」という形ではやってないところですよ。「おもしろいことしようぜ」のあとに、「あ、これは地上波の線を超えているからほかに出すところは……」という順序がありそう。
藤井 地上波でやっている番組を含めて「過激だ」と言われることも多いんですが、別に過激さを求めているわけではなくて、あくまで「おもしろいもの」「まだ見たことないもの」がやりたい、見てみたい、というだけなので。「過激だからほかがやっていなかった」ではなく「発想自体がなかった」ものをなるべく実現していきたいとは思っています。それに、この企画も過激かと言われるとまたちょっと種類が違う気がするんですよね。
伊集院 医療行為部分は医師と専門家が行うというラインがあり、医療スタッフの動きを見ても、あくまで素人目にですが、そこはちゃんと担保されてるんだなと感心しました。その安心感をここで僕が語ることがおもしろさを削ってしまうかもしれませんが。
──医療行為の部分としては、私自身、人が麻酔で気を失っていく姿を初めて見ました。
伊集院 僕はあれを見て、哲学的なところまでいっちゃいました。幽霊の存在は信じてないんですけれども、設定上、麻酔で意識がなくなった瞬間を「死」とするなら、そのあとの正式な胃の検査の最中に、「もっとメッセージが書きたいー」ってうなされているシーンがありまして、あれこそが怨念のようなものなのかなと。残留思念というか。ああ、幽霊ってこういうふうにものを見てるんだと。
たとえばパートナーや子孫に伝えたいことはあったのに、僕はもう死んでしまっているから無念だという、そんなところまで感じました。……大袈裟かしら(笑)。
藤井 しかも、その自覚は本人にないですからね。まさにですよね。
伊集院 そうなんです。本人は死んでると思ってない……麻酔で落ちてないと思ってるから、そこはみなさんにはゲラゲラ笑って見ていただきたいんですけど、そのあたりに僕は考えちゃうことがあって。この笑いは「誰もやったことがない」というよりは「感じたことがない笑い」で、本当に勉強になりました。
──ほかに印象に残っている場面はありましたか?
伊集院 ラランドのニシダくんの怨念です(笑)。ニシダくんがこの世にいろんな気持ちを残したまま意識をなくされたので、そこでハプニングが起こるんですけど、あそこは……。テレビってあまりによくできてると、「これは絶対台本が全部ある」と言う人がいるんだけど、とてもじゃないけどそんなことはできませんっていう。藤井さんのチームはおもしろくなる仕掛けはきめ細かく作るけれども、そこから発生するものを予想内も予想外も拾い続けるという……どこまでカットされてるか分かりませんけど。
藤井 マンガの『アイアムアヒーロー』(花沢健吾/小学館)のシステムみたいでしたよね。死ぬ間際の意識が残っていてそれをやり続けるという。
伊集院 走高跳の選手が、ゾンビになっても高跳びをずっとしてるストーリーがありましたね(笑)。
藤井 あれみたいにニシダさんは書き続ける……。
伊集院 書きたくてしょうがない。言い残したことがいっぱい出てきちゃうっていう。
藤井 もしあのマンガだったら「まだ足りない」ってずっと何か書いてるゾンビになるでしょうね(笑)。僕自身は、やっぱり全体を通して、麻酔の作用に抗っているさまがおもしろかったです。死に抗うという疑似体験じゃないですけど、意識が遠のいていくなかで、「何かを書き残したい」と抗っている姿は強烈で、変な話、自分でもちょっとやってみたいと思いました(笑)。
伊集院 推理もののアニメなんかを見ていると、ダイイングメッセージなんて「犯人のフルネームも書けるんじゃないか」「なんで最後の1文字が書けなかったり読めない字なんだ」と思ってたんですけど、本当にそうなるんだ、とまざまざと見せつけられました。しかも、フィクションより謎めいたものを、遠のく意識が自然に作っちゃうんだという事実に感心もしました。
──最後にメッセージを。
伊集院 まず、この「麻酔ダイイングメッセージ」と同じようなバラエティを見たことがある人は、僕はいないと思います。年を取ると初めて見るものを嫌悪することもありますが、ある程度の年齢になって新しいバラエティに出会うというのは、すごい体験だと思います。門の前でびびってる人は、単純におもしろいかどうかだけで入っていけばいいと思う。そして、そういう人生のほうがきっと得だろうなと僕は思います!
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