10月12日(土)にTBSで生放送された、カーネクスト presents『キングオブコント2024』。接戦を制し、“日本一のコント師”に輝いたのは、第1回大会から挑戦し続けてきたラブレターズだった。
優勝までの17年、『キングオブコント』とともに歩んできたふたりの歴史を振り返る。
結成4年で決勝。順調なスタートを切るも…
「ずっと負け続けてきた人生だったんで、まさか自分の人生で勝つシナリオがあるとは思わなかった」
今年の『キングオブコント』(TBS)優勝直後に出演した同局の『情報7daysニュースキャスター』でラブレターズ溜口佑太朗は、そう言って喜びを噛みしめた。
2年連続5回目の決勝進出となった今年の紹介VTRでは「『キングオブコント』の歴史をダウンタウンさんの次に知ってる」と語っていたように、ラブレターズは『キングオブコント』とともに歩んできたコンビだ。そしてそれは“敗北”の歴史でもあった。
そもそも彼らが芸人の活動を始めたのが『キングオブコント』が始まった2008年の8月。その月の10日、初舞台としてふたりが選んだのが『キングオブコント』の1回戦だった。アマチュアとして“記念受験”的に出場した予選会場で、準優勝することになるバナナマンのスゴさを目の当たりにして衝撃を受け本格的に芸人を志した(ちなみにこのときは1回戦負け)。
2009年に正式にコンビを組んだ彼らは『キングオブコント』に挑戦し続け、初めて決勝の舞台に上がったのが結成わずか4年目の2011年だった。「無印(ノーマーク)のシンデレラボーイ」というキャッチフレーズだったことが物語るように「ほぼ無名。謎のファイナリスト」だった。彼ら自身も紹介VTRでも「はじめまして、ラブレターズです、よろしくお願いします!」と初々しくあいさつしていた。
出番順は優勝することになるロバートの次。その余韻冷めやらぬなかで登場するという不利な状況ながら、今も彼らの代名詞として語り継がれる『西岡中学校』のネタで大きなインパクトを残した。
この年は、芸人審査で全組が2本披露するというルール。2本目はマスクマンの学生・平田と先生とのコント。この点数が伸びず、8組中7位で終わった。
その3年後の2014年に2度目の決勝進出。この年も芸人審査は変わっていないが、ファーストステージは一騎打ち方式で勝ち残った5組でファイナルステージを戦うという形式だった。
ラブレターズがファーストステージで対戦したのは、この年のファイナリストの中で最も芸歴が長かった犬の心。「いじめられっこの逆襲!王者になって奴らを見返せ!」と煽られたラブレターズは、「手術前の子供の前に野球選手がやってくる」という定番のフォーマットを崩していくネタで戦ったが、7対94という最も大差がつく惨敗に終わってしまった。
司会だった松本人志は「ここにきてまたいじめられるか?」と笑わせた。
さらに2016年。同じ事務所のムロツヨシから「そろそろ主役になるときです」とエールを送られたラブレターズは2番目に登場。『西岡中学校』と並ぶ代表作『野球拳』を披露する。
「人生とは困難の連続でありまして、モヤモヤが溜まっている方がたくさんいらっしゃると思います」
そんな口上から「野球拳」のメロディが流れ、1年目で巡ってきたチャンスでスリーバントを失敗したことで苦境に立ってしまう野球部の少年の顛末が溜口の美しい声で歌われる。どこかラブレターズの芸人人生を思わせるような歌詞だ。
だが、歌ネタはどうしてもこの手の賞レースでは点が抑えられがち。前年から松本とさまぁ~ず、バナナマンの5人に変わった審査員たちの評価は辛く、最下位に沈んだ。
5度目の決勝でついに差した“光”
ここからラブレターズにとっては厳しい時期になっていった。大会が世代交代を意識したのか、常連組がなかなか決勝に勝ち上がるのが難しくなっていったのだ。ラブレターズも2017年から5大会連続で準々決勝敗退。それでも彼らはあきらめなかった。
2022年に準決勝に進出すると、翌2023年、実に7年ぶりに決勝に進出したのだ。
審査員は、松本のほか、歴代王者たちに変わっていた。その中には、初出場時に直接戦ったロバート秋山竜次もいた。機は熟した……はずだった。
最後の10番目に登場したラブレターズは「溜まったものを吐き出して全部ぶつけます」と意気込み『義母と隣人の間に』を熱演。しかし、松本ら審査員から「おもしろい」と評価されるものの順番も災いし、「ごめんねぇ」としきりに謝られ、点数は伸びず6位に終わった。
「こういう人生なのか……」と思ったという。
そして初めて2年連続で決勝の舞台に立ったのが今年の『キングオブコント』だった。
今回の審査員は松本に代わって、シソンヌじろうが入り全員が歴代王者に。『キングオブコント』は審査員や大会の形式がさまざまな変遷をたどっているが、その多くをラブレターズは経験していることになる。まさに『キングオブコント』とともに歩んできた。
今年はファイナリスト常連が多く、1組目のロングコートダディから高得点が続く史上稀に見る大接戦となった。
そんななか、昨年に続きラスト10組目で登場した彼らは、事前の会見でも「若い子たちにできない戦い方をしなきゃなっていうのは、ここ2~3年しゃべっていて。やっぱり、この年重ねた状態でやれるコントは若手の子たちよりもまあ強く出せるんじゃないかな」(溜口)と語っていたが、ついに本領を発揮した。
初出場のときは中学生を演じていた彼らも、今ではその親世代を演じるのが似合うようになった。
「いいコントは哀愁を感じるコント。哀愁という意味では今大会一番」と東京03飯塚悟志が評したように、引きこもりの子を持つ親を描いた、年を重ねたから出せる哀愁漂うコントで1点差の2位タイに食い込み、初のファイナルステージ進出を決めたのだ。このコントのタイトルは『光』だという。「負け続けてきた」芸人人生に光が差した瞬間だった。
そしてファイナルステージでは一転、「どうしてもやりたかった」(塚本直毅)という、わけのわからないカオスな設定のバカコントを披露。
「決勝の大事な舞台でなんてカオスな設定のネタをするんだって。それがおもしろかった」(山内健司)、「わけなわからない変なドラマに吸い込まれて」(秋山)と称賛される一方で、「要素が多すぎるわりにはお客さんに伝わってなかった。釣りの要素いるのかな?って」(じろう)、「どこに向かっていってるのかな?って。結局なんの話だったのかな?」(小峠英二)、「ストーリーがもうちょっとあったほうがいい」(飯塚)などとダメ出しもされるが、最終的には「一番バカなネタを持ってきた」(山内)ラブレターズが、競り勝ったのだ。
優勝したのにダメ出しされるというのも実にラブレターらしい。「いじめられっ子の逆襲」だ。
困難の連続だった芸人人生のモヤモヤを「哀愁」に変え、思いっきり「バカ」を吐き出した。
「そろそろ主役になるとき」と言われてから8年。ついにラブレターズが「主役」となったのだ。どんぐりをぶちまけるようにテレビでも思いきり弾けてくれるに違いない。
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