今年そろって50歳を迎えるサンドウィッチマン。結成26年目もお笑いシーンの第一線を走り続ける彼らは、今も変わらぬその郷土愛で東北の人々から慕われる存在でもある。
本稿では、2024年2月20日(火)発売の『クイック・ジャパン』vol.170に掲載した80ページ以上にわたるサンドウィッチマン総力特集から、伊達みきおのロングインタビューを一部抜粋して公開。確固たる地位を築いた自身を振り返っての率直な思い、そして芸人として東北の復興支援を続ける意味とは。
“理想像”はない
──昨年、コンビ結成25周年、今年は50歳を迎え、節目が続きます。
伊達 いやぁ、50ってなかなか重いですよね。
──ここ最近のサンドウィッチマンは、キャラクターや見た目と年齢が一致して、ますますしっくりくる気がしますが。
伊達 たしかにそうなんですよ。「もう50歳だよ!」って大騒ぎしてますけど、実はそこまで深く考えてない。まぁ3年前に病気もして、がんサバイバーであることは間違いないので、体調面はさすがに気をつけるようになってきましたよ。食事もタバコも少しは節制しながらね。我慢はしないけど。
──このインタビューでは、従来の芸人像とは違うかたちで、芸能界をのぼり詰めたサンドウィッチマンの現状について、伊達さん自身がどう思っているのか聞きたいんです。テレビで観ない日はなく、ライブにも出続けています。この状況は売れる前には想像できなかったと思うんですが、当時の理想像って覚えていますか?
伊達 そもそも上を見れば大御所がまだまだいますし、実力と勢いのある若手もたくさん来てるんで、全然のぼり詰めてはないんですよ。理想像っていうのも昔からないです。世に出る前はテレビでネタやりたいだけ。MCとか冠番組とか一切考えてなかったですね。
──2007年の『M-1』優勝後、テレビに出まくった時期には、次の目標もできましたか。
伊達 それもないです。一度、爆笑問題の太田(光)さんに「どうやってテレビに出ていけばいいですかね」って相談したことがあるんです。『タイタンライブ』に出させてもらったときですね。フリーでやってたんで直属の先輩もいないから、ここぞとばかりに聞きました。そしたら太田さんは「今は踊らされるだけ踊っとけばいいんだよ。サンドウィッチマンをどう使うかは、テレビ局が考えることだから、それに乗っかればいい」と言ってくれて腑に落ちました。その言葉もあって、自分たちをどう見せたいかってことにはこだわらなかったですね。あと、くりぃむしちゅーの上田(晋也)さんにも『おしゃれイズム』(日本テレビ)に出たとき相談したんですけど、そのときは「全部ボケようとしなくていい」と言ってました。
──百戦錬磨のMCならではのアドバイスですね。
伊達 そうそう、「MCがなんとかするんだから、無理してボケなくていいんだよ」と言ってました。若手は爪あと残そうとして、話題を振られるとフルスイングしてスベってばっかりだけど、そんなことしなくていいって。
──富澤さんも前に出ていくタイプのボケじゃないから、そう言われるとホッとしますね。
伊達 そうなんですよ。アイツはほぼしゃべらないから少し心配してましたけど、このままでいいんだなと安心しましたね。
「いい人」はやりづらくてしょうがない
──私も娘と一緒にサンドウィッチマンのレギュラー番組である『帰れマンデー(見っけ隊!!)』(テレビ朝日)や『バナナサンド』(TBS)、『(サンドウィッチマン&芦田愛菜の)博士ちゃん』(テレビ朝日)、『THE突破ファイル』(日本テレビ)を毎回楽しく観てるんですが、たまに思うんですよ。おふたりが若手のころは、こういうタイプの番組に出るとは想像しなかったんじゃないかって。
伊達 たしかに目指してた方向ではないんですけど、自然とこういう立ち位置になってきた。今はその立ち位置をまっとうするだけですね。太田さんが言ってくれたように、スタッフがサンドウィッチマンの使い方を考えてくれてるんで、それに乗っかるだけ。僕たちに何が求められているのか、番組ごとにわかるようにはなりましたよ。ただね「人を傷つけない笑い」とか「いい人」って言われることだけは、よくわからない。
──意図しているわけではない?
伊達 全然ないです。ほかの芸人と同じように気をつけてるだけで。なんだったら過去のネタには今から考えるとアウトなものもけっこうありますし、根っこは全然“いい人”じゃないんですよ。ただでさえ今はネタも作りづらい時代で、笑わせること以外に考えることが多くて。この20年は激動ですよ。「これがおもしろい」を提示するだけじゃダメな世の中になって、そこはキツい。この時代に「いい人」って思われちゃうとね……。
──伊達さんでもやりづらいと感じているんですね。軽やかにフィットしているとばかり思っていました。
伊達 大変ですよ。すごくいい人に見られるけど、全然そんなこともないから。見た目どおり、優等生でここまで来てるわけじゃないですからね。「いい人」っていう見られ方が続くのはすごく怖い。僕らはドリフ(ザ・ドリフターズ)で育ってきたけど、今ああいうことはできないでしょ。頭ひっぱたくことすらできない。ハリセンも使えないっていうんですよ。あんなの痛くもなんともないのに。本当ならやりたいですよ。単純に「おもしろい」っていうふうに見てもらえる時代はもう来ないんじゃないかなって寂しいし、やりづらいです。お笑いの表現の幅はどんどん狭まってる気がしてますね。
──好感度が高いぶん、ワンミスで足元をすくわれるリスクも高くなりますよね。
伊達 まあまあ、そういうふうに見られるのは悪いことじゃないんですけどね。でも、少しずつ崩していけたらいいのになとは思ってます。芸人なんて「いい人」だと思われたら、やりづらくてしょうがないですから。
──サンドウィッチマンのネタを思い返すと、「いい人」というイメージにはほど遠いですよね。伊達さんはちょっと高圧的で柄の悪いキャラクターを演じますし、そもそも『M-1』では指がトッピングされた「けじめピザ」なんてワードもあって物騒でした。
伊達 そうなんですよ、根本的に柄が悪いんです(笑)。当時はそういうはみ出した部分を含めて評価してもらえてたんですけど、いつからか風向きが変わっちゃいましたね。いい人って言われすぎるのは、正直キツいですよ。
あの悲惨な出来事を忘れないでほしい
──サンドウィッチマンは『弔事』や『葬式』『エンディングノート』といった「死」をテーマにしたネタも印象的です。伊達さんは祖父の死をきっかけに、人はいつか死ぬから好きなことをやりたいと思い、芸人になったそうですね。伊達さんは“死”とも向き合っている印象があります。
伊達 そうですかね? たしかに『エンディングノート』は俺が病気したのをきっかけにできたネタではありますけど、そんなこと考えたことないな。でもやっぱり東日本大震災以降、人の死は具体的になりましたね。震災前はもっと雑に「死ねよ!」ってツッコんだりしてたんだけど、しばらくそういうことは言えなくなった。それは不謹慎だから自粛したわけじゃなくて、気仙沼で大勢の命を奪ったあの津波を目の当たりにしたからね。言えないですよ。
──サンドウィッチマンは目撃者であると同時に、一歩間違えたらご自身たちも津波に飲まれていたかもしれない。
伊達 そうですね。スタッフの指示で高台に避難して無事でしたけど、平地に残る選択肢もあったんです。せっかく目の前は海だしカメラマンもいるから「津波、撮れんじゃねぇの?」って言ってました。結局そこに7メートルの津波が来たんですよ。逃げてなかったら間違いなく死んでた。なんかね、たまたま目撃して生き残ったっていう意味では、俺たちが伝えなくちゃっていう使命感を勝手に背負っちゃった部分はあるんです。
──芸人として震災に向き合うのは大変だったと思います。
伊達 当然そこは悩みましたけど、僕らは芸人である前に宮城県民だったんです。たまたまメディアに出る人間だから、僕らが見た悲惨な光景を伝え、復興への協力も訴えなくちゃいけないと思いました。震災から少し経ったころ、「サンドウィッチマンを見ると、震災を思い出して笑えない」とも言われましたけど、それはそれでいいんです。僕たちはあの悲惨な出来事を忘れないでほしくて発信してるんだから。笑えないのは僕らの実力のせいなんで、そこがんばりゃいいじゃんと、いい意味で開き直りました。
──今でも被災地に通っています。
伊達 人間って忘れていく生きものだから、震災が過去のことになっていくのは仕方ない。でも我々だけでも絶対に覚えていようってことで、仙台の番組で月に1回被災地に行ってるし、毎年3月11日は気仙沼に行きます。今でも「東北って今どうなの?」って気にかけてくれる人がいるんで、そういう声に応えられるように、常に見ておきたいんですよね。
──そこまで背負うのはなぜですか。
伊達 あの津波を目の前で見たら、誰でも同じ動きをすると思いますよ。少し経ってから南三陸町の遺体安置所にもひとりで行ったんです。それも忘れないためだったし、全国の人に伝えるためでした。とんでもない数のご遺体が体育館に並んでて、その傍らでみんな泣いている。それを見たらもう「芸人だから」とか関係ないです。助かった人間がやるべきことはなんだろうと考えてしまいますよ。
──芸人としてではなく、ひとりの人間として向き合ったと。その一方で、「歌の力はすごい」とおっしゃられたこともあります。
伊達 そうですね。当時はドリカム(DREAMS COME TRUE)さんを筆頭にいろんな方が被災地に入って歌を届けてくれて、みんな涙を流したり、少し前向きになれたりね。やっぱり音楽の力はすごい。こないだお亡くなりになった八代亜紀さんも震災直後から被災地の集会場で歌ってくれて、ありがたかったな。有事の際にはね、お笑いにはなんの力もないです。それをあの震災で痛感しました。(ビート)たけしさんもおっしゃってたんですけど、 お笑いっていうのは平和だから笑える。いざというときには、なんの役にも立たなかった。
──いつごろから被災者の心にお笑いが届くようになりましたか。
伊達 2年後くらいかなぁ。「ネタやって!」って声が増えるまでにはそれぐらい時間がかかった。震災直後に避難所でネタをやろうとしたこともありました。でも僕らに目を向ける人がいない状況では、さすがにできなかったですね。毎月通うことで少しずつ受け入れてもらえたように思います。
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